「シルバー人材センター」で紹介された公園清掃バイト。実働4時間で日当8000円、雨が降ったら休み…78歳男性が語る<高齢者に優しい仕事内容>とは
内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、65歳以上の就業者数は年々上昇しており、21年連続で前年を上回ったそうです。そのようななか、65歳の林山翔平さんは「十数万円の年金だけでは生活に余裕がない」と危機を感じ、雇用延長の途中から「定年バイト」の就活を開始しました。そこで今回は、林山さんの著書『年金だけじゃ生活できない!「定年バイト」奮戦記』より一部を抜粋し、定年バイトの実態をお届けします。
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実働4時間で8000円 公園清掃は高齢者に優しい仕事
70代後半といえば、普通なら仕事を引退してのんびりする年齢だが、逆に肉体労働を始める人もいる。私の知人にはそうしたポジティブな生き方をしている人が少なくない。都内在住の勝俣さん(仮名)がそうだ。
「体を使って働くのは楽しい。80歳を前に生き甲斐を感じていますよ」
勝俣さんは2年前から都内の公園で清掃のアルバイトをしている。自治体のシルバー人材だ。現在78歳。長年、不動産管理会社のサラリーマンとして働き、60歳から5年間雇用延長。その後は会計事務所の顧問を10年ほど勤めてデスクワークを引退した。
今は自分の年金が月額15万円。これに妻の年金5万円を合わせ、月に20万円を受け取っている。サラリーマン時代に買った一戸建ての家を6500万円で売り、中古のマンションを5000万円で購入。子供たちは結婚して家を出たので妻と2人暮らしだ。
その勝俣さんが清掃のバイトを始めたきっかけはボケ防止だった。
「何もしないと頭がボケてしまう、何か仕事をしたいと思い、区役所に相談しました」
区役所でシルバー人材センターの担当者を紹介された。担当者は20代の腰の低い男性で、ぜひとも働いてもらいたいという熱意を放っていた。
屋内の仕事は狭き門
勝俣さんは区が運営する施設の受付係を希望した。スポーツセンターや文化センターには70代の男性が受付に座り、訪問者の質問を受けたりしている。その光景を思い出し、「ラクそうだから、やってみたい」と思ったのだ。だが期待に反して、
「屋内の仕事は人気が高いので狭き門。現在は空きがありません」
と宣言された。そのため働くのを諦めようと思ったら、
「ちょっと待ってください。健康のため屋外で働きたがる人も少なくありません。勝俣さんもトライしてはどうですか?」
と持ちかけられた。
「健康のため?」
「ええ。体を動かしていたほうがアンチエイジングになるんです。本当です」
こう言われて、なるほどと思った。幼友達はみな仕事を辞めて家でプラプラしている。彼らの多くが年齢より老けて見えるのだ。
担当者はたたみかけるように言った。
「屋外で働くと日光を存分に浴びるせいか、肌が若返るみたいですよ」
本当に日光に若返り効果があるのかはわからないが、この言葉が決定打となって勝俣さんはシルバー人材の屋外労働を決めた。その際にこう考えた。
「どうせ屋外で働くなら植木屋をやりたい」
植木屋は子供のころからの憧れの仕事で、シルバー人材にもある。だが妻や子供たちから「木から落ちたら大変だ。やめてくれ」と止められて見送った。
公園の清掃
そんな折、担当者から「公園の清掃をやっていただけませんか」との要請がきた。
「私にできますかね?」
「大丈夫です。何だったら一度公園を見学して現場で働いている人たちの話を聞いてください」
こんなやりとりの翌日、公園に行き、先輩たちに話を聞くと、
「家で奥さんとお茶を飲むよりこっちのほうが楽しいよ」
と全員が口をそろえて言うではないか。そこで電車で10分ほどの公園の清掃係を始めた。
朝5時半に目覚め、妻が作った弁当を持って家を出る。公園の清掃は8時に始まる。うれしいことに仕事は休憩が多い。8時から1時間働いたら1時間休む。また1時間働いて1時間休む。こうして午後3時に作業は終了。事務所で午後4時まで待機したらその日の作業は終わり。実働4時間だ。
3時から4時までの1時間は何もしなくていいが、その間にスマホをいじったり本を読んだりしてはいけない。仲間と世間話をしたり、ボーッとして時間を過ごす。
日当は平日が8000円、土日が9000円。勝俣さんは月に8〜10日働くため月収7、8万円になる。このお金を妻との食費と光熱費に充てている。
雨が降ったら作業は中止
作業は3人一組で公園内を回る。勝又さん以外の2人は80代だ。3人で回るのは、誰かが暑さや寒さで倒れた場合、一緒にいる人が気づいて事務所に連絡し、救急車を呼べるようにとの配慮からである。
熊手や竹ぼうきを使って落ち葉を集め、大型のビニール袋に入れて所定の場所に運ぶ。区民のマナーが良いため、公園内は紙くずなどのゴミは落ちていないし、犬のフンも見当たらない。

(写真提供:Photo AC)
トイレの掃除は専門の作業員がいるので、勝俣さんたちが行う必要はない。天気の良い日は作業時間内に軍手や熊手、竹ぼうきなどを洗う。
天気予報などでその日の天候が雨だとわかっているときは、当日の早朝、班長から「今日は休み」との連絡が来る。その場合は給料は出ないが、作業中に雨が降り始めたときは午後4時まで事務所に待機すれば1日分の日当が支給される。原則的に雨が降ったら作業は中止。雨合羽を着て働くことはない。
「シルバー人材は、自治体が年寄りを健康にするために実施している。言わばボケ防止の福祉事業みたいなものです。猛暑の日は『無理をしないで、疲れたら事務所で休んでください』と言われます」
これでは働いているのか、行政に労ってもらっているのかわからない。とにかく高齢者に優しい仕事なのだ。
「万歩計を身につけて働いています。公園内をあちこち移動するため、1日に歩くのは平均1万3000歩。最初は腕や足腰が筋肉痛になったけど今は体が慣れた。健康のために働いてお金ももらえるのだから、ありがたい仕事です」
勝俣さんは満足そうに言う。
作業着は区が上下のユニフォームを無料で貸与してくれる。シャツや防寒ズボンもタダだ。靴は自分持ちのため、勝又さんは靴屋で3000円のスニーカーを買ってきた。
「3000円で済むので、元手のかからないバイトですよ」
いいこと尽くめのバイトはない どこに行っても人間関係は悩みのタネ
ただし嫌なこともある。たまに相性の悪い班長と一緒の組になることがある。この男が傍若無人なのだ。
「私より2、3歳年上で、言葉遣いを知らない男なんです」
勝俣さんが初心者だったころ、作業の手順を間違えると、男は「何やってんだこの野郎!」「早くしろバカ野郎!」と怒鳴りつけてきた。名前も「勝俣さん」と呼ばず、いつも「あんた」呼ばわりで、敬語も使わない。この男は世情にうとく、世間話をしても「そんなの俺は知らねえよ」とつっけんどんな態度を示す。
「無教養なのはいいとして、いまだに命令口調で指示し、大声でバカ呼ばわりしてくるんです。これまでどんな仕事をしてきたのかはわかりませんが、コンプライアンスやハラスメントの概念を知らない荒くれ男。あまりにひどい物言いをするので、報告書を書いて区に告発しようと考えています」
勝俣さんは知人の弁護士に相談。「相手の暴言を録音できなくても構わない。『バカ野郎』と侮辱された日時をメモしておけば自治体に訴えることができる」とアドバイスされたそうだ。そこでポケットにメモ帳を入れて暴言を吐かれたら、すかさずメモを取るようにしている。
嫌な人間はいるが、この仕事が気に入っている。
「友人たちに話すと『公園掃除なんて、一流大学を出たキミがやる仕事じゃないだろ』『よく家族が許したね』と彼らは顔をしかめますが、私は何とも思わない。この仕事を恥ずかしいと思ったこともありません。プライドで凝り固まっていてはお金は稼げないし、健康にもなれませんよ」
目下の楽しみは銭湯だ。自宅マンションに風呂はあるが、仕事が終わると少し離れたところにある銭湯に足を伸ばしてひとっ風呂浴びる。自治体の補助があるため、勝俣さんの年齢の人は100円で入浴できるのだ。
「風呂に入り、家に着いたらビールを飲みます。仕事終わりのビールは格別。会社勤めのころよりずっとおいしいですよ」
勝俣さんによれば、真夏の公園で汗を流すのは無料のサウナに入っているようなもの。全身の汗を銭湯で洗い流し、人生で一番おいしいビールを飲む。
「サラリーマン時代を含めて、今が最高に幸せです」
と笑う勝俣さんがなにやら羨ましく思えた。
※本稿は、『年金だけじゃ生活できない!「定年バイト」奮戦記』(秀英書房)の一部を再編集したものです。
