あまりにも暑すぎると頭がぼーっとしてしまい、うまく物事を考えられないという人は多いはず。実際、極端な暑さが認知機能を低下させるという研究結果も報告されていますが、猛暑で認知機能が低下するのは人間だけでなく動物も同じだとして、フランス在住のフリーライターであるマルタ・ザラスカ氏がさまざまな研究結果をまとめています。

Heat waves make animals stupid and aggressive | Knowable Magazine

https://knowablemagazine.org/content/article/living-world/2026/heat-waves-scramble-animal-minds-trigger-aggression

1800年代にベルギーの天文学者であるアドルフ・ケトレは、フランスにおける凶悪犯罪が夏にピークを迎えることに気付きました。その後の研究では高温と銃による暴力や精神疾患関連の入院、自殺、ギャンブルなどとの関連性が指摘されています。

暑すぎると人間は意思決定が難しくなり、記憶力にも問題が生じます。2018年の研究では、エアコンなしの寮に住んでいた学生はエアコンがある寮に住んでいる学生と比較して、認知テストのパフォーマンスが落ちることが示されました。

エアコンがない部屋では認知能力が下がることが研究で判明、どれほどパフォーマンスが変わるのか? - GIGAZINE



近年は猛暑が人間だけでなく、動物の認知能力にも悪影響を及ぼすという研究結果が相次いで報告されています。西オーストラリア大学の行動生態学者であるアマンダ・リドリー氏らの研究チームは、アフリカ大陸南部のサバンナに生息するスズメ目の鳥・シロクロヤブチメドリを用いて、猛暑が認知機能に及ぼす影響について調べました。

さまざまな熱条件で野生のシロクロヤブチメドリの行動を調べたところ、気温が35.4℃を超えるとくちばしを大きく開けて、息を激しくして羽根を広げるといった放熱行動が増えました。

また、研究チームは透明な壁の向こうにシロクロヤブチメドリの大好物であるミールワームを配置して、正しく壁を回り込んでミールワームを獲得できるかどうかを観察しました。この実験では、涼しい時のシロクロヤブチメドリは透明な壁を回り込めばミールワームを食べられることに気付きましたが、気温が上昇するとなかなかそのことに気付けず、透明な壁をくちばしでつつき続けたとのことです。



リドリー氏らが行った別の実験では、シロクロヤブチメドリに「色の薄いフタ」と「色の濃いフタ」が付いた木の板を与えました。このフタはシロクロヤブチメドリがくちばしで開けられるようになっており、決まって「色の濃いフタ」の下にミールワームが隠されているという法則性がありましたが、気温が高いとシロクロヤブチメドリがその法則性に気付くのに約2倍の試行回数が必要でした。



気温が高くなると認知機能に問題が生じるのは、シロクロヤブチメドリだけではありません。たとえば2023年の研究では、アメリカの8都市で報告された合計約7万件の「犬が人にかみついた事例」を精査した結果、こうした事例は暑くて晴れていて、スモッグが多い日に起こりやすいことがわかりました。気温が約32.2℃の日は約15.5℃の日と比較して、犬が人にかみつくリスクが10%も高かったとのことです。

動物は特に食べ物が絡むと冷静さを失うことが多いようで、イタリアの山脈で植物を食べるカモシカを1600時間以上にわたって観察した2023年の研究では、気温が12.2℃から17.8℃に上昇すると植生がまばらになり、それに伴ってカモシカの攻撃性が急上昇することがわかりました。カモシカは食物が減ると餌場を巡って縄張り意識を持つようになり、相手に威嚇的な姿勢を取ったり、追いかけ合ったりしたと報告されています。

また、アフリカに生息するゴールデン・ジュリーという魚は、鏡に映った自分の姿を見知らぬ個体と認識し、ヒレを挙げるなどある程度の敵意を示すことがわかっています。しかし、通常は25.6℃程度の水温が28.9℃ほどに上昇するとゴールデン・ジュリーの攻撃性が高まり、鏡に映った自分にかみつこうとしたり、尾びれでたたこうとしたりするとの実験結果があります。

こうした攻撃性の上昇や学習能力の低下は、特に体温調節ができない魚や昆虫にとって有害となる可能性があります。ストックホルム大学の神経科学者であるエミリー・ベアード氏らが行った2022年の研究では、花粉媒介昆虫として有益なマルハナバチに甘いショ糖を青色、苦いキニーネを黄色に関連付けるように訓練したところ、ほとんどのマルハナバチは25℃以下の気温だとこの関連付けを学習した一方、気温が32.2℃になると学習できる割合が半数以下になりました。

ベアード氏は、気温の変化は動物の脳の温度に影響を与え、これによって神経の働きが阻害されてしまい、感覚・記憶・学習に問題が生じる可能性があると指摘。マルハナバチの認知機能が低下してどの花で蜜を吸うべきなのかを忘れてしまうと、マルハナバチを花粉媒介昆虫として利用しているトマト栽培やブルーベリー栽培にも悪影響が及ぶかもしれないと主張しました。

また、気温上昇による認知機能の低下は、動物の捕食者に対する反応にも変化をもたらします。リドリー氏らの実験では、シロクロヤブチメドリに無害な木箱または有害な捕食者・ヨーロッパジェネット(ジェネット)の剥製を見せたところ、気温が低い条件だとジェネットにより強い反応を示したのに対し、気温が高くなるとジェネットへの反応が鈍ることが示されました。



リドリー氏は、気温の上昇に伴って捕食者による致命的な攻撃の可能性が高まり、シロクロヤブチメドリなどの被捕食者の個体数に悪影響が及ぶ可能性があると指摘。「私たちは気温上昇が動物の精神に及ぼす影響を過小評価しているのかもしれません」と述べました。