「史上最強」日本代表のワールドカップがいよいよ開幕…「WBCは有料配信のみ」だったのにサッカーは「地上波放送」が実現したワケ
12日に北中米ワールドカップが開幕
日本時間3日、サッカー日本代表がキャンプ地となるメキシコのモンテレイに到着。12日に開幕する『FIFAワールドカップ2026』が間近に迫り、決戦ムードが高まりつつある。
攻撃の柱である三笘薫と南野拓実が負傷欠場しながらも「史上最強」と言われ、選手たちも「優勝狙い」を公言。メディアの扱いもジワジワと増えているが、今大会はどこまで盛り上がるのか。
また、2026年のスポーツイベントと言えば、2月にミラノ・コルティナ五輪、3月にWBCがあったが、両者を超える盛り上がりを生み出せるのか。
民放各局のスポーツ中継関係者、メディア出演するサッカー解説者、スポーツライターらから聞いた話を交えつつ、大会の行方を占っていく。
試合時間は前2大会よりも厳しい
前提としてあげなければいけないのは、今大会の開催地が北中米のアメリカ、カナダ、メキシコであること。3か国での共同開催は史上初であり、さらに出場国が32から48に増え、16都市で全104試合が行われる。グループステージが各チーム3試合であることは変わらないが、以降はラウンド32、ラウンド16、準々決勝、準決勝、決勝と計8試合で勝たなければ優勝できない。
北中米との時差は14〜16時間あるため、試合の大半は日本時間の深夜から午前中に放送される。「職場や学校へ行く前に見られるかどうか」「ふだんより数時間早めに寝て準備しなければいけない」というハードルは決して低くない。日本戦を見ていくと、オランダ戦は15日の月曜5時、チュニジア戦は21日の日曜13時、スウェーデン戦は26日の金曜8時から行われる。
ちなみに前回のカタール大会は、ドイツ戦が水曜22時、コスタリカ戦が日曜19時、スペイン戦が金曜4時、ラウンド16のクロアチア戦は火曜24時のキックオフ。前々回のロシア大会は、コロンビア戦が火曜21時、セネガル戦が日曜24時、ポーランド戦が木曜23時、ラウンド16のベルギー戦が火曜3時のキックオフだった。
「前2大会と比べて視聴の難しい時間帯」であること、「大事な初戦が早朝5時のキックオフ」であることを踏まえると、やはり日本代表の試合内容と結果がいいことが国民的な盛り上がりには欠かせないだろう。
ラウンド32に勝ち進めるか
その点をあるサッカー解説者に話を聞いたところ、「下馬評の高い今大会は、優勝候補のオランダに初戦で勝てればカタール大会でドイツに勝ったとき以上に盛り上がりそう」「48か国中32か国が決勝トーナメントに進めるというレギュレーションの変更は大きく、さすがにここは突破しなければいけない。最初にして最大の難関は優勝候補のブラジルか、前回大会ベスト4のモロッコが想定されるラウンド32」などと語っていた。
4か国×12グループ中、1位と2位に加えて3位の8か国もラウンド32に勝ち進めるのだから、もし敗退したら大会への興味は失われ、チームも個人も多少の批判は免れないだろう。
前述のサッカー解説者は「1勝1分が当確ライン」、別の某局スポーツ部テレビマンは「出場国が増えて他グループには明らかに力が劣るチームがいるため、3位が得失点差の争いになると難しそう」と言っていたが、難しいグループに入ったことは確かだ。
「有料のみ」の流れを止められた
そして「国民的な盛り上がりを左右する」という意味で、これまで以上に注目度が増しているのは地上波における放送。
これまでFIFAワールドカップの日本における地上波放送は、2018年のロシア大会までジャパンコンソーシアム(世界的なスポーツイベントでNHKと日本民間放送連盟加盟各社が共同制作する放送機構)が獲得していた。
しかし、2022年のカタール大会では放映権の高騰からNHK、テレビ朝日、フジテレビの3局に変更。さらに今大会ではオランダ戦をNHK総合、チュニジア戦を日本テレビ、スウェーデン戦をNHK総合、ラウンド32をフジテレビ、ラウンド16以降をNHK総合が担うことになった。
一方、ネットでは前回大会で全試合を無料配信したABEMAに代わってDAZNが全104試合を生配信。スポーツ専門のDAZNは「多くの人々に見てもらわなければ市場が縮小する」という理由から独占配信ではなく放送との共存を選択したが、「地上波の無料放送があってホッとした」という人が多いのではないか。
3月のWBCに続いて5月2日に開催されたボクシング・井上尚弥と中谷潤人のビッグマッチも有料配信のみだったこともあって、『FIFAワールドカップ』の放送を不安視する人がいるのは当然だろう。
これを各局のテレビマンに聞くと、「採算はともあれよかった」「“有料のみ”の流れをいったん止めておくことが重要だった」「WBCとは運営や金額も全然違うから一概に比べられないが、多少の意地は見せられたのでは」などと安堵の声が返ってきた。
特に各局のスポーツ局関係者にとって放送の有無は存在意義に関わるだけに「最悪の状況は避けられた」という心境が推察される。
無料視聴を求めるムードが追い風に
とはいえ、このところスポーツのビッグイベントにおける地上波放送が必ずしもネガティブなムード一色だったわけではない。
WBCの独占配信を行ったNetflixは「全47試合で国内視聴者が3140万人」「最も多かったオーストラリア戦が1790万人」というデータを発表した。しかし、この数字は「1人が1つ以上のデバイスで視聴した場合を含む延べ接触人数」「試合終了後24時間以内に視聴されたアーカイブ配信含む」などの微妙なニュアンスがある。
地上波で放送された前回大会は「日本戦の計7試合で9446万人がリアルタイム視聴した」「最も多かった韓国戦が6234万人」というビデオリサーチの推計データがあった。そのため、「現段階では地上波のほうが視聴者は3〜5倍程度多いのではないか」とみなす業界関係者は少なくない。Netflixが前述のデータ以外は成果をアピールしていないことも含め、テレビマンたちは胸をなで下ろしている。
また、「Netflix利用者数、WBC後に31%減」という日本経済新聞の報道もあった。もちろん全体の会員数は増えているのだろうが、「できれば地上波の無料放送で観たい」という人の多さを感じさせられる。
そんなニーズを裏付けているのが、5月20日にスポーツ庁と総務省が初めて開催した『スポーツを観る機会の確保及びスポーツ放映に関する検討会』。スポーツ関係者や有識者が集い、「WBCをはじめとするスポーツ国際大会における国民の観る機会に関する論点」などが検討された。
ヨーロッパや韓国などで実施されているユニバーサルアクセス権(関心が高いスポーツイベントを国民が自由に観られる権利)の必要性なども含め、秋をめどに論点を整理し、政策の策定に向けて動いていくという。
WBCをきっかけに有料化へ加速するのではなく、むしろ公平な無料での観戦を求めるムードが高まりつつあり、それがテレビマンの希望となっている。
多くの国民が望んでいるのは「放送と通信の両方で中継され、どちらかを選んで観られること」であり、テレビは「オールドメディア」と揶揄されがちだが、選択肢から外されたわけではない。むしろ「スポーツに限らず大きなコンテンツになるほど放送のほうが視聴者の総数が多くなる」という状態で踏みとどまっている。
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