北京市のハーフマラソン大会で人間の世界記録を超えたHONOR社の人型ロボット「閃電」(ABACA PRESS/時事通信フォト)

写真拡大

 驚きを通り越して恐怖すら感じた人も少なくなかったかもしれない──。2026年4月に行なわれた中国・北京市のマラソン大会に登場した人型ロボットは、人間のトップランナーたちを優に超えるスピードで道路を疾走していった。数年前まで、長い距離を安定的に走ることすらできなかったロボットが、今では自律してハーフマラソンを完走するまでに進化している。また、宙返りやブレイクダンスを難なくこなす自律型ロボットの開発も目を瞠るものがある。

【写真を見る】〈工業用ロボットの生産量は対前年比で35.6%の伸び〉中国トップメーカーの人型ロボット

 ヒューマノイド・ロボットは、人間並みの作業をこなす産業用ロボット分野でも進化を遂げている。その成長度をジャーナリストの富坂聰氏がレポートする。

 富坂氏の最新刊『おそるべき「中国一強」時代』より抜粋・再構成。

日本の得意分野でもいつの間にか逆転

 2025年8月6日放送のCCTV「新聞聯播」は、北京で開催された「2025年世界ヒューマノイドロボット競技大会」を紹介する中で、次のように報じている。

〈わが国の上半期の工業用ロボットの生産量は対前年比で35.6%の伸びとなり、サービス用ロボットの生産量は同じく25.5%増で、それぞれ大きく伸びました。

 ロボット生産に従事する企業はいま全国で93万社となり、そのうち10万社あまりが今年の上半期に設立されていて、対前年比で45%増となっています〉

 創業したばかりの企業が多いロボット業界であれば、成長ぶりを示す数字が大きくなるのは理解できるが、それでも「半年で10万社設立」「45%増」と聞けば驚くしかない。

 テックメディア「36Kr」の記事「中国の産業用ロボット、海外に拡大 トヨタも採用」(2024年5月31日)も同じように、

〈中国は10年連続で産業用ロボットの世界最大の市場となり、導入台数の世界シェアは2012年の14%から2022年には52%に上昇した〉

 と、その急拡大ぶりと有望性を伝えている。この分野への資金の集まり方から考えても、しばらくこの傾向は続きそうだ。

 それにしても、中国から次々に届くロボット関連の目覚ましい話題に強い興味をそそられながらも、やはり思い出すのは、かつて日本人が「日本の強みはロボット分野」と言って疑わなかった時代だ。私自身にも思い当たることが多い。

「環境技術」「ロボット」「デザイン」…日本の優位が逆転

 日本が初めて国内総生産(GDP)で中国に追い抜かれた2010年ごろ、「次の日本の強みを(対中国で)どう確保するのか」というテーマがしばしば話題に上り、私もさまざまな勉強会に呼ばれた。そうした場で、多くの官学の識者がそろって言及したのが、「環境技術」と「ロボット」、そして「おもてなし」に代表される「日本的なサービス」だった。

 また、商品のデザインについても日本側の優越感は健在で、こうした点ではまだまだ中国が追いついてこないだろうとの見通しが当たり前のように語られていたのだ。

 確かに、2010年代前半は、中国も環境汚染に苦しんでいた。また、製品のデザインもいまいちだった。だが、今や環境対策でも新エネルギーの設備においても、中国は日本の技術に頼ることなく、世界をリードする地位を築いてしまった。EVのデザインでも欧米・日本と遜色ない新車を市場に投入するようになっている。

 ロボットに限っていえば、さらに現実は残酷だった。

 実際、日本勢は、ヒューマノイド・ロボットはおろか、圧倒的に強かった産業用ロボットでも世界での市場を失いつつある。中国の税関総署は、2025年の産業用ロボットの輸出が前年比で48.7%増加し「初めて純輸出国になった」と発表した。

 まるで内燃機関(エンジン)では比肩するライバルがいなかった日本の自動車メーカーが、EVでは中国の技術に頼らざるを得なくなった経緯とよく似た顛末を繰り返し見せられているような気持ちになってくるのだ。

【プロフィール】
富坂 聰(とみさか・さとし)
1964年愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授、ジャーナリスト。北京大学中文系中退。週刊誌記者を経て、フリーに。北京中枢の内部情報から在日中国人犯罪まで現代中国問題に精通する。『「龍の伝人」たち』『潜入―在日中国人の犯罪』『中国の地下経済』『「反中」中国論』など、「日中問題」に関する著作多数。一方で、"中日ドラゴンズ問題"についての新書も話題。