「新NISAに全振り?おやめなさい」…“資産2億円”を築いた76歳祖父。手取り24万円から月10万円を入金・投資に夢中の25歳孫を止めたワケ【FPが解説】
新NISAブームの裏で、収入はあるのに生活が苦しい「NISA貧乏」が静かに広がっています。25歳の健太さんも、その一人になりかけていました。そんな彼を止めたのは、二度の大暴落を生き抜いて資産2億円を築いた祖父の一言。自ら投資で大きな利益を上げながら、なぜ孫にストップをかけたのか……。FPの青山創星氏が、その理由と投資の考え方を解説します。
手取り24万円で月10万円を投資へ回す「NISA全振り生活」
健太さん(25歳・仮名)は、IT企業に勤める入社3年目の会社員です。手取りは月24万円ほど。ワンルームに暮らし、生活費を切り詰めて、新NISAのつみたて投資枠に月10万円を積み立てていました。
家賃と積み立て以外に、水道光熱費(約1万円)、食費(約3万円)、通信費6,000円を払うと、残るのは1万4,000円ほど。そこから日用品、サブスク、医療費、交通費などを賄っています。
「今じゃ友達も同僚もみんなやってるし、SNSでは『複利で1億円』みたいな投稿が流れてくる。早く1,800万円の枠を埋めないと、損する気がして」
好きだった映画もテニスも、会社の飲み会も断り、自炊と動画を観るだけの日々。それでも家計はギリギリで、給料日前になると、足りない生活費をクレジットカードで補うように。リボ払いにも手を出しました。
そんな健太さんの様子に違和感を示したのが、正月に帰省した時に会った祖父・清さん(76歳・仮名)でした。
「投資の達人」ではなく「生き残った人」
清さんは、20代後半で小さな洋食店を構えました。バブル期には繁盛したものの、崩壊後に客足が遠のき、30代の終わりに店を畳みました。
その後、料理人時代に培った目利きを生かして業務用食材の卸に転じ、地道に取引先を広げて事業を立て直します。ところが、リーマンショックで取引先の飲食店が次々と倒れ、売上は半分に。同時に、老後資金として持っていた保有株も大きく値を下げました。
それでも淡々と働き、貯め、地味に投資信託の積立を続け、今では、約2億円の資産を築いています。「自分は派手な投資家ではない。ただ、二度の暴落で逃げずに済んだだけ」。そう語る清さんを、健太さんは尊敬していました。荒れた相場と人生を、両方くぐり抜けてきた人だからです。
清さんは、「将来のために投資に全振りしてる」「いま我慢すれば将来安心だから」と目を輝かせて語る健太さんの話を聞くと、ぽつりと言いました。
「健太。それ、おやめなさい」
投資で成功した祖父が、孫の“全振り投資”を止めた謎
健太さんは驚きました。投資で成功した祖父が、なぜ止めるのか。
「私のは20年かけてやったことだ。おまえは、25歳の今を犠牲にしてるだろう。そこまで無理をして。枠を埋めるのが目的になってないか?」
健太さんは、言葉に詰まりました。確かに、毎月積み立てるたびに達成感はありましたが、生活の充実感は薄れていく一方でした。1,800万円という数字に追いかけられて、25歳の楽しみを全部削っている。そう言われれば、その通りでした。
「サンクコスト」という見えない罠
行動経済学に「サンクコスト効果(埋没費用の罠)」という言葉があります。 「もうここまでやったんだから……」と、過去の努力や時間が惜しくなり、本当はやめた方がいいことでも続けてしまう心理です。
健太さんはまさに、この状態でした。 半年間、飲み会も趣味も我慢してきた。今さら積立額を減らしたら、これまでの努力が無駄になってしまうんじゃないか。投資をしている周りに置いていかれるのではないか……。
でも、本当に無駄になるのは、「25歳という時間」そのものなんじゃないか? ――健太さんは祖父にこの気づきを話しに行きました。すると、清さんは、笑ってこう言ったといいます。
「私が資産を作れたのは、投資が上手だったからじゃない」
清さんが20代だった頃は、まだ給料も安く、情報もない時代でした。それでも、友人と朝まで議論し、知らない街を歩き、本を読み漁り、たくさん失敗した日々があったといいます。その頃に身につけた「自分の頭で考える癖」と「人とのつながり」こそが、後にバブル崩壊やリーマンショックで逃げ出さずに済んだ本当の理由でした。
「市場は荒れる。AIで仕事も消える。そのときおまえを救うのは、NISAの残高じゃないよ。投資を早く始めること自体は悪くないから、適切な金額をもう一度考えてみたらどうか」
結局、健太さんは、月10万円の積立を3万円に減らすことに決めました。差額の7万円は、テニスのコーチ料、本代、たまの旅費、友人との食事に。リボ払いもすぐに完済したといいます。
制度に振り回されないことの大切さ
金融庁「NISA口座の利用状況調査」によれば、全国の口座数は2025年12月末時点(速報値)で2,826万口座。新NISAを始める若い世代も増えていますが、その背景には将来への不安があります。また、投資が身近になり、「早く始めるほどいい」という考えが広まっていることも挙げられます。
もちろん、20代から長期で積立投資を始めること自体は、資産形成の面で大きなメリットがあります。時間を味方につけられるのは、若い世代ならではの強みです。
一方で、「みんなやっているから」「他の人はもっと投資を頑張っているから」は、投資でも人生でも危うい理由です。投資枠の1,800万円という数字を埋めるゲームに夢中になり、「NISA貧乏」に陥り、20代という戻らない時間を削るのは、本当に賢明な選択でしょうか。
20代で本当に投資すべきは「自分自身」です。判断力と稼ぐ力、そして人とのつながり。これらは、どんな相場でも目減りせず、むしろ複利のように増えていく資本です。
また、投資=NISAと考えがちですが、iDeCo(個人型確定拠出年金)や会社の制度(企業型DC)という選択肢もあります。いずれにしても、制度は道具であって、ゴールではありません。何のために、いくらまでなら無理なく続けられるかを決めるのが先決です。
清さんが2億円を築けたのは、投資の腕ではなく、若い頃に養った「考える力」「稼ぐ力」「人とのつながり」が、二度の暴落で踏みとどまる支えになったからでした。そうした経験の価値こそ、孫に伝えたかった大切な財産だったのです。
新NISAの普及によって、若い世代でも投資は当たり前の時代になりました。しかし、本当に大切なのは、制度に振り回されることではなく、自分の人生に合った距離感でお金と向き合うことなのかもしれません。
ファイナンシャルプランナー
青山創星
