アライグマ(環境省ホームページ)

写真拡大

《警察署からのお知らせです。令和8年5月26日(火)午後10時ころ、墨田区東向島2丁目付近において、野生のアライグマが出現しました。野生のアライグマは気性が荒く、多くの病原体を持ち合わせているので、発見してもむやみに触れないで》

【写真】「むやみに触れないで」墨田区住民に届いた“注意喚起”

 5月26日、東京都墨田区が住民向けに配信した『すみだ安全・安心メール』の一文。翌27日と29日の朝にも再び同じ地域での目撃情報があり、区の公式Xが注意を呼びかけると、ネット上は騒然となった。

都心にアライグマが急増!?

《マジか》《こんな大都会に出るの?》といった驚きの声が相次ぐ一方で、《うちの近くでも見た》というリアルな目撃情報が23区内のあちこちから寄せられている。

 実は今、東京23区内で野生のアライグマが爆発的に急増しているのだ。

 東京都環境局によると、区でのアライグマの目撃や被害の相談件数は、2013年は9件だったのが、2024年は約95倍の856件に。捕獲数も12年間で201頭から1541頭と7.5倍以上に増加している。

 かつて1970年代に大ヒットしたテレビアニメの影響で、ペットとして大量に輸入されたアライグマ。その愛らしい見た目とは裏腹に、凶暴な気性や農作物への被害、感染症のリスクなどから、2005年には「特定外来生物」に指定され、全国で防除が進められてきた。

 なぜ、東京のど真ん中で増え続けているのだろうか。アライグマ研究の第一人者であり、北海道大学名誉教授の池田透さん(外来種防除円卓会議代表取締役)に話を聞いた。

アライグマは生息環境への適応力が非常に高く、山林だけでなく都市部でも問題なく暮らせます。原産国の北米では、大都会の真ん中にいるのが当たり前。今回の急増は今に始まったことではありません。

 外来種は、侵入初期は目立ちませんが、10年ほどかけて潜伏し、爆発的に数を増やして初めて人間の目に留まるようになります。つまり、10年前にはすでに都心に定着していたということです」

 今後さらに増えていくのだろうか。池田教授は「十分あり得る」と警鐘を鳴らす。

「現在、日本で最も生息密度が高い地域でも1平方キロメートルあたり20頭ほどですが、北米には200頭に達する地域もあります。生態的にはまだまだ増える余地があるのです。非常に繁殖力が高く、全体の半分以上を捕獲し続けない限り、数を減らすことはできません。餌条件さえ問題がなければ、このままではさらに増えるでしょう」

アライグマ被害、最も恐ろしいのは感染症

 さらに懸念されるのが、生態系への深刻な被害だ。

アライグマは何でも食べます。“食べないものを探すほうが難しい”と言えるほど。都内では、絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオが食べられてしまう被害が問題視されています。

 また、木登りが得意なため、鳥の巣を襲うことも日常茶飯事。アメリカでは“アライグマの影響を受けない鳥はいない”とまで言われています。湿地にも入るため、地上に巣を作る鳥たちにとっても天敵なのです」

 これほど危険な害獣に対して、行政の対策は追いついているのか。

「現在は行政が中心となって対応していますが、クマやシカの対策で手一杯となり、アライグマにまで手が回っていないのが現状です。アライグマは非常に賢く、学習能力が高い。特に都市部は情報が多いため、それを学習してさらに知恵が働きます。対策が遅れれば遅れるほど、厄介な相手になっていくのです」

 手の打ちようがないようにも思えるが、アライグマにも「弱点」はあるという。

「幸いなことに、彼らは学習能力を上回るほどの強い好奇心を持っています。警戒心が薄く、見慣れないものがあると確認しにくるため、罠にかかりやすい。

 自治体が実施する講習会を受ければ、狩猟免許を持たない一般の人でも捕獲活動に参加できます。住民の協力システムを構築し、科学的なデータに基づいて対策を進めれば、決して手に負えない相手ではありません」

 もし、私たちが街中でアライグマに遭遇してしまったら、どう行動すべきなのだろうか。池田教授は、何よりも「病気への警戒」を強調する。

「見かけた場合は無視せず、すぐに自治体へ報告してください。アライグマの被害で最も恐ろしいのは、感染症です。

 例えば『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)』。これは、アライグマなどがウイルスを持つマダニを山から住宅街へと運び込むことで、ペットや人間に感染します。“自分にも直接の被害が及ぶかもしれない”という強い危機感を持つことが重要です」

 アニメの愛らしいイメージとは程遠い、大都会に潜む危険な隣人。東京の足元で、静かな脅威が確実に広がっている。