「被害の日と同じくらい絶望した」性被害訴えた女性、検事の対応めぐり国賠提訴 500万円賠償求める
「私の人生の中で一番辛かった日は、被害を受けた日ですが、検察で聴取を受けた日 も、それと同じくらいの深い絶望を感じた日でした」
約3年前に性被害を訴えた女性が5月29日、東京都内で記者会見を開き、事件の捜査中に担当検事から侮辱的な発言を受けるなどしたとして、検事個人と国を相手取り、計500万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴したことを明らかにした。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●「嘘なら偽証罪になる」女性を疑う対応
原告側代理人によると、女性は2022年11月、知人男性から密室に誘導され、性的な被害を受けた。
その後、2023年6月に東京地検の担当検事から聴取を受けた際、「本当はそういった事実がなかったのではないか」「嘘をついたら偽証罪になる」などと言われ、女性が虚偽の申告をしているかのような対応を受けたという。
以下は、聴取後に代理人が女性から聞き取った記録の一部だ。
検事:直後医師にかかったとき、なぜ被害を受けたと言わなかったの?
女性:言いたくなかったからです。被害を受けたことが恥ずかしいことだと思っていたからです。
検事:なぜ言いたくなかったの?
女性:(沈黙)
検事:沈黙は裁判では不利になります。いろいろ考えてないで本当のことを話してください。
女性:被害を受けたということを無かったことにしたい気持ちや、自分がスルーできれば済むのかも、という気持ちもあり、そういった迷いからすぐに被害を受けたことは話せませんでした。
検事:性被害の被害者が最初に相談するのは9割以上が医者なのに、あなたがすぐに医者に報告しなかったということはその時は被害にあった自覚がないからではないか。それとも何か隠したいことがあったのではないか。または、本当はそういった事実がなかったのではないか。
女性:2回目の診察では被害にあった話をしています。
検事:それは弁護士に相談したあとでしょ。気持ちが変わっちゃったんだ?
●検事の交代を求めるも、そのまま不起訴
代理人によると、この事件で被疑者とされた男性は有名人で、当時、女性が男性に多額の金銭を要求したとする”事実無根の情報”が一部メディアで報じられていたという。
女性は、担当検事がそうした情報を前提に示談をすすめるなど、侮辱的な発言を繰り返したとうったえている。
女性は聴取の翌日、検事総長と東京地検の検事正に苦情を申し立て、担当検事の交代を求めた。しかし、担当検事は交代することなく、被疑者の男性は不起訴処分となった。
こうした検察側の対応によって精神的苦痛を受けたとして、女性は今年5月22日、検事個人と国に対して損害賠償を求める訴えを起こした。
●「捜査を尽くしたうえで不起訴なら、こんな思いにならなかった」
「私の人生の中で一番辛かった日は、被害を受けた日です。ですが、検察で聴取を受けた日も、それと同じくらいの深い絶望を感じた日でした。
十分な知識と経験を持つ検事が必要な捜査を尽くした上で起訴に至らないという結論だったのであれば、私自身、ここまでの思いにはならなかったかもしれません」
女性は会見でそう振り返り、提訴に踏み切った理由を語った。
「私は今回、検察からの対応を受けて、性被害に限らず多くの事件において、被害者が置き去りにされてしまう可能性がある、そしてその可能性が高い、ということに強い不安と不信感と恐ろしさを感じました。
そして性被害という問題は特に、担当検事の価値観や先入観、認識の差が、判断に大きく影響しやすい分野なのだと感じます。
だからこそ司法には、個人の感覚ではなく、組織としての知識や理解、そして公平性が求められるのではないでしょうか。
検察には、“勝てる事件だけを扱う”のではなく、被害者の声に真摯に向き合い、重い被害結果をもたらす性被害に対してもっと誠実に向き合う姿勢が必要だと思います。
そして何より、検察組織全体の性被害に関する知識や認識を、今の時代に合わせてしっかりとアップデートしていく必要があると感じています」
●代理人「ガバナンスが致命的に欠けているのが検察の実態」
女性の代理人をつとめる桜井祐子弁護士は、検事とのやり取りの録音が禁止されていたことから、女性に録音するよう助言しなかったことについて、「検察を信頼しきって疑いすら持たなかった自分自身が不甲斐ない。私の弁護士人生で最大の後悔であり、手落ちです」と述べた。
一方で、検事とのやり取りについては、女性から詳細な聞き取りをおこない文書化しており、裁判ではこれらの記録を証拠として主張していくという。
桜井弁護士は、次のように社会に理解を求めた。
「検察が公訴権を独占し、各検察官に極めて大きな裁量が認められている中で、冤罪も、救われない被害者も、適当な事件処理から生まれます。この適当な事件処理を防ぐ仕組み、つまりガバナンスが致命的に欠けているのが、残念ながら検察の実態です。
冤罪を防ぐために、被害者の証言の吟味は必要です。ですが、今回の検事の発言は吟味に資するような発言では全くなく、単に被害者の声を軽視し傷つけ、真実発見を阻害する違法不当な発言であったため、国賠に至っていることをご理解ください」
●原告女性「検察には透明性を持ってほしい」
女性は会見の最後、次のようにうったえた。
「私は、この国の司法や検察が透明性を持ち、被害者が安心して声を上げられる組織になってほしいと心から願っております。
もし今後も検察組織が今の体制のまま変わらない、ということなのであれば、性被害に限らず、不起訴という形で声を失っていく被害者がこれからも増え続けてしまうと思います。
私はこれ以上、声を上げることすら諦めてしまう被害者が増えないことを願い、そしてその現実を変えるために今日ここで声を上げました」
●東京地検「コメント差し控える」
東京地検は弁護士ドットコムニュースの取材に、「一般的に記者クラブに所属していない社の取材は受けていないが、いずれにしても個別の案件にはコメントを差し控える」とした。
