《「旭山動物園焼却炉事件」その後》通路には警備員とバリケードを設置するも事件を意識させない「プロ」の技

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飼育員が起こした衝撃的な事件

2026年4月30日、妻の遺体を園内の焼却炉で損壊した疑いで、北海道旭川市に住む旭山動物園の飼育員・鈴木達也容疑者(33歳)が逮捕された。2026年5月22日には殺人の疑いで再逮捕された鈴木容疑者は、取り調べに対し、妻への不満を語ることもあったという。

「鈴木容疑者は3月31日の夜、自宅で妻・由衣さんを殺害したとされています。『ロープで首を絞めた』と供述しているそうです。遺体はその後、勤務先の旭山動物園に運んだとみられています」(全国紙社会部記者)

命と向き合い、その大切さを誰よりも伝えるべき立場にある動物園の飼育員が起こした、あまりにも凄惨な事件。旭川市民のみならず、日本中に強い衝撃を与えた。

旭山動物園といえば、国内の動物園ランキングで常にトップ5に入る人気施設だ。国内外から多くの観光客が訪れ、年間来場者数は130万人前後を誇る。

鈴木容疑者が起こした事件は人気動物園を再び危機へと追い込んだ。

いまでこそ人気動物園として注目されているが、1990年代初頭には入園者の減少やエキノコックス症発症などにより、閉園寸前まで追い込まれた過去がある。当時の赤字は年間3億円超、市議会では「動物園不要論」が飛び交い、売却や閉園が検討された。しかし、職員らが抜本的な改革を行い、動物が持つ行動特性を最大限に活かした展示へと路線変更。「行動展示」という画期的な試みは大ヒットし、来場者は瞬く間に増えた。2004年7月には月間入場者数で上野動物園(東京都)を抜き、日本一を記録したこともあった。

V字回復を果たした旭山動物園で起きた凶行。今津寛介市長は2026年4月28日に、臨時の記者会見を開き、「憤りを禁じ得ない」と心痛な面持ちで陳謝した。

「想像以上の混雑でした」

例年、ゴールデンウイーク初日の4月29日から夏季営業がスタートするが、北海道警察の捜査により、2026年5月1日に延期された。

「焼却炉の事件のせいで動物園の開園が延期になり、バスツアーもキャンセルが相次いだ。地域経済にとって大打撃ですよ……」

連休中、市内のタクシー運転手はそうぼやいており、同動物園の客足への影響も懸念されていたが、ふたを開けてみれば意外な結果となった。

「連休中は晴天にも恵まれたこともあり、8日間で約5万2000人が来場しました。なんと前年比6%増。事件で客足が遠のくかと思われましたが、連日、多くの家族連れなどで賑わっていました。営業初日は前年より約1000人多い、約5000人が来場しました。開園前には数200人が長い列を作ったほどです」(前出・全国紙社会部記者)

恒例の開園セレモニーこそ中止されたものの、例年と変わらない「連休の光景」が広がっていたという。

「事件後の動物園はどのような状況なのだろうか」との疑問を抱いていた筆者は、連休明けの5月7日に園を訪れた人から話を聞いた。

道央に住む会社員の上田明さん(30代・仮名)は友人とともに同園を訪れた。10年ぶりの旭山動物園で、「事件にはとても驚きました。あまりにも酷い事件だったこともあり、ダメージを心配していました」と話す。

「風評被害により連休でも空いているのかもしれない、と思っていましたが、全然そんなことなかったですね。想像以上の混雑だったので、あえて連休明けの7日に来ました」(上田さん)

前日は市内のホテルに泊まり、午前10時にチェックアウトするとその足で同園に向けて、出発した。午前11時前に到着した上田さんを待っていたのは、満車の駐車場だった。

丁寧な仕事ぶりのスタッフたち

「連休明けだし、と舐めていました(苦笑)。正面の無料駐車場は朝の早い段階で満車になっていそうで、私たちが止めた裏側の無料駐車場も昼過ぎにはかなりの場所が埋まっていました。近くの有料駐車場だってほぼ満車でした」(前出・上田さん、以下「」も)

この日の客層はカップルや家族連れが中心で、園内に入れば、そこはいつもの旭山動物園だ。特別変わった様子は見られなかったという。上田さんは園内の様子をこう語る。

「旭山動物園は敷地が広いので、来場者はまばらに見えますが、食堂は満席ですし、空を飛ぶように泳ぐペンギンたちも相変わらず人気でした。鈴木容疑者の担当エリアの動物たちも見ましたが、動物は変わらずかわいかったです。なにより職員さんは普段通り丁寧な対応で、凄惨な事件を感じさせる場所はどこにもありませんでした」

だが、一ヵ所だけ、「異様な空気が漂う場所」があった。遺体損壊の現場となった焼却炉へと続く一角だ。焼却炉は施設内の立ち入り禁止区域にあるが、周囲は外から見えないようブルーシートで厳重に覆われていた。

バリケードの前には警備員が待機

「焼却炉は鈴木容疑者が妻の遺体を運び入れたとされる、通用門のすぐ横にあります。その通用門自体、かなりわかりにくい場所にあるので、よほど注意していないと、そのまま通りすぎます。園内から向かおうとすると、順路から外れますし、立ち入りも禁じられています。ただ、道が繋がっているので、行けないわけではないでしょう。ですが、そのルートにはさりげなく工事用のバリケードが置かれ、客が焼却炉を意識しないよう、自然な工夫がされていました。

それにバリケードの前には警備員らしき方も立っていました。職員と同じ格好をしているので、違和感はありませんでした。案内係を装いつつも、客が焼却炉に向かわないように通路を監視している、という印象を受けました」

園内放送でも定期的に「ライブ配信はおやめください」というアナウンスも流れていた。動画配信者対策だろう。

正門前には来場者らを取材する地元テレビ局の取材クルーたちの姿もあった。上田さんたちも帰り際、取材に応じたという。

「記者の方と少し話したのですが、来場者の多くは、園を擁護するコメントや応援を口にしていたそうです。私たちのような”やじうま”は案外少なかったのかもしれません」

最後に上田さんは「園側のプロ意識に感銘を受けた」と明かした。

「来場者に事件のことを意識させず、これまで通りに楽しんでもらおうとする配慮を感じました。おそらくですが、内部は相当な混乱があるはずなのに、それは微塵にも感じない。なにより旭山動物園の行動展示の面白さも動物たちの可愛さも、相変わらずでした。

事件があったからといって旭山動物園の魅力がなくなるわけではない、ということを再認識しました」

動物園も動物たちにも責任はない――最悪の逆風にさらされながらも、旭山動物園は「日常」を死守することで、再び力強く歩みだそうとしている。

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