「日本の農業を守る」と意気込む松上さん(後列左から2人目)ら農業自衛隊メンバーと、伊藤さん(前列左)(4月18日、多古町牛尾で)

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 現役の自衛官らが人手不足に悩む農家でボランティアをする「農業自衛隊」が、千葉県多古町を拠点に活動している。

 隊員らは平日に自衛隊や会社で働き、週末は農家の手伝いや米作りに励む。自衛官は定年が早く、再就職を必要とする人が多い。代表の松上信一郎さん(50)は「就農を退官後の選択肢にしながら、農業の人手不足や食料自給率の低下を解消したい」と意気込む。(吉持稀紘)

会社員の隊員も

 4月中旬、多古町の田んぼにトラクターの小気味いいエンジン音が響いた。「そこ削ったらだめだよー」。松上さんが操作を誤ってあぜを削ってしまい、仲間から笑いが起きた。この日の作業は田んぼをならす「代かき」。米の発育を左右する大事な作業だ。「初めての作業で難しかったが、左官仕事みたいで面白かった」と笑顔を見せた。

 農業自衛隊は、陸上自衛隊システム通信・サイバー学校(神奈川県横須賀市)で勤務する松上さんを「司令」とし、昨年1月に発足した。30歳代の男性自衛官2人と、40〜50歳代の会社員2人の隊員とともに休日に農作業に汗を流す。

 活動の柱は、農家で農作業を手伝う「援農」だ。高齢化や人手不足などの問題を抱える農家のもとへ出向き、苗の植え付けや草刈り、収穫などを手伝う。これまで多古町にとどまらず、神奈川県横須賀市、静岡県小山町などで50回以上、活動をしてきた。

 特に収穫期は作業が集中し、農家にとっては大きな負担となる。現場では重さ30キロの米袋の運搬など体力を必要とする作業も多く、「やめようと思っていた農業を続けられた」といった声も寄せられているという。

 隊員で会社員の江口亜矢さん(48)は「太陽の下で汗を流す充実感、自分で育てたものを食べる喜びなど、何にも代えがたい価値を感じる。この感動をより多くの人に伝えていきたい」と話す。

「定年後」見据え

 松上さんが同隊を結成するきっかけとなったのが、定年後を見据えて2024年11月から参加した農業セミナーだった。訪れたサツマイモ農家では、従業員20人のうち日本人は1人だけ。ほか19人は技能実習生が占めていた。「日本人を雇いたくても人が来ない」と嘆く農家の言葉に衝撃を受け、農業の行く末に危機感を抱いた。

 自衛官は定年が階級によって異なるが、大多数は55〜57歳で定年を迎え、再就職が必要となる人が多い。一方で「一般企業では技能を生かせない」「希望した職種に就けない」などの声があるという。

 松上さんは「農業なら、訓練で培った体力や統率力、効率的な作業手順の構築力を生かせるのではないか」と考え、「農業を通して日本を守りたい」と農業自衛隊を組織。松上さんら自衛官3人と、セミナーで知り合った会社員2人で活動をスタートさせた。

 メンバーは5人全員が農業未経験者のため、同隊の理念に共感した多古町の兼業農家伊藤昌弘さん(61)が支援している。

 伊藤さんが農業を行う牛尾地区では、成田空港の新滑走路建設によって離農する農家が増加。伊藤さん自身もいずれは地区を離れるという。同隊の活動を知り、「農業を始める人が増えるなら協力したい」と、田んぼや機材を貸し出し、稲作のコツを一から教えている。伊藤さんは「実力はまだまだだけど、真剣だし、楽しそうに仕事をするのが良いね」と目を細める。

各地に「地域隊」

 農業自衛隊は普及活動にも力を入れる。北海道、神奈川、熊本、佐賀などにも4、5人の小グループ「地域隊」を設け、各地で援農を開始している。メンバーは、松上さんのかつての部下などが担っている。

 今後は退職自衛官や農業未経験者に対し、農業技術や基礎知識を学ぶ機会を提供する考えだ。農家や小学校などの教育機関と連携し、現場での研修を通じて担い手の育成も図る。

 松上さんは「活動を通じて農業に触れ、関わる人を増やす。日本の農業を守りたい」と話している。