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エスプリを描いたデザイナーを招聘

AC 3000MEのステアリングは機敏に反応しつつ、フィードバックは薄め。アンダーステアは抑えられているものの、不意にクルリと向きが逆転するのでは、という不安が拭えない。ミドシップで、前後の重量配分は40:60だという。

【画像】予想裏切る面白さ 3000MEとタスミン 半世紀前のACとTVR コブラも 全129枚

とはいえ中域で逞しく、カーブが続く裏道を飛ばしても、確かなグリップ力で走りは安定。舗装のツギハギでの入力は目立つが、乗り心地も充分しなやか。丁寧に扱えば、優れたグランドツアラーといえ、長距離ドライブとの相性は高い。


レッドのTVRタスミン 2.8i S1と、ホワイトのAC 3000ME    マックス・エドレストン(Max Edleston)

これは、1970年代のTVRも求めていた特性だろう。1976年まで、10年ほど同社を率いたマーティン・リリー氏は、ポルシェやロータスと競えるモデルを望んでいた。衝突安全性や型式認証の厳格化により、北米で販売するには、モデルの刷新が必要だった。

そこで招聘されたのが、エッジーなロータス・エスプリの開発にも関与した、デザイナーのオリバー・ウィンターボトム氏。彼は同僚だったシャシー技術者、イアン・ジョーンズ氏をメンバーへ推薦しつつ、リリーの高い期待へ応えた。

当時としては驚異的に小さい空気抵抗

ジョーンズは、強固なFRP製セルを開発。チューブラーフレームで補強し、キャビンの側面衝突安全性を大幅に高めた。サスペンションは前後ともダブルウイッシュボーン。前はフォード、後ろはジャガーの技術が流用されていた。

ブレーキはディスクで、インボード・レイアウト。リアにはリミテッドスリップ・デフが組まれ、フロントには、フォード由来の2.8L V6ケルン・ユニットが収まった。


TVRタスミン 2.8i S1(1980〜1981年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

ウィンターボトムの描いたウェッジシェイプは、初期のエスプリ S1に並ぶ空気抵抗を実現。風洞実験で確認されたCd値は0.36と、当時としては驚異的な小ささだった。

プロトタイプは公道で数1000km試走され、その頃に「タスミン」という名称も生まれた。オーストラリアのタスマン・レースが、その由来だという。

トップへ就く直前のウィーラーがオーナー

1980年1月のベルギー・モーターショーで、タスミンは発表。AUTOCARは、見た目の美しさと仕上がりの高さを評価した。他方、0-97km/h加速は8.2秒で、TVRの先代モデル、7.7秒の3000Mを動力性能では超えてはいなかった。

レッドのタスミンは、マシュー・ロブ氏が現オーナー。1980年1月から1981年3月に提供されたショートテール仕様、S1の1台として、14番目にラインオフしている。初代オーナーは、TVRのトップへ就く直前のピーター・ウィーラー氏だ。


TVRタスミン 2.8i S1(1980〜1981年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

彼は、パワー不足を伝える手紙をTVRへ送付したらしい。その返答は定かではないが、1981年にTVR自体のオーナーにもなっている。ロブは、2021年にこのタスミンを購入。それまでにボディはレストアされ、ブルーからレッドに塗り替えられていた。

スタイリングは、1980年代の流行を力強く物語る。アルファ・ロメオ・アルファスッドやマセラティ・カムシンなど、他のモデルとの印象も重なる。ボンネットは極めて低く、2.8L V6エンジンが潜んでいることを感じさせない。

濡れた路面でも積極的に走らせられる

キャビンは明るく開放的。ダッシュボードはウォールナット・パネルで飾られ、スチュワート・ワーナー社製メーターが6枚並ぶ。カーペットは毛足が長く、シートはサイドボルスターが高い。ガラス製ハッチを開くと広い荷室へアクセスでき、使い勝手も良い。

この個体は走行距離が約16万kmと長く、新車時より各部は緩いはず。まだ4万kmほどの3000MEと、直接比較するのは公平ではないだろう。それでも、依然としてソリッド。ステアリングは重く正確に反応し、すわりも悪くない。


TVRタスミン 2.8i S1(1980〜1981年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

路面が濡れていても、タスミンなら積極的に走らせられる。高い位置へレバーが伸びる4速MTは滑らかに変速でき、V6エンジンの反応はシャープ。シングルキャブレターの3000MEの方が、インジェクションのタスミンより快活そうに思えるけれど。

2台の運転の楽しさは予想以上

回転上昇とともにサウンドは増大する反面、速度上昇の勢いはそこまでではない。最高出力は162psあっても、車重が1163kgと、3000MEより120kg重いことが影響しているのだろう。サスペンションも、より懸命に動く印象が漂う。

タイヤのグリップ力は頼もしく、サーボ付きのディスクブレーキは強力に効く。ペダルを、しっかり踏み込む必要はあるけれど。


TVRタスミン 2.8i S1(1980〜1981年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

この2台の運転が、ここまで楽しいとは予想していなかった。3000MEには、カスタムカー的な雰囲気も伴うが、技術は煮詰められ驚くほど洗練度は高い。メーカーの規模を考えれば、傑作のグランドツアラーだと表現できる。操縦性は、ややナーバスだが。

タスミンはスポーツカー寄り。親しみやすく、気兼ねなく楽しめる。実用性や乗り心地に優れ、グランドツアラー的に乗ることも問題ない。だが筆者なら、しばらく悩んで、3000MEを連れて帰るだろう。今後、評価が更に高まることも期待して。

協力:英国自動車博物館、TVRカークラブ、ストーン・コールド・クラシックス社

小さなブリティッシュ・スポーツ 2台のスペック

AC 3000ME(1979〜1985年/英国仕様)

英国価格:1万3301ポンド(新車時)/3万ポンド(約630万円)以下(現在)
生産数:101台
全長:3988mm
全幅:1651mm
全高:1143mm
最高速度:193km/h
0-97km/h加速:6.5秒
燃費:6.7km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1043kg
パワートレイン:V型6気筒2994cc 自然吸気 OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:140ps/5000rpm
最大トルク:24.0kg-m/3000rpm
ギアボックス:5速マニュアル/後輪駆動

TVRタスミン 2.8i S1(1980〜1981年/英国仕様)

英国価格:1万2800ポンド(新車時)/1万ポンド(約210万円)以下(現在)
生産数:122台
全長:4013mm
全幅:1728mm
全高:1192mm
最高速度:209km/h
0-97km/h加速:8.2秒
燃費:7.6km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1163kg
パワートレイン:V型6気筒2792cc 自然吸気 OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:162ps/5700rpm
最大トルク:22.3kg-m/4300rpm
ギアボックス:5速マニュアル/後輪駆動


レッドのTVRタスミン 2.8i S1と、ホワイトのAC 3000ME    マックス・エドレストン(Max Edleston)