さらば帝国(写真=上村 窓)

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 今年2月、下北沢SHELTERのイベントで初めてライブを観て、衝撃を受けたバンドがいる。その名も、さらば帝国。前田祐快(Vo/Gt)、田代ほの香(Dr/Cho)、ウノコウダイ(Ba/Cho)から成る3ピースバンドだ。

 その音と歌はSHELTERの天井を軽々と突き抜け、眼前にだだっ広い空と海の情景を描き出した。パンクロックの尖った衝動性と反骨心を持ちながらも、まるで風や波といった自然のグルーヴに身を委ねているかのようなスケールの大きさ、優しさ、強さ。何を隠そう、フロントに立つ前田は新島(東京都・伊豆諸島を構成する島の一つ)の出身。ビルやコンビニではなく、豊かな海や森に当たり前に囲まれて育ってきたからこその、何にも遮られることのないメロディ、気高い山々を目がけて空高く突き抜ける歌心。そして3ピースバンドとしての美しいバランスと佇まいに、心からの感動を覚えた。都会の生活に慣れすぎて、世間のしがらみに気を使いすぎて、いつのまにか忘れてしまった“本当のこと”。それがロックの爆音に乗っていきなりぶっ飛んできて、バチンと目を覚まさせられたような感じだ。SHELTERのイベント終演後、思わず物販に立つ前田に話しかけ、「インタビューさせてくれ!」と直談判し、今日に至る。

 本稿は、さらば帝国にとって初のインタビュー記事となる。昨年は『FUJI ROCK FESTIVAL'25』に出演し、新島では3年前から主催イベント『Loco Motion!!!』を開催して様々なバンドを招致しているだけに、インタビューが初というのは少々意外だったが、ここから彼らは根幹にある“遊び場”を広げていきながら、さらに大きなバンドになっていくに違いない(すでにハルカミライの橋本学がラジオでさらば帝国をレコメンドするなど、その名は確実に広がりつつある)。メンバーのルーツ、結成の経緯、活動の原動力となっている想いや歌詞などについて話しているうちにあっというまに時間が経ってしまい、まだまだ聞きたいことはたくさんあるのだが……まずはこの記事が、さらば帝国という素晴らしいバンドを知る一助になってもらえたら幸いだ。(信太卓実)

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◾️新島育ちのフロントマン=前田祐快の人生観と直結したバンド活動

――先日、SHELTERのライブではありがとうございました!

前田祐快(以下、前田):こちらこそです!

――さらば帝国のライブを初めて観て、パンクの衝動性と鮮やかな情景描写の両立を、音楽性としてだけじゃなくパフォーマンスそのもので成し遂げているバンドがいることにとにかく衝撃を受けたのですが。皆さんはそれぞれ、さらば帝国ってどんなバンドだと思っていますか。

前田:そもそも僕の音楽体験自体が、今言っていただいたようなパンクと情景の融合から始まっているんですよ。高校生の頃にHi-STANDARDに出会ってドハマりしたんですけど、ずっと新島で育ってきたので、一歩外に出ると海、山、森、潮風があって、それら全部がセットだったんですよね。カーテン全開にして、景色を見ながら爆音で音楽を流したり、海辺でギターを掻き鳴らしたり。内側に突き詰めていくような音楽も大好きですけど、僕はずっと外の景色を見てきたから、バンドでもそういう放ち方になるのかなって。あと、さらば帝国はフォークバンドでもあると思っていて。フォークとパンクって似てるというか、イギリスではエレキギターを持ったパンクで自己主張していて、日本では学生運動とかの時代にアコギを片手にフォークでそういう歌を歌っていたりする。パンクと近いところにある、フォークのそういう部分が好きですね。

――なるほど!

前田:でも、さらば帝国が何を大事にしてるバンドかって言われたら、“場所作り”だと思ってます。僕はよく「国を作る」という言い方をしていて。地元の新島で『Loco Motion!!!』っていう主催イベントを何度か開催しているんですけど、それって「大きなイベントに呼んでくれないなら自分たちで作っちゃおう!」っていう発想から生まれたんです。島っていう場所柄、船が欠航しちゃうとかいろんなハンデがあるけど、そこを掻い潜って辿り着いたらものすごいものが見られるんですよ。これが広まったら楽しそうだなって思うから、さらば帝国は常に場所作りをしたいバンドです。今はそれを広げていってる段階ですね。

――その「自分たちで作っちゃおう」っていう原動力はどこから来るものなんでしょう?

前田:僕が新島でそういう遊び方ばかりしてきたからですかね。ビルとかコンビニとか、都心では当たり前にあるものが新島にはない。でも逆に、海とか山とか森があって、自分たちの想像力次第で何でも遊べる環境だったんですよ。太平洋を見てるだけでもいいし、東の海に行けば波が立っているから、サーフィンだってできるし。新島には10年以上続いていた『WAX』(2018年に終了)っていうイベントがあったんですけど、大工さんたちがお盆限定で集まって、砂浜に重機とかを持ってきて、ひと夏のビーチラウンジをボランティアで作っちゃうんです。それがめちゃくちゃ綺麗で。そうやって先輩たちが自分たちで遊び場を作って、真剣に遊ぶ姿を見てきたから、自然とそういう思考になったんだと思います。僕が「新島でイベントやりたい」と言った時も、力を貸してくれる人がたくさんいて、周りにも恵まれていたなと思いますね。

――それってパンクの“DIY精神”にも近いものですよね。

前田:あー、なるほど。でも僕らとしては「DIYやってる!」って感じではないんです。結果的にそういう精神性になっているのは嬉しいけど、そうせざるを得ない環境だったということは忘れないでおきたい。だからこそ柔軟に助け合えるし、困った時は「お願いします!」って素直に言えるので。

田代ほの香(以下、田代):たぶん、3人とも“把握したがり”なんですよね。やれることは自分たちでやるのが楽しいし、だから全部真剣に取り組めてるんだと思います。例えば、「普通のCDじゃ面白くないから、布で入れ物作っちゃおう」とか「物販は手作りにしよう」とか、いろいろやってるんですけど、これも周りから見たらDIYなんですよね。でも私たちの中では「なんか新しい感じのCD作れないかな~」っていうだけで作ったのが、今も続いているだけだったりするんです。

ウノコウダイ(以下、ウノ):結果的には新しいものができてるんでしょうけど、ただ楽しさ先行でやってる気がしますね。そして、僕らが楽しんでやってることを、他のバンドがあんまりやらない(笑)。

田代:うんうん。

前田:なんでやらないのかっていうと、大変なんですよ(笑)。布でCD作ると量産しにくいからメンバー自身で作らないといけないし、そうしたら縫い物ができないといけないし、布の買い出しや在庫の把握ができて、サボらない人が必要じゃないですか。たまたま辛抱強くて決してサボらない田代さんがいたので、僕らはそういうピースが揃ったからできているんです。

田代:あはは。

――今はCDを作らずにリリースするアーティストも多い中で、そういった物作りのこだわりを持てているのはなぜだと思います?

田代:もともとCDを集めるのがめちゃくちゃ好きな時期があって。その時に、紙ジャケットとかジップロックに入ったCDとか、パッケージの種類がたくさんあることを知ってすごく楽しかったんです。それで前にやっていたバンドで、デモ盤CDを作る時に、モコモコのハギレをくっつけて一個ずつ違うジャケットを作ってみたら、「めちゃくちゃいいじゃん!」ってなって。だから、さらば帝国でCDを作るって話になった時も、布を使ってみたかったんですよね。古着を活かしたリサイクル的なこともしたいし、CDが一つのアート作品みたいになったら面白いなって。私は消しゴムはんこが趣味なのもあって、収録曲のタイトルを毎回消しゴムはんこに彫って押したりもしていて、そうやって自分の趣味が形になったのも嬉しかったりとか。まあいろんな理由があるんですけど、せっかくCDを作るなら、忘れられないものにしたいっていうのが一番大きいかもしれません。

――まさに血の通った表現という感じで、さらば帝国らしいなと思います。ウノさんはどんなバンドだと感じていますか。

ウノ:3人のバランス感がいいなと思っていて。祐快は「GO!」って物事を進める役割で、僕は「いや、今行くのはどうなんだ?」って言いがちなんです。で、そのやり取りを見て最終的にどうするかを決めるのは田代なんですよね(笑)。向かう先は一緒だけど、同じ人間がいない、3人の性格が被っていないっていうのが、このバンドのいいところなのかなと思ってます。

◾️互いにサポートし合って1つのバンドへ――“さらば帝国”結成経緯

――皆さんは同い年なんですか?

ウノ:いや、全員バラバラで。祐快が1999年生まれ、僕が1998年、田代が1997年。みんな一つずつ違うんですよ。

――そうなんですか。じゃあ結成の経緯を詳しく聞きたいです。

前田:僕と田代さんは、8年前からアフロバンクっていうバンドで一緒に活動してきたので付き合いが長いんですけど、ベーシストが途中で抜けて、いろんな人にサポートをお願いしていたうちの一人がウノくんでした。彼もThe 7 Inch Universeっていうバンドを当時やっていて、対バンしたこともあったんですよね。

ウノ:アフロバンクとThe 7 Inch Universeは結成年月がほぼ一緒で、数少ない同期って感じでした。アフロバンクの企画に呼んでもらったこともあったんですけど、コロナ禍の時期にお互いのバンドが止まっちゃったこともあって。

前田:その時、The 7 Inch Universeもドラマーが抜けてしまったので、ウノくんが田代さんにサポートドラムをお願いしたいって声をかけてきたんですよ。それでお互いのバンドをサポートし合う時期が2年くらい続きました。で、2023年に新島で初めての『Loco Motion!!!』があって、その時は別のベーシストにお願いするか、僕と田代さんの2ピースでいくかとか、いろいろな案があったんですけど、ウノくんが「俺行きたい。船代は自分で払うから」って言ってくれて。『Loco Motion!!!』が終わったあとも、汗だくになったウノくんが「今日はどのイベントよりもここが一番最高だった!」と言ってくれたのをめちゃくちゃ覚えてるんですけど、そこから風向きが変わった感じですね。「ぜひ正式メンバーになってくれ」って誘って、一度断られたんですけど1年くらい口説き続けて、一昨年の夏にようやく加入してくれたって感じです。ちなみに『Loco Motion!!!』の第1回目が終了してから3カ月後に、アフロバンクから「さらば帝国」に正式に改名したんですよ。

――バンド名も編成も、現在の形になったのはわりと最近の出来事なんですね。

前田:そうなんです。ウノくんがバンドに入るって言ってくれた時のシチュエーションもすごく良くて。2回目の『Loco Motion!!!』が開催される直前でかなりバタバタしてた時期で、各所との電話とか書類のやり取りもたくさんあるし、プレイベントも同時並行でやっていたから、てんやわんや状態で。そんな中で僕ら3人で最後のミーティングをして、終電ギリギリになってようやくイベントのことが落ち着いて、頭パンパンで帰ろうとした瞬間に、ウノくんから「ちょっと待って!」と言われて。「あの……やっぱ入りたいです」って(笑)。

――(笑)。

前田:「今!?」ってなったもんね(笑)。

ウノ:僕も頭パツパツすぎて。漏れちゃったんですよね、「加入したいです」が(笑)。

田代:かわいい(笑)。

――ウノさんはその時のことは覚えてるんですか。

ウノ:自分のやってたバンドとのバランスもあって、1年くらいずっと悩んでいたんですけど、サポート時代から一緒にやることがシンプルに楽しかったし、言語化できていなかったけど意義も感じていたし……そう思うと、加入の決定打はとっくにあったんです。ミーティングのあとに入りたいってポロッと言ったのは、このバンドの推進力に押されたのかもしれないですね。例えばこのバンドが部活だったら、顧問の先生の指導の下で、大会や文化祭に向けて動くわけじゃないですか。でもそうじゃなくて、僕らの脳みそ3つで夜中まで話し合って、一つの目標に向かって動けている――それだけ前に進む力がこのバンドにあるなら、今まで自分を止めていた理性を取っ払った方がいいなって思ったんです。

――では、前田さんと田代さんの出会いは?

田代:私が高校を卒業したあと、バンドを組みたくてライブハウスに履歴書を送りまくって、下北沢GARDEN(2020年閉店)でバイトを始めたんですよ。そしたら2~3年目くらいの時に、「どうやら島から、サッカーも野球もやっててギターも弾けるサーファーが来るらしいぞ」っていう情報が入ってきて(笑)。それが前田祐快でした。

前田:(笑)。僕も高校卒業してバンドをやりたくて上京して、ライブハウスで働けばバンドやりたい人がいっぱいいるだろうと思って飛び込んだら、研修初日に田代さんと出会った感じでした。

田代:最初はガールズバンドを組みたくて、もう一人の女の子とメンバーを探してたんですよ。けど、その子は違う夢ができて早々にバンドを辞めちゃったので、それから祐快の作った曲を聴かせてもらったんですけど、めっちゃいいなと思って。祐快の声を聴いた時、本当に大きな山や木々が見えたんです。一緒にバンドをやりたいと思って、8年前に前身となるポップパンクバンドのアフロバンクを組みました。

◾️Hi-STANDARD、ミッシェル……さらば帝国にとっての特別なルーツ

――先ほど『Loco Motion!!!』の初開催後に改名したということでしたけど、「さらば帝国」っていうバンド名にはどんな意味が込められているんですか。

前田:アフロバンクの頃に「天国にいける様な」っていう曲ができた時、「この曲を出すなら今のバンド名はそぐわないな」ってことで名前を変えようと思ったんです。さらば帝国って「帝国にさようならをする」という意味で。帝国っていうのは、僕の中では“固定観念”みたいなものなんですよ。昔、ローマ帝国とか、帝が司るものが世界にはたくさんあって、絶対に揺るがないものだって当時は思われていたわけじゃないですか。でも今は、帝みたいな存在の人はいるけど、帝が統治している帝国というものはない。それと同じように、今は見えなくても、未来から見ることで価値観が変わるものってあると思うんですよね。僕も結構、固定観念にとらわれやすいので、そういうものにさようならしたいなって。

 でも、さようならするだけじゃ無責任じゃないですか。そのあとに辿り着く場所が必要なわけです。そうなった時に、僕らのやりたいことである“場所作り”に繋がるんですよね。ライブハウスも一つの国みたいな側面があるし、イベントや音楽自体も同じで。そういう存在にすごく助けられてきたので、僕らも場所を作りたいっていう願いを込めて「さらば帝国」っていうバンド名をつけました。

――まさにバンドの根幹と繋がってくるわけですね。では、3人の音楽的なルーツを知りたいんですけど、自分にとって特別なアーティストって言われると誰が浮かびますか。

前田:僕はHi-STANDARD一択です。とことん自分たちの力で凄まじいことをやり続けてるから、ずっと人気があって、人がついてくるんだろうなって。彼らも「フェスがないなら自分たちでやっちゃおう」みたいなスタイルですよね。そういうところが大好きなんです。曲中ではふざけたり恥ずかしいことを言ったりもするけど、美しい音色も鳴らすし、コーラスワークとかグルーヴもすごい。初期衝動だけでは収まらないバンドだなって思いつつ、何をやっても根底にあるのがパンクだっていうのが伝わってくるんですよ。パンクっていうのは姿勢であって、音楽ジャンルじゃねえんだなってことを教えてもらったバンドでもありますね。

ウノ:僕はあまり音楽に熱中したことがなかったんですけど、大学生になってTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを知ってグーパンを食らった感じでした。母がピアニストだったんで、小さい頃はクラシックとかポップスを聴いてはいたんですけど、スピーカーから大きい音を出しながらちゃんと聴いた音楽はミッシェルが最初です。「NIGHT IS OVER」っていうピアノの入ったインスト曲があるんですけど、それを聴いて泣いたんですよね。インスト曲で泣いたのはそれが初めてで。最初にバンドを組んだ時、楽器屋で見つけたウエノ(コウジ)さんと同じベースを買って、今もお守りみたいにずっと使ってます。

――あえて言うとしたら、ミッシェルにそこまで衝撃を受けたのはどうしてなんでしょう?

ウノ:うーん……何だろう……。

前田:ウノくんって戦隊ヒーローの立ち姿とかにかっこいいって思うから、ああいうのに近いんじゃない?

ウノ:あ、そうかも! 人のライブを観ててもそうなんですけど、僕ってかっこいいものに圧倒されて泣くことが多いんですよ。ミッシェルはもう、立ってるだけでかっこいいですもん。言われてみれば、戦隊ヒーローと近いのかも。

前田:ウノくんがそういう衝撃を受ける時って、形から受け取ってるのかなって勝手に思ってるんですよ。子供の頃、「戦隊ヒーローがかっこいい」なんて教わらなくても、自然とかっこいいって思うじゃないですか。それってたぶん、かっこいいって思わせるだけの形がちゃんとあるからで。アベ(フトシ)さんの身長の高さとか、クハラ(カズユキ)さんの髪型とか含めて、ミッシェルは姿そのものがかっこいいから、それを機敏に感じ取って影響されてるんじゃないかなって。ウノくんもバンドの見え方をちゃんと気にするタイプだから。

ウノ:よく説明できるね(笑)。確かにそうかも。でも単純に見てくれだけじゃなくて、特に人前に立つと滲み出る、“見えないかっこよさ”っていうのも同時にあると思っていて。これは祐快に対しても思ってることだし、ベンジー(浅井健一)にも同じことを思います。去年のフジロック(『FUJI ROCK FESTIVAL'25』)でサンボマスターのステージに、ヒロト(甲本ヒロト)とマーシー(真島昌利)が出てきた時、仁王立ちしたまま泣いて動けなかったんですよ。そこに滲み出る見えない何かのかっこよさも、すごく気にしてるのかもしれません。

――田代さんはどうですか?

田代:私の始まりはチャットモンチーですね。両親が音楽好きで、小さい頃からいろんな楽器を勧められたんですけど全部断ってたんです、習い事するのが嫌で(笑)。でも小学5年生の時、「今テレビに出てるチャットモンチーって観てる? めっちゃかっこいいからコピバンやろうよ!」って友達から電話かかってきて、ノリでOKして、お父さんがドラムやってたから私もドラムをやるっていうことになって。そこからチャットモンチーにのめり込むようになりました。小学6年生の時に行った初めてのライブが、下北沢SHELTERのチャットモンチーで。

――小学生でSHELTER行くって早いですね(笑)。

田代:保護者に付き添ってもらいながら(笑)。そこで観てさらに好きになって、全曲コピーするくらいハマりました。同じくらいの時期に日本の芸能クラブに入って和太鼓も始めたんですけど、わりと強豪校だったこともあって、和太鼓にも熱中しましたね。太鼓芸能集団 鼓童っていうフジロックにも出たことのある和太鼓集団がいるんですけど、伝統を守りながら新しいものを取り入れてる感じがすごく好きで、チャットモンチーと同じくらい影響を受けています。

――さらば帝国のライブを観た時、鋭い目つきで叩く田代さんのドラムが、バンドのグルーヴを牽引しているような印象を受けました。

田代:ありがとうございます。昔、お父さんにドラムを教えてもらおうと思ったんですけど結局教えてもらえなくて、でも一言だけ言われたのは「映画をたくさん観ろ」ってことだったんですよ。たぶん、ドラマチックなドラマーになれよみたいなことだと思うんですけど。

前田:かっけぇ……。

田代:当時は全然意味がわからなかったんですけど、最近になって祐快の曲は結構ロマンチックなところとかストーリー性を感じる部分があるから、「ここは海のそばを走ってるな」とか「ここは海に潜ったんだろうな」とか、そういうことを考えながら叩いたりしてますね。だから私は歌があって初めてドラムがつけられる気がします。ライブ中も、テンポを意識するとかじゃなくて、歌に合わせつつ、祐快のことを「おい、来いよ!」みたいに引っ張ってる感じです。それが目つきに出てるのかもしれないですね。コウダイくんは横にいて、私が調子悪くなってきたら勝手に引き上げてくれる存在というか。そういう安心感があるから、私は祐快の方を見ていることが多いんですよね。

――そういう阿吽の呼吸も含めて、3人のステージ上でのバランスの良さはすごく感じていて。個人的な見解ですけど、前田さんのボーカル&ギターは“空”、ウノさんのベースは“大地”、田代さんのドラムは“風”や“波”を担っているイメージがあって。3人それぞれが、さらば帝国という音楽のスケールを体現している感じがするんです。

田代:嬉しい!

前田:うわー、それいいっすねぇ! 僕は田代さんを波だと捉えてるんですけど、ウノくんが大地、僕が空っていうのもまさにその通りで。ベースのフレーズを考える時も「変に動きすぎると、大地が揺れて形が保てないよな」とか、「波が大地に当たることで広がりが生まれて揺らぎになるのに、大地まで動いちゃうとそれが生まれないよな」みたいに考えたりします。一方で、空はどこまでも広がる可能性みたいなものだと思ってるので、リリックやメロディを作る時は、“空をいかに高くできるか”って考えていて。この3ピースのバランスが合っているから譲れないよなって思っていたので、思わず共感しちゃいました(笑)。

◾️「セスナ」「天国にいける様な」……歌詞に込められた“嘘のない願い”

――よかったです(笑)。それこそ下北沢SHELTERで「セスナ」を初めて聴いた時、地下にいるのに、でっかい空が目の前に見えた気がしたんですよ。それくらいスケールの大きな歌心にびっくりしてしまって。

前田:ありがとうございます!

――青空って、時に眩しすぎて直視できないもの、荒んだ心を残酷なほど照らし出してしまうものの象徴として描かれる時がある気がするんですけど、さらば帝国の歌詞って、そういう感性とは違っていて。本当にだだっ広い空を、ひたすら大きく歌っていることに感動したんです。この感覚は何なんでしょう?

前田:今言われてハッとしました。そもそも、“何もない大きく開けたもの”っていうのが僕にとっての空だったんで、それを歌う以外のことは考えられなかったんですよね。僕が新島で見てきた空をSHELTERで鳴らすと、そういう風に受け取ってもらえるんだなって思いました。「セスナ」に対して、最初は僕自身あまりピンときてなかったんですよ。引っかかりがなさすぎる気がするというか。

――そうだったんですか。

前田:でも聴いた人がみんな「〈大きな空を抱きしめて〉って歌うの、たまんねえよ!」って言ってくれたから、そうなんだって気づいて。中学生の時、島に赴任してきた国語の先生が、「君たちは夜空を見上げて、『今日は満月だね』『星が綺麗だね』っていう話をするだろう? これは本当に大切な感性だから忘れない方がいい。優劣をつけるわけじゃないけど、僕がかつて教えていたクラスでは、そういう話をしなかった。そもそも月や星が綺麗に見えない場所がほとんどだから」っていう話をしてくれたんですよ。僕はそれがすごく印象的で、「セスナ」を書く時も思い出してましたね。

――しかも、前田さんの歌詞には自然のことがストレートに書かれているけど、単に景色を描写しているだけじゃなくて、“広大な自然を前にして露わになる自分自身”のことが浮き彫りになっている感じがする。自然を描くことで、自分自身と向き合う歌になっていることが面白いなと思います。

前田:嬉しいですね。それは自分が物事を考えている順番が、歌詞にも素直に出ているのかもしれないです。学生の頃にめっちゃ聴いてた曲を聴くと、当時を思い出すことってあるじゃないですか。それが僕にとっては島の自然なんです。あの時何を考えてたんだろうって思うと、その時の風や空を思い出すので、そこに自分の感情をどう乗せようかなって。そうやって曲を作ってますね。

 でも情景を描くことに関しては、歌詞はもちろん、バンドサウンドや歌もセットにして考えてるかもしれないです。歌声とバンドの音が合わさって初めて、自然と同じフィールドで戦える気がするというか。

――というのは?

前田:歌声も音も嘘をつかないですよね。“どう弾くか”ってことに対しては嘘をつけるけど、出てる音自体に嘘はないじゃないですか。だから僕の中では、それによって初めて、自然っていう嘘のないものとイコールの立場で戦える気がするんです。歌詞だけ見たらイマイチだと思ってたものも、3人で演奏することでいいものになることってあるんですよね。

――なるほど。では、バンドの代表曲と言ってもいい「天国にいける様な」はどんなきっかけでできた曲なんでしょう? 〈天国にいける様な/僕の生活は/地獄そのものの様な気がして/話が上手なアイツの/魅力が僕を刺してくる〉っていう歌詞が強烈に刺さりまして。

前田:新島にヒッピーの親友がいるんですよ。隣の家に住んでいて、本当に大好きなヤツなんですけど、生活が真逆なんですよね。そいつは新島のみんなと自然の中で暮らしていて、僕は上京して働きながらバンドをやってる。そこから生まれた価値観のズレもあってか、ある日飲んでて喧嘩になったんですよ。そいつに言われたことがすごい悔しくて、「絶対いい曲書いてやる!」と思って、10分くらいで作った曲が「天国にいける様な」です。すごい素直な曲で、果たし状みたいな気持ちで書きました(笑)。暗くも明るくもない、ニュートラルないい曲ができたなと思っています。

 最近「自分は大変です」ってあまり言っちゃいけないような風潮を感じるんですよ。「みんな大変だから頑張らなきゃ」みたいな。でも僕はそれがあんまり好きじゃなくて。だって実際、みんなそれぞれに大変なことがいっぱいあるわけだし、みんなが気持ちいい場所、過ごしやすい場所を探しているし、みんな報われたいと思っているわけじゃないですか。僕は「救う」とかわかりやすいことは書かないし、ちょっと淡泊に見える歌詞かもしれないけど、みんながいい感じになればいいのにな、報われるまで大変なことも多いよな、もっとどうにかならないかな……っていう気持ちは根底にあるから、この曲にはそういう願いも込められていると思ってます。

――自分と同じような境遇の人に語りかける歌も多い一方で、「みんないい感じになればいいのに」っていう気持ちで歌うことができるのはどうしてなんでしょう?

前田:僕、会いたい人がいるんですよ。別にミュージシャンっていうことじゃなくて、これまで普通に生きて出会ってきた、いろいろな人たち。それぞれみんな遠くの方にいて、会いたいけど簡単には会えない。その人たちに届いてほしいなって思うからですかね。

――そういう自分の気持ちを嘘なく歌い上げている感じがするから、ライブで聴いてると「お前はどうなんだ?」って問われてるような気がしたんですよね。いい意味で、こちらの背筋が伸びるというか。

前田:人を説教したいわけじゃないんですけど、『Loco Motion!!!』を旗揚げしてる僕が一番気合い入ってなきゃダメだろっていう気持ちが出ているからかもしれないですね。そうじゃないと誰もついてこないよなって思うから。それが一番シンプルな要因かもしれないです。

◾️主催イベント『Loco Motion!!!』は「さらば帝国でしか作れない」

――その『Loco Motion!!!』が今年も6月に新島で開催されるわけですが、改めてイベントの魅力を教えてもらえますか。

ウノ:『Loco Motion!!!』は僕らにとっての“セーブポイント”なんですよね。バンドとしてはこれから大きくなっていかなきゃいけないから、大きなフェスにも出たいけど、結局帰ってくる場所は年1回の『Loco Motion!!!』なんで。1年頑張って、『Loco Motion!!!』でセーブして、また次の1年を頑張るみたいな。新島に来ると、全てから解き放たれるんですよ。電車もないから終電を気にする必要はないし、そもそも気にする余地すらない場所なので、本当に自然体なままでいられると思います。ただ好きなバンドを見て、夜道に寝っ転がって星を見たり、海に入ったり、美味しいパンを食べたり、朝散歩したりして、気づいたら時間が経っている。そういうのが新鮮で楽しい方も多いと思いますし、他の場所じゃなかなかできないことばかりなので、僕らとしては大切にしていきたい場所ですね。

田代:私も新島に行くと、本当にシンプルなサイクルになるんですよ。ちょっと早起きして、散歩して、パン食べて、海入って、髪乾かして、メイクして、ライブして、みんなでお酒飲んでっていう。普段のライブだと、私たちが剥き出しになっていって、それに呼応してお客さんもワーッと剥き出しになっていく印象なんですけど、『Loco Motion!!!』は逆で、お客さんが先にどんどん剥き出しになっていくから、私たちも剥き出しになってしまう感覚があるんですよね。それで会場がエラいことになるっていう(笑)。見たことない光景に毎年驚かされます。

――僕も映像で観させてもらって、どえらい盛り上がりでびっくりしました(笑)。

田代:ですよね。新島出身の祐快がいるバンドだからできるイベントだと思うし、この熱狂の渦みたいなものは、さらば帝国でしか作れないっていう自信があります。『Loco Motion!!!』にはさらば帝国の全てが詰まってますね。

前田:新島にはライブハウスもないけれど、地元の大切な場所である丘の上のレストラン(新島親水公園れすとはうす/さらば帝国はこのレストランでレコーディングも行っている)で開催していて。去年『Loco Motion!!!』に出てくれて、今年も出演してくれるUlulUの古沢(りえ)さんが、「みんなは、いずれ音楽の教科書に載るかもしれない一大イベントの創設者になんだよ。歴史の1ページになれるかもしれないんだよ」って言ってくれたんですけど、それがめちゃくちゃ嬉しかったんですよね。確かに僕らもそういう気持ちでやってるし、そういう流れが生まれる場所だと思ってるので、『Loco Motion!!!』というイベントの魅力を伝えて、もっと多くの人に来てもらえたらいいなと思ってます。

 僕としては、やっぱり固定観念が覆されるのが島の魅力だなと思うんですよね。海って綺麗なイメージがあるけど、実際はめちゃくちゃ海藻の匂いがして、場所によっては結構臭かったりするんですよ(笑)。でもそういうのが楽しいと思うし、葉っぱもよく見ると緑だけじゃなくて黄色もあったりするし、太平洋の香りとか、波の音の響きとか、いろんなものを感じられる場所だと思います。あとは、ご飯がめちゃくちゃ美味い! 海を眺めながら、芝生で美味いご飯を食べてライブを観られる、すごくいい体験になると思います!

――めちゃくちゃ行きたくなりました!

前田:ぜひ! バンドとしては『Family dance, nude』っていうタイトルで初の東名阪ツアーを7~9月にまわります。僕たちの原点であるホームイベントの『Loco Motion!!!』に来てもらって、それからツアーにも遊びに来てもらえたら嬉しいですね。

(文・取材=信太卓実)