「あなた、不器用だけど“当たり”だわ」スキマバイト先の60代ベテランパートが明かした“言葉の裏側”とは
大人になってから、知らない現場にひとりで行くのは少し緊張します。スキマバイトは、その空気の中に突然入り込める不思議な体験です。
今回お邪魔したのは、北関東にある福祉施設。約60人分の食事の調理や盛り付け、食器洗いを担当します。勤務時間は朝8時30分から14時まで。まかない付きで昼食代が浮くのも、地味にうれしいポイントです。人生で60人分の食事を作る機会なんてそうそうありません。緊張と好奇心が入り交じるなか、厨房の扉を開きました。
すると目の前にいたのは、60代のベテラン調理師(仮名・梅子と節子)の2人。大人数の料理を作るので、もっと人がいるのかと思いきや、まさかの2人体制です。鋭い視線を靴の先から頭まで浴びせ、筆者の前に立ちはだかる梅子と節子。まるで風神・雷神のような威厳と威圧感です。
◆初日から抗争勃発? 相棒選びか、派閥争いか
「おはようございます。本日はよろしくお願いします」
一通りの自己紹介を済ませると、梅子(仮名)が声をかけてきました。
「……よく来たね。さあ、私たちのどっちを選ぶか決めてちょうだい」
まるでポケモンの最初の相棒を選ぶシーンのようなセリフ。完全にゲームのワンシーンです。それとも、し烈な派閥争いに巻き込まれるのか──。そんなことを考えながら真顔で固まっていると、節子が笑いながらこう言います。
「なに真剣に悩んでるのよ(笑)。タマネギを切る担当か、キャベツの千切りをするか聞いてるだけよ」
◆キャベツ千切りで腕試し
調理自体は淡々と進み、さすが少数精鋭。無駄な動きが一つもありません。新人かつ、この数時間しかいない私が気をつけたのは、なにより“動線を邪魔しないこと”。それがこの現場での最優先事項でした。現場は「シン……」と静まり返り、ひたすら野菜を切る音が響き渡ります。すると、相変わらず眼光鋭い梅子から包丁を渡され、
「さあ、あなたの腕前を見せてちょうだい」と一言。
やはり梅子は、ゲームや映画のような口調で語りかけてきます。私はできる限り素早く、そして細くキャベツを刻みました。
「ふうん……まあ、合格。合格よ」
腕を組みながら去っていくその後ろ姿は、なぜかちょっとカッコいい。なんだかクセになってきました。
◆人手不足の現場が抱える負担
その後は怒涛の勢いで調理し、洗い物を担当し、風神雷神にくらいつこうと必死で作業をしていました。そして30分の昼休憩。二畳ほどの狭いスペースに密集し、3人で昼食を取ることに。梅子が静かに口を開きます。
「……あなた、不器用だけど“当たり”だわ」
知らないうちに行動をチェックされ、評価されていたとは。正直、怖い。しかしそのあと、梅子は言葉を続けます。
「この施設ね、何十人ってスキマバイトさんを雇ってきたの。みんな長くても5時間くらいで、3時間程度の短い人もいてね。その新人さんたちを私たちみたいな高齢のおばちゃんが、いちから教えるのは本当に大変でさ。一生懸命教えても、数時間後には大半がもう会わない人になっちゃうから……。なんていうか、んだなあ」
そして節子も続きます。
「施設の上の人に『長期で働いてくれる人を見つけてください』ってお願いしても、『そんなコストはかけられない。本当に人が足りないときに、不定期でその場しのぎの人を探す方がコスパがいいんだ』って。その負担が最近大きくなってきて、こんなふうに愚痴ってしまってごめんね」

