「腸閉塞」のサインは“便秘”という落とし穴?見逃せない3つの初期症状【医師監修】

腸閉塞で現れる腹痛には、「疝痛(せんつう)」と呼ばれる周期的な激しい痛みという、ほかの腹痛と区別するための大切な特徴があります。痛みの性質や部位、そして時間の経過とともに変化するパターンを知っておくことで、医師に状態を正確に伝える手助けになります。腸閉塞の腹痛が他の腹痛とどのように異なるのかについても、あわせてご確認ください。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

腸閉塞(イレウス)における腹痛の特徴

腸閉塞で現れる腹痛は、日常的に経験する胃痛や便秘の痛みとは異なる、いくつかの際立った特徴を持っています。痛みの性質(どのように痛むか)、場所、そして時間経過に伴う変化を注意深く観察することで、病状をより正確に判断し、医師に伝えるための重要な情報となります。

「疝痛」と呼ばれる周期的な腹痛

腸閉塞の腹痛で最も特徴的なのは、「疝痛(せんつう)」と呼ばれる、強い痛みの波が周期的に押し寄せてくることです。これは、閉塞部位を乗り越えようと腸が過剰に蠕動運動(収縮)を繰り返すために生じます。数分おきに、おなかをかきむしるような、あるいは雑巾を絞るような激しい痛みが襲ってきて、それが数十秒から数分続いた後、次の波が来るまで一時的に痛みが和らぐ、というサイクルを繰り返します。この痛みの間欠性は、腸がまだ生きている証拠でもありますが、時間とともに痛みは強くなっていく傾向があります。

この疝痛は、腸の蠕動運動が活発である限り続きます。しかし、腸閉塞が長時間続いて腸が疲弊し、動きが弱まってくると、痛みの周期性が失われ、持続的でズキズキとした鈍い痛みに変化することがあります。また、腸の血流が途絶える絞扼性イレウスに移行した場合も、虚血による持続的な激痛に変わります。痛みの性質が「波のある痛み」から「絶え間ない痛み」に変わったときは、病状が深刻な段階に進んでいる危険なサインである可能性が高いです。

腹痛の部位と広がり方

腹痛を感じる位置は、腸のどの部分で閉塞が起きているかによってある程度の傾向があります。へその周りなど、おなかの中央付近に痛みが出やすいのは、小腸(しょうちょう)の閉塞です。一方、下腹部や腹部全体にわたるような痛みが起きやすいのは、大腸(だいちょう)の閉塞とされています。

ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、痛みの場所だけで閉塞部位を特定することは困難です。腸閉塞が進行して腸全体が膨張してくると、痛みは局所的なものから腹部全体へと広がっていくことも珍しくありません。特に、腸の炎症が腹膜(腹部の内臓を覆う膜)にまで及ぶ腹膜炎を併発した場合は、腹部全体が触るだけで激しく痛み、歩行などの振動でも響くようになります(腹膜刺激症状)。腹痛が広範囲に及んでいる、または痛む場所が移動・拡大している場合は、より重篤な状態が疑われるため、速やかに医療機関を受診することが重要です。

腸閉塞(イレウス)の腹痛と他の腹痛との見分け方

腸閉塞による腹痛は、特に初期の段階では、急性胃腸炎や日常的な便秘による腹痛と症状が似ているため、混同されやすいという課題があります。しかし、それぞれには特徴的な違いがあり、それらのポイントを知っておくことが、適切な初期対応と受診の判断につながります。

急性胃腸炎との違い

ウイルスや細菌感染による急性胃腸炎でも、激しい腹痛や嘔吐が起こります。しかし、腸閉塞との決定的な違いは「排便・排ガスの有無」と「腸の動き」です。急性胃腸炎の場合、腸の動きはむしろ活発になり、下痢や軟便を伴うことがほとんどです。一方、機械的イレウスでは、腸の流れが物理的に止まっているため、排便・排ガスが完全に停止する「閉塞症状」が現れます。嘔吐はあっても下痢はせず、むしろ便もガスも出ない、という点が重要な鑑別点です。

また、急性胃腸炎は感染が原因であることが多いため、同じ食事をした家族や、周囲の職場・学校などで同様の症状を持つ人がいる場合があります。一方、腸閉塞は個人の腸そのものの物理的・機能的な異常によって引き起こされるため、このような集団発生は基本的に見られません。腹痛と嘔吐があるのに、下痢がなく、おならも出ない場合は、胃腸炎ではなく腸閉塞を疑うべきです。

便秘との違い

便秘は腸閉塞と最も混同されやすい状態と言えます。どちらも「排便がない」という点が共通していますが、ここでも「排ガスの有無」が大きな違いとなります。通常の便秘の場合、腸の動き自体は保たれているため、おなら(排ガス)は出ることが多いです。腹部の張りも感じますが、腸閉塞ほどパンパンに硬くなることは稀です。

さらに、痛みの質も異なります。便秘による腹痛は、一般的に鈍い痛みが持続したり、排便前に強くなる程度で、腸閉塞のような周期的に襲ってくる激しい疝痛発作は通常ありません。便秘薬や浣腸で排便があれば症状が軽快するのが便秘ですが、腸閉塞の場合はそれらで改善することはなく、むしろ悪化させる危険があります。「便もガスも全く出ず、周期的な腹痛と嘔吐が続く」という状態が数時間以上続く場合は、単なる便秘と自己判断せず、腸閉塞を疑って専門の医療機関を受診することを推奨します。

まとめ

腸閉塞(イレウス)は、その初期症状が日常的な不調と似ているために見過ごされがちですが、放置すれば命に関わる重篤な事態に至る可能性のある病気です。周期的な腹痛、嘔吐、そして何よりも「便もガスも出ない」という排便・排ガスの停止が重なったとき、それは身体が発する重要な警告サインです。これらの症状を単なる胃腸の不調や便秘と見誤らず、症状が数時間以上続く、あるいは悪化する傾向にある場合は、自己判断で様子を見ることをやめ、速やかに消化器内科や救急外来を受診することを推奨します。特に、過去に腹部の手術歴のある方や高齢の方は、腸閉塞のリスクが常に存在することを念頭に置き、気になる症状があれば迷わず医師へ相談してください。

参考文献

日本小児外科学会「腸閉塞」

厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 麻痺性イレウス」

国立がん研究センターがん情報サービス「腸閉塞」