”性格が悪い”と自認するベストセラー作家・小川哲が「SNSで炎上する人ほど”性格がいい”」と言い切る理由
本屋大賞受賞作『君のクイズ』の映画化を5月に控え、新書『言語化するための小説思考』が10万部を超えるベストセラーとなるなど、いま最も注目を集める作家・小川哲が、初のエッセイ集『斜め45度の処世術』(CEメディアハウス)を刊行した。
「今日暑いですね」という雑談は意味がなさすぎて恥ずかしく、「とりあえず生ビール」は思考停止に思えて腹が立つ。そんな日常のモヤつきを、「ひねくれ界のひねくれ者」の独特な視点で綴った本書は、タイトルに「処世術」とありながら、世間一般のビジネスマナーや世渡り術とは一線を画す内容だ。
内面では完璧にひねくれつつも、社会生活を「オトナ」として飄々と生きる小川氏。苦笑いと共感が止まらないショートエッセイ集から、その真髄を紹介する。
“性格がいい”ってなんだろう
“性格がいい”ってなんだろう、とよく思う。たとえば僕は“性格が悪い”と自認しているのだが、かといって他人に怒ったりすることはないので、もしかしたら優しいと思われているかもしれない。とはいえ僕が他人に怒らないのは、広い心の持ち主だからではなくて、むしろとても心が狭いからだ。
僕は他人の人生にあまり興味がない。「ある程度の年齢になったら人間の性格はほとんど変わらない」とあきらめている。誰かに怒ると、怒った本人は非常に疲れるし、多くの場合は嫌われるということを知っている。だから怒らないのだが、これは“性格がいい”のだろうか。
誰かに怒られなければ、失礼なことをしたり、間違ったことをしたりしている人は、同じことを繰り返してしまうかもしれない。本当は怒ったり叱ったりしたほうが、長期的に見て役に立つこともあるだろう。
たとえばあまり仕事のできない知人が、「独立して起業したい」と夢を語っていたりする。“性格がいい人”はどういう言葉を発するだろうか ――「お前ならできるよ」と応援するかもしれないし、「そんな甘い考えで起業したら失敗するぞ」と釘を刺すかもしれない。どちらにせよ、根底にあるのはきっと「相手の人生について真剣に考えている」という前提だろう。
ちなみに僕は「いいね」などと適当にやり過ごすと思う。もし「お前はどう思ってるか正直に教えて」と言われたりしたら、「無理だと思う」などと口にするかもしれないが、自分から言ったりはしない。「難しそうだなあ」と感じつつ、「お前ならできるよ」などとお世辞を口にするのも嫌なので、「いいね」と無難な対応をしながら、「でも事業に行き詰まってもお金は貸さないでおこう」などと心の中で勝手にルールをつくっている。
SNSで炎上する人は実際に会うと“性格がいい”
僕の経験では、SNSでよく炎上している人に実際に会うと、“性格がいい”ことが多い。彼らは“性格がいい”からこそ炎上しているのだろう。“性格がいい人”は、自分の思いをまっすぐ言葉にする。そのせいで意地の悪い人に深読みされたり、無自覚なまま誰かを傷つけてしまったり、誤解や憶測を生んでしまったりする。
逆に、SNSを上手に使っている人が“性格が悪い”こともある。性格が悪いからこそ、「こういうことを言うと意地悪な解釈をされてしまうかもしれない」とか、「こういう屁理屈を言われるかもしれない」とか、脳内でさまざまなケーススタディができるので、慎重に言葉を選ぶ。本心のまま言葉にすれば誰かからイチャモンをつけられると知っているので、なるべく無難な内容を投稿する。
僕が現役のSNSの使い方を教える講師のような仕事をするとしたら、ある投稿(内容はなんでもいい)に対して、できる限り多くのクソリプ(クソみたいな返事)を考えてもらう、という授業をすると思う。“性格がいい人”は、あまり多くの例を出せないはずだ。自分で投稿する前に、あらかじめ自分の脳内でクソリプの例を出せない故に炎上してしまうのだ。もしかしたら“性格がいい”と思われるためには、“性格の悪さ”が必要だ、とすら言えるかもしれない。
“性格がいい”という言葉は難しい。自分が感じる優しさは、むしろ冷たさに由来するものかもしれないし、厳しさは愛から生まれているのかもしれない。性格がひねくれているからこそ、相手の考えを想像することができる、という側面もあるだろう。
現代では、誰かに意地悪なことを言われたら「この世にはそういう発想もあるのか」と勉強するくらいがちょうどいいのかもしれない。
■刊行記念サイン会開催決定!■
【日時】2026年4月26日(日)13:00開始
※参加グループにより集合時間が異なります
【場所】紀伊國屋書店新宿本店 9階イベントスペース
【参加費】「対象書籍付き参加チケット」1,850円(書籍代『斜め45度の処世術』1,650円+販売手数料)
【申込方法・詳細についてはこちら】
紀伊國屋書店ホームページ:https://store.kinokuniya.co.jp/event/1774786023/
※申込は4月7日(火)正午開始
※ウェブのみの受付。店頭や電話ではいっさい承ることができません
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【つづきを読む】なぜ私たちはゴッホの絵に感動するのか?作家・小川哲が考える「人間にできて、AIにできないこと」
