岡田将生×染谷将太と過ごす金曜の始まり 『田鎖ブラザーズ』“わからない”が加速する面白さ
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』(TBS系)がついにスタートした。本作は『MIU404』(TBS系)、『最愛』(TBS系)など、数々の傑作サスペンスを手がけてきた新井順子プロデューサーの最新作。やはり一筋縄ではいかない。
参考:新井順子Pが『田鎖ブラザーズ』で描く“大きな愛の物語” 撮影裏に迫るロングインタビュー
病死か他殺かも判然としない遺体。やがて、その身元すらも揺らぎ始める。サスペンスにおいて通常であれば段階的に解き明かされるはずの謎が、本作ではむしろ積み重なっていく。「わからない」の波が過ぎ去るどころか、次の「わからない」を呼び込んでいくのだ。
そして気づかされる。「わからない」ままでは、私たちの時間は前に進まない。『田鎖ブラザーズ』が描こうとしているのは、単なる謎解きではない。解けなかった謎だけでなく、たどり着いた真実ですら、人生を縛りつけていくということ。
●“未解決”という傷を抱えた田鎖兄弟のもがき
物語の中心にいるのは、1995年4月26日に両親を何者かに殺された田鎖真(岡田将生)と稔(染谷将太)の兄弟だ。どこにでもある平凡な家庭に、なぜこれほどまでに凄惨な悲劇が起きたのか。幼い彼らの記憶はあまりに断片的で、事件の核心には届かない。どうにか目撃者を探そうと必死にビラを配るふたりの姿に胸が痛んだ。だが無情にも事件は解明されぬまま、時効を迎えた。
皮肉なことに、時効を廃止する法律が成立したのは、事件が時効を迎えてからわずか2日後のことだった。捜査を続けることはもちろん、真犯人がわかってももはや逮捕することも、罪に問うこともできない。そんな悔しさを胸に、真は刑事、稔は検視官になった。自分たちの手で「あの日」止まってしまった時間を動かすために――。
真と稔のスタイルは大きく異なる。真はどこまでも感情で動く人だ。街なかで気になる話が耳に入れば、呼び出しを後回しにすることもいとわない。だからこそ、ここぞというときに動ける行動型の刑事ではあるが、少々遺族に対する共感度が高すぎるようにも見える瞬間も。
一方、稔は慎重な事実立脚型だ。憶測と事実、そして刑事と検視官など物事の境界線をしっかりと引いていく。きっと、そんな彼らの性格も、31年前の事件が大きく影響しているのだろう。真はもっとできることがあったのではないかと悩み、稔は憶測に振り回されて傷ついてきたのではないかと想像した。
そんな真と稔の日常に舞い込んできた、新たな事件。旅行会社勤務の黒木(愛加あゆ)が帰宅すると、同棲中の恋人・牧村が死んでいたというのだ。自然死にしては、体に不審な傷を負っている。しかし、他殺だとすれば密室殺人になる。所持していたマイナンバーカードには「牧村」という名前が記されていた。だが、すぐにそれは偽造された身分証明書であることが判明する。“元”牧村となった遺体は、いったい誰なのか。そして、なぜ亡くなったのか。どこから紐解いていけばいいのかすら、見えなくなっていく。
「トリックとか勘弁してくれよ」なんてめんどくさそうにする真。「真実にしか興味がない」と冷ややかな対応を見せる稔。だが、彼らは恋人を突然失った黒木が、このままでは人生の時間が止まってしまうということを知っていた。だからこそ、夜を徹してでも真実に近づこうともがいていく。
「知りたいやつがいるんです。なんで大事な人が死ななきゃいけなかったのか」と捜査中の真が語った言葉は、恋人を失った女性のことでもあり、ほかでもない自分たち兄弟のことだとわかる。彼らのなかに渦巻いているものは世間一般的に言われる「正義感」とはまた異なる、「執念」に近いものだ。もうこれ以上、時間が止まってしまう人を生み出したくない。それを食い止められない社会への遺恨が垣間見える瞬間だった。
●反転する「真実」、被害者と加害者が入れ替わる瞬間
“元”牧村の死は、自転車で走行中に車にはねられたことが原因だった。しかし、身分を偽っている事情ゆえに警察や病院に連絡することもできず、自宅で亡くなったのだとわかる。そのとき車を運転していた野上(近藤公園)も、“元”牧村が通報を拒んだことで仕方なくそのままにしていたのだという。そう語る野上は、不慮の事故に巻き込まれた“被害者”のようにも見えた。それでも交通事故を通報しなかったこと、結果的に“元”牧村を死に至らせたことから、警察へと連行されていく。
こうして両親の殺人事件をベースに、1話完結の事件を解決していくのだな……なんて視聴者の予想を大きく裏切ってきたのが、ラスト5分の急展開だ。真のもとに、兄弟の幼なじみのような存在である晴子(井川遥)から一本の電話が入った。晴子は質屋の店主だが、もともとは新聞記者であり、その人脈を活かして情報屋という顔も併せ持つ。晴子が見つけた新たな事実とは、“元”牧村の本名が大河内であること。身分を偽っていたのは、2年前に高校生を自殺に追い込んだという過去がネット上に晒されたため。そして、その自殺した高校生は、野上の長男だったということ。
隠されていた事実によって、被害者と加害者が一気にひっくり返る。もしかしたら不慮の事故ではなく、意図的に轢き殺そうとした殺人事件だったのではないか。掴んだと思っていた真実は、一瞬で幻に変わる。それが、野上を見つけたと思ったら、トラックが通過すると同時に姿が消えてしまう様子に表されているようだった。
目の前にある事実は、あまりにも脆い。自分にとって死角になっていた事実が明らかになると、真実だと思っていたものが大きく揺らぐ。その危うさを突きつけられると同時に、真と稔が追う両親殺害事件の真実も、一気にひっくり返るのではないかと震えた。
兄弟が追う謎のノンフィクション作家・津田(飯尾和樹)の存在が、事件に関わっているのではないかと思われるが、それすらも真実の断片に過ぎないのかもしれない。兄弟を支えてきた町中華「もっちゃん」の店主・茂木(山中崇)がどんな思いで事件のニュースを眺めていたのか、まだ語られていない思いもあるだろう。回想シーンに出てきた当時の担当刑事が、真の上司・小池(岸谷五朗)に重なって見えたのは、思い込みだろうか。果たして、何が真実なのか。「わからない」が加速する一方だ。そして、本当に「わかった」状態になったとき、それは時間を動かすことになるのだろうか。その答えに触れたとき、この物語はきっと、サスペンスという言葉だけでは足りない作品になるはずだ。
(文=佐藤結衣)
