この時代にラーメン「1杯たった300円」を貫く町中華があった…87歳店主が語る”激安ラーメン”への思い
物価高に、なかなか歯止めがかからない昨今。ラーメン業界には長年、消費者が高いと感じて客離れが起きてしまうとされる「1000円の壁」という言葉があった。
しかし、今やそんな言葉も過去のもののようで、1000円を超えるラーメンを見かけることも珍しくない。
そんな中、筆者は「元々350円だったラーメンを300円に値下げした店がある」という噂を耳にした。埼玉県川口市に店を構える「銀龍」だ。
それが本当ならば、並々ならぬ信念と経営努力の賜物ではないか。
噂の真相を探るべく、87歳で店を切り盛りする店主に取材した。
「値下げなんてしてねぇよ」
店があるのは、JR蕨駅と埼玉高速鉄道鳩ヶ谷駅のちょうど中程にある住宅街の中。大きく真っ赤なシェードに目一杯「銀龍」と書かれた外観は存在感たっぷりだ。
2階建ての店は、懐かしい昭和っぽさを残し、いわゆる「町中華」といった雰囲気。お昼時の店内には、ひっきりなしに客が入ってくる。
席に設置されたメニュー表を確認すると、ラーメンの欄に印字された値段は350円だが、それが手書きの二重線で消され、横に300円と記されている。
そもそも、ラーメン1杯350円でも令和の時代にあって驚くべき安さなのだが、メニューを見ると値下げの噂は本当だったのではないかと思えてくる。
しかし、87歳の店主に話を聞いてみると「値下げなんてしてねぇよ。もう15年くらいは300円でやってるよ」と話す。一体どういうことだろう。
真相は次の通りだった。
「うちでは、店内でラーメンを食べる場合は300円で、これは変わんねえの。それで、出前で注文する場合は350円にしているんだよ」
どうやら、手書きで消されていた350円は出前用の料金だったようだ。それがなぜ、店内で使われているのか。
「ラーメンの値段が違うから、店内と出前と2種類のメニュー表を用意していたんだよ。それが、少し前に店内用のメニュー表の在庫が切れちまって。だけど、新しくメニュー表を印刷する金がないから、残っていた出前用のメニュー表の値段を手書きで書き換えて店内に置いているだけなのよ」
なんだか、推理ドラマのトリックのような話だが、たしかに値下げはしていなかったのだ。
店主が語る「安さ」への思い
価格は据え置きだったとはいえ、1,000円を超えるラーメンを当たり前に見かける今の時代に、300円でラーメンを提供し続ける部分には、意地や信念のようなものさえ感じさせる。
店主は「この近所は、年寄りも結構いるから。年寄りはみんな金がねえだろうからと思って、安くて美味いラーメンを出しているんだよ。だけど、今の年寄りはみんな金持ってるんだってよ(笑)」と冗談めかしながらも、思いを聞かせてくれた。
さらに「高校生のお客で、『学生に向いてる値段だね』って言ってくれた奴もいたよ」と嬉しそうに話す。江戸っ子のようなぶっきらぼうな口調ではあるものの、安く美味しく食べてもらえることが、店主の喜びにもなっているのが伝わってくる。
とはいえ、店を訪れる客の多くは、他にも美味しいメニューがあるからか、ラーメンにプラス1品をつけて注文をする人が多いよう。
取材時は、ラーメンと半チャーハンが付くセットメニューや、ラーメンに半餃子を付けている客が多かった。
300円に至った「銀龍」の変遷
現代では、カップ麺でさえも300円を超える商品は数多く存在する。しかし、店主からは「安い値段でラーメンを出している」という自慢めいた様子は感じられない。
「今の300円って値段は、15年前くらいに値上げしてこうなったんだよ。それまでは200円でやっていたんだから、高くなったよ」
そんな「銀龍」の創業は、昭和42年だと店主は話す。今年がちょうど60周年となる老舗店だ。
「店を始めたころは、ラーメンは150円で出してたんだから、今はもう倍だよ。高くなったよね」
それでも、日本経済の中で物価高の影響を受けている人々にとって、300円のラーメンがどれほどありがたい存在かということは、店の賑わいが証明しているだろう。
後編記事『「うちが安いんじゃない。よそが高いだけ」原価が倍になっても1杯300円のラーメンを貫く町中華店主の《信念》』では、店主に安くラーメンを出しながらも店を続けられる工夫を聞く。
【つづきを読む】「うちが安いんじゃない。よそが高いだけ」原価が倍になっても1杯300円のラーメンを貫く町中華店主の《信念》
