防衛省・自衛隊の公式Xより

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24日、東京の六本木近くにある中国大使館に、幹部自衛官が侵入し、逮捕された。

現職自衛官による侵入事件であるため、中国政府は軍国主義復活、日本の治安が悪いなど、大音声での対応をとっている。

侵入者は、3等陸尉の村田晃大容疑者。小学校の徒競走でも、1等、2等などの等級を付けないご時世だが、自衛隊の階級にはついている。

一体この3等陸尉というのはどのようなものなのか、陸上自衛隊での位置づけ、村田容疑者の出身などについて見てみよう。

陸上自衛官は約13万人程度いる。そのうち幹部自衛官(将校)は2万人以上。3等陸尉は幹部自衛官の最も下位の階級で、初級幹部と呼ばれる。

幹部自衛官採用は主に3つのソースから

現在、陸・海・空自衛隊では幹部自衛官として採用するために主として、防衛大学校の卒業生、自衛隊の曹士(下士官・兵)隊員、及び一般大学卒業者から人員を選抜している。

以前、陸・空自衛隊では、防衛大学校卒業者をB、部内選抜者をI、一般大卒業者をUと区別していたが、今は統一期別管理となっている。海上自衛隊は従来、特に区別はしていないが、B・I・Uの表現はわかりやすいので、以降この表現を使う。

・防衛大学校卒業者:B
高校卒業後、防衛大学校に入校し、4年間の教育期間中、概ね大学教育に相当する単位を履修するほか、防衛学などの軍事について学ぶ。さらに、訓練も必須となる。第2学年からは、陸・海・空自衛隊要員としての科目を身につける。部隊研修などがあり、実際の自衛隊の活動についても知識と経験を修得する。

従って、自衛隊の実情について、かなりの知識を持っている。また、人事的にも、信条等についてある程度把握されている。

・部内選抜者:I
陸・海・空それぞれの部隊等で数年以上の実勤務を経験。自衛官としての基礎については修得している。希望者・適格者の中から選抜されているので、有能な自衛官であると認められる実績があるものと考えられる。

・一般大学卒業者:U
一般の大学卒業後、就職先として自衛隊を選択した者で、一般幹部候補生試験という高倍率の選抜試験をパスしている。学業的には優秀であることは認められる。面接も実施されるが、個人の信条などを十分に把握できるとは言えない(以前は身辺調査などもできたようである)。

自衛隊に興味があり、イベントに参加する者や体験入隊などを経験する者など、自衛隊に関する知識がある者がいるが、個人差があり、通常、実際の自衛隊に関する知識、経験はほとんどない。

自衛隊に関して、自分なりの思い込みをもって入隊してくる者も少なからずいる。これは、一般の会社・企業等に入社してくる新入社員を想像すると比較的容易に理解できる。

幹部候補生学校は「仮免許中」、3等陸・海・空尉は「初心者マーク」

会社や企業などでも、ある期間、新人研修を行うことが多いが、自衛隊では少し長い期間を充てる。

B・I・Uそれぞれ幹部自衛官になるためには、陸(久留米)・海(江田島)・空(奈良)の各地にある幹部候補生学校で初等幹部自衛官として必要な教育と訓練を受ける。

B・Uは約10カ月、Iは半年程度の期間、幹部候補生(見習い将校)の身分となる。自動車の運転であれば教習所で仮免中と考えればよい。

幹部候補生学校卒業後、各部隊等に配属。Iは直接、小隊長など部下を持つ配置につくこともあるが、B・Uは通常、隊付きなど補佐的な配置につく。初心者マーク付きの勤務となるわけだ。

幹部候補生学校入校から約1年で晴れて3等陸・海・空尉に任官される。ピカピカの初級幹部自衛官(青年将校)の誕生である。

村田容疑者は、都内の有名大学を卒業し、難関の一般幹部候補生試験をパスし、幹部候補生学校を卒業。部隊に配属されて、任官後間もなく、今回の行動を取った。自衛官として、正に初心者マーク付きの初級幹部自衛官であり、部隊等で一生懸命努力しているべき時期である。

陸上自衛隊には3000人以上の3等陸尉がいる。それぞれの持ち場で、日夜勤務に励んでいる。

幹部自衛官は、通常、勤務時間以外であれば、外出は自由。村田容疑者は犯行前日に外出し、上京している。自衛官の場合は、所在を明確にし、連絡手段を確保するのが当たり前の習慣だが、村田容疑者は事件当日は無断欠勤していた。

中国大使館の外壁を越えて侵入し、大使に面会をしようとしたとされているが、まったく常軌を逸した行動である。3000人いる3尉諸官の中で、ただ一人の行動であるばかりでなく、過去、何万人何十万人という初級幹部自衛官の誰も行わなかった愚行である。

困難を極める採用現場

世の中、少子化で、転職が一般的になってきている。幹部自衛官は長期就業が必要であり、転職、ヘッドハンティング等による充足はできない。自衛官の採用担当者は大きな悩みを抱えている。

学力の低下、長期就業に対しての認識、俸給など処遇の相対的低下などによって、幹部自衛官の採用現場は困難を極めている。また、採用後の脱落、離職等も顕在化しているが、幹部自衛官という職業が、本質的に時代の変化等に対応できない面もある。

村田容疑者のケースは極めてまれではある。このような不祥事を起こす恐れのない、優秀な人材を採用するためには、処遇改善などを含めた幅広い施策が必要だろう。

大使館に対する違法行為の事例

中国政府は事あるごとに過去の事例、歴史の教訓を学べなどという。そこで、大使館に対する違法行為を調べてみた。

我が国の中国大使館に対しては、デモや右翼団体による抗議行動などはしばしばみられるが、いずれも我が国の警察によって抑制されている。今回以外、侵入事件は記録されていない。

一方、中国における日本大使館・領事館に対しての違法行為には重大なものがある。

2002年、瀋陽の日本総領事館へ北朝鮮からの脱北者が逃げ込んだ時、中国の武装警察が我が国の総領事館の敷地内に立ち入り、脱北者を連行。これは政府機関そのものが違法行為を行ったものである。

また、2012年には、北京の日本大使館に大規模なデモ集団がものを投げ込むなどして、施設が損壊された。中国政府側の抑制行動は機能しなかった。

外交は相互に大人の対応を

今回の村田容疑者の事件は、我が方に非があることは明白である。政府も十分に理解し、外交上の手続きも行っている。穏便に解決することを望んでいる。

中国政府にも、政治的に問題を拡大することなしに、大人の対応を望む。騒ぎ立てても何も得るものはない。お国の印象を悪くするだけだ。

我が国では、江戸時代に、大名屋敷は奉行所(町方)の警察権が及ばない領域であった。盗賊等が大名屋敷に侵入し、不埒(ふらち)を働いても大名家は通常届け出なかった。無法者に侵入されるという不手際を「恥」と考えていたからである。被害を声高に訴えるなどもってのほかという考えが定着しているのであろう。

文/島本順光 内外タイムス