ウォルト・ディズニー・ジャパン スタジオビジネスのゼネラルマネージャー・佐藤英之氏

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 映画『ズートピア2』の国内興行収入が150億円を突破、洋画作品として『アナと雪の女王』(2014年)から12年ぶりの快挙となった。しかし、ディズニーはまだまだ止まらない。2026年、ディズニー&ピクサー最新作『私がビーバーになる時』に続くのは、『プラダを着た悪魔2』や『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』、『トイ・ストーリー5』、実写版『モアナと伝説の海』、そして『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』だ。

参考:ディズニー好調の背景とは? ゼネラルマネージャーが語る2025年の展望と洋画興行の未来

 怒涛のラインナップを前に「絶対に失敗できませんね」と笑うのは、日本でスタジオビジネスのゼネラルマネージャーを務める佐藤英之氏。『ズートピア2』大ヒットの舞台裏をはじめ、今後の展望、洋画市場の現在地、劇場映画とディズニープラスの関係までを聞いた。

■“実りの多い1年”だった2025年

――『ズートピア2』興行収入150億円、おめでとうございます。まずは、この大ヒットをどのように受け止めていますか?

佐藤英之(以下、佐藤):「すごいことになったな」と思っています。前作(2016年)の最終興収が76.8億円なので、まずは前作超えを目標にしていましたが、結果的に倍の数字になりました。初週末から目標の2倍近い数字が出ていたうえ、その後も通常の冬休み興行より数字が落ちず、お正月には再び大きく伸びたんです。私たちにとっても大きなサプライズでした。この結果は観客の皆さんが作品のクオリティを評価してくださったこと、競合作品が少なかったことが主な理由だと考えています。象徴的なのは、全体の20%以上がリピーターだったこと。吹替・字幕・IMAX・4DXといった選択肢もあり、最初は家族で観る、2回目は友達と、あるいは一人で、という動きもあったかと思いますし、ニックの人気ぶりから“推し活”的に応援してくださった方も多かったはず。リピーターのみなさんにも支えていただいた興行でした。

――長期にわたり大規模なプロモーションを実施されましたが、特に大きな成果につながったと思われる戦略はありましたか?

佐藤:ひとつには絞れません(笑)。早くから「この冬は『ズートピア2』を盛り上げよう!」と社内一丸となって準備を進めてきましたし、宣伝部がさまざまな企画を仕掛けてくれたことが最終的に実を結んだのではないでしょうか。私も映画の仕事を長く続けてきましたが、露出量は過去最大級だったと思います。TOHOシネマズさんやイオンシネマさんなどを含む、パートナーや興行会社の方々が力を合わせて盛り上げてくださいましたし、吹き替え声優のみなさんにもご尽力いただきました。東京ディズニーリゾートを含め、あらゆるところに『ズートピア2』に触れられる環境を作れたことで、みなさんに興味関心を持っていただけたのだと思います。個人的に印象深いのは、「NO MORE映画泥棒」とのコラボレーション。「映画館へ行こう!」実行委員会さんとタッグを組み、11月から1月まで『ズートピア2』バージョンを上映しました。全国のほぼ全スクリーンで展開したことで、邦画の鑑賞者にも『ズートピア2』をアピールでき、公開後のプロモーションにもなった。非常にアイコニックなキャンペーンだと思います。

――『ズートピア2』に続き、3月13日にはディズニー&ピクサー最新作『私がビーバーになる時』が公開されました。同じ“動物もの”である本作にはどんな期待をされていますか?

佐藤:非常に面白く、またピクサーらしい映画です。「もしも〇〇だったら?」という世界を描くのはピクサーの得意分野ですし、ビーバーたちの“もふもふ感”はディズニーファンの心をくすぐるはず。そこを映画館で体験していただきたいので、プロモーションでも“もふもふ”を前面に打ち出しました。イベント「Disney THE MARKET in 銀座三越」では公開前からグッズが売り切れるなど、すでに注目度の高さを感じています。新しいIPを世の中に送り出すことは、ディズニーにとってビジネスの基本。業界のフロントランナーとしても大きな使命感があります。

――昨年、ウォルト・ディズニー・スタジオは世界興収60億ドルを突破しました。6年ぶりの快挙でしたが、ウォルト・ディズニー・ジャパンとしてはどのような1年でしたか。

佐藤:とても実りの多い1年でした。国内の年間興収は242億円で、前年比43%アップしています。『ズートピア2』の貢献が大きいことはもちろんですが、ほかにも実写版『リロ&スティッチ』やマーベル映画3作、『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』、『プレデター:バッドランド』、『トロン:アレス』など、クオリティの高い作品を幅広くお届けできたと考えています。

――『モアナと伝説の海2』や『リロ&スティッチ』実写版、そして『ズートピア2』と、ファミリー向けのフランチャイズ作品をどのように差別化していったのでしょうか。

佐藤:差別化というより、それぞれの作品を丁寧に届けることを大切にしています。ここ数年、2023年は『ウィッシュ』、2024年は『モアナと伝説の海2』、2025年は『ズートピア2』と、毎年12月にディズニー・アニメーション作品を公開してきました。その積み重ねの中で、「冬休みにはディズニーを観たい」という雰囲気が戻ってきたと感じています。春休みの『ドラえもん』やゴールデンウィークの『名探偵コナン』のように、ディズニー作品も再びイベントのような存在になりつつある。『ズートピア2』でリピーターが多かったのは、その流れを象徴する出来事でした。

■2026年は話題作ラッシュで気の抜けない1年に

――現在の洋画市場をどのように考えていらっしゃいますか?

佐藤:じつは昨年、日本公開された洋画の約半分がディズニー作品でした。ある意味、洋画興行の灯火を守るような立場になっているので、大きな責任を感じています。今の洋画市場は、昔のように興収10億~20億円規模の作品がたくさんあり、それらが市場を支える構造ではありません。昔ならばそれくらいの規模だったはずの作品が、その半分くらいの数字で終わることも珍しくないんです。昨年、サーチライト・ピクチャーズからは『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』と『リアル・ペイン~心の旅~』を公開しました。興行収入だけで測れない、作家性の高い作品を配給できたことは映画会社としての大きな誇り。洋画興行を支えるうえでも大きな意味があると考えています。

――日本の人気アニメーション映画や、邦画ヒット作との関係をどのように見ていますか?

佐藤:アニメーション作品とは競合しますが、必ずしも脅威とは感じていません。『名探偵コナン』のように、観客がたくさん入っているスクリーンでディズニー作品の予告編を上映できることは、それだけで大きなアピールになります。逆に、我々の話題作で予告編を上映することがプロモーションになることもあるはずです。今年の夏は話題作が多いですが、せっかくの夏休みですから、お互いが盛り上がることが大切。業界の命題は映画人口を増やすことなので、それぞれが自社の作品を最大化しながら、うまく相乗効果が生まれ、映画業界全体がうまく回っていくと一番いいですよね。

――今年のピクサーは、『私がビーバーになる時』というオリジナル作品に続き、原点であるシリーズの最新作『トイ・ストーリー5』が7月3日に日本公開されます。ディズニーのアニメーション作品にとって、今年はどんな1年になりそうですか。

佐藤:今年は『私がビーバーになる時』と『トイ・ストーリー5』のほか、冬にディズニー・アニメーションの新作も控えているので、アニメーションが年間3本あります。『私がビーバーになる時』でホップ、『トイ・ストーリー5』でステップ、冬の新作でジャンプ、というイメージで2027年に繋げていく。新しいIPを育てるという使命も含め、大切な1年になります。『トイ・ストーリー5』は大作なので、前作『トイ・ストーリー4』(2019年)の興行収入100億円に匹敵する成績が目標。夏興行のトップバッターとして責任重大ですが、どの世代、どの国の人でも共感できる普遍的な作品になるのではないかと思いますし、良い形でお届けできるはずです。7年ぶりの続編ですが、『ズートピア』にも10年のギャップがあったので、ブランクはそれほど気にしていません。

――ほかにも、春の『プラダを着た悪魔2』『スター・ウォーズ/マンダロリアン・アンド・グローグー』から、夏の実写版『モアナと伝説の海』、年末の『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』と話題作が続きます。1年間のラインナップをどう見ていますか?

佐藤:本当に話題作ラッシュで、気の抜けない1年です。『プラダを着た悪魔』は公開から20年経っても配信やDVDで観られ続けている稀有な作品で、続編には幅広い世代が期待を寄せてくださっています。また、『マンダロリアン・アンド・グローグー』はディズニープラスのドラマシリーズを長編映画へ展開する初の試み。ファンのみなさんはもちろん、新たな観客にも届けたい作品です。『モアナと伝説の海』も強いファンベースを持つ大切なフランチャイズなので、「実写になった!」という体験を大スクリーンで味わっていただきたいと思います。大トリの『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』も、公開に向けた空気づくりが世界的に始まっています。キャストの椅子をずらりと並べた映像がSNSでバズりましたし、『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』の上映時にサプライズで予告編を4パターン出しました。9月には『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)を初めて劇場で再上映するので、これもプロモーションの重要なポイントになります。

――今年の話題作ラッシュのなか、劇場映画とディズニープラスの関係はどう変わっていくのでしょうか?

佐藤:ディズニーにとってビジネスの源泉は「映画」です。『ズートピア2』では、興行収入の最大化がディズニープラスの加入者増にはっきりとつながりました。映画のヒットが加入者の注目のきっかけをつくり、ディズニープラスの加入者が増えたり、サービス上でのエンゲージメントが増えたりする。劇場映画とディズニープラスは密接につながっているんです。映画ビジネスは一本一本の作品をきちんと届けることの繰り返しなので、私たちのミッションに大きな変化はありません。ディズニーは劇場公開から配信までの期間を長く取っており、そういう意味でも映画を大切にしていると思います。劇場興行の様子を見ながら配信時期を検討する、劇場では難しかった作品を適切にバトンタッチするなど、配信のチームとは密にコミュニケーションを取りながら方針を決定しています。「劇場と配信は競合するもの」という見方もあるかと思いますが、ディズニーはそうではなく、同じエコシステムのなかでお互いのビジネスを支え合う関係です。配信ビジネスが成長することは、劇場映画にとってもプラスになりますから。

(取材・文=稲垣貴俊)