高市早苗首相

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 高市総理による電撃解散に伴い、すでに選挙戦に突入したことから多くのメディアでは、選挙区の実況中継や票読みが盛んに行われている。当初総理が目論んでいた通りの圧勝が実現できるかは微妙ながら、与党がこのまま過半数を維持するとの見方は強い。

 しかし、ではそれで高市総理の政治力はより強くなるのか。有権者は冷静に「その後」も見る必要があるのではないか。

 生前の安倍晋三元総理や、先日引退を表明した菅義偉元総理へのインタビュー経験を持ち、『安倍晋三 ドナルド・トランプ交友録』の著作があるライターの梶原麻衣子氏は、今後、高市氏は政権運営にあたり「三つのギャップ」に悩まされるのではないか、と指摘する。梶原氏が想起した安倍元総理の言葉とは――。

高市早苗首相

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【写真を見る】「激ヤセ」が心配される高市首相 以前と比較すると「まるで別人」

ハネムーン期間終了前なのに

「私推し」以外には勝ち筋がない――高市総理の解散表明会見からは、そんな思いが透けて見える。一見、高い内閣支持率の後押しを受けての強気の押し出しに見えるが、その実態が一種のバブルであることを自覚しての、精一杯の虚勢にも思える。だがその賭けは功を奏しつつあるようだ。

 かつて政界では、就任100日間はハネムーン期間とされ、まずはお手並み拝見、厳しい批評が飛ぶのはこれからだという目安になっていた。ところが、前政権の石破首相が就任から1週間余りで解散して不興を買った記憶も新しい中、高市総理もまた就任100日を迎える前に衆院を解散。ハネムーン中に「結婚相手が私、高市早苗でよいか、夫婦が激論になりかねない決まり事の判断を私に任せてよいか、今ここでお聞きしたい。私としてはこれからも結婚生活を続けさせてほしい」と迫っているに等しい。

 まだ共同生活が始まってもいないのにそんなことを聞かれても困るように、来年度に向けての国会の議論を経る前に高市政権の実行力や、今後やろうとしている政策の是非を問われても困るという有権者心理もあろう。事実、解散後の各種世論調査でも解散を「評価しない」とする割合が40〜50%台に上っている。

 政治のプロ目線の解説では「選挙を経ていない宰相の権力には正統性がない」とされ、解散に打って出る姿勢は権力掌握のプロセスとして必要不可欠とされる。だが一般の有権者からすれば争点のわからない選挙とならざるを得ない。公明党から維新への連立相手の組み換えも解散の理由の一つにしているが、まだ自維内閣ユニットは活動を始めたばかりで評価のしようがない。だからこそ高市氏も究極的には「私か、私以外か」を問う他ないのだろう。高市総理はXで各候補者について紹介する全てのポストに「この候補を推すことが、私、高市早苗の力になります」と記載している。

 その問いに国民がどう答えるかは現時点ではもちろんわからない。しかし、仮に与党がこのまま過半数を得たとしても、この100日余りの政権をめぐる状況を見る限り、高市政権は自らが生み出した「三つのギャップ」に悩まされることになるのではないかと思わずにはいられない。

「とりあえず支持」が底上げした支持率

 一つ目のギャップは、内閣への高支持率と、その中身の問題だ。確かに高市政権に対する支持率は高い。だが政権支持率が70%に達していた時期にあっても、自民党支持率はその半分かそれ以下の数字でしかなかった。政治学者の菅原琢氏は高市政権の高支持率を、とりあえず支持と答えているだけの、不支持予備軍が押し上げているものと分析する。(※1)

 つまり積極的な支持ではなく、不支持を保留しているだけで、いつ支持を止めるかわからない不確実なものだ。選挙時にはブーム的に票を集めたとしても、政権基盤を支えるような強い・本質的な支持ではなく、いつ急落・瓦解するかわからないのである。

 高市支持者の中には、「自民党左派・リベラル派が高市総理の足を引っ張る」と考える“自民党嫌い”も存在する。彼らの熱量は大きいかもしれないが、現実の国会などにおける政策実現への影響力は限定的である。そうした中で公明党の支えもなくなった自民党が、選挙前以上に重要政策の実現に邁進できるのだろうか。

「私推し」の賭けに出た高市総理。情勢分析では自民党の議席増との予測が伝わってくるが、高市総理の「私推し」に賭けるしかない自民党の窮状には変わりないだろう。

政策遂行能力は高まるのか

 二つ目は、「働いて、働いて、働く」内閣という高市総理の発言と、実際の政権運営とのギャップである。

 自民を含む各党が「減税」「物価高対策」を1丁目1番地の政策に挙げる中、「ならば解散せずに早急に対策を打ってくれ」「議論はメディアの党首討論会ではなく国会でどうぞ」と思わずにはいられない。

 働く内閣を強調する高市総理は政策通を自負する。そうであるだけに自身や政権への評価は何らかの政策的実績を積むことによって得るべきである、と考えているかに思えた。

 2025年に自民党から参院選挙に出馬した岸博幸氏も『高市早苗研究』(宝島社新書、共著)で、「早期解散はないと思う。勉強家で真面目な高市さんは政策を前に進めて成果を出したい人だろうから、今は選挙より政策だろう」という主旨のことを述べている。

 だがふたを開けてみれば高市総理は実績を上げる前に解散し、国会では審議中の74本の法案が廃案になった。もちろん「より働ける状態」を作り出すための解散だと強調してはいるが、その実、高市総理は実績をコツコツ積み上げて評価を得ることよりも、期待値が高い状態で選挙を行う方が良いと判断したことになる。政策通で実務を重んじるとの評判と、実態との間にギャップが生じていることは否めない。

 解散表明会見では〈選挙期間中も、高市内閣は、各府省庁の職員とともに、働き続けます〉とアピールしたが、自分で解散を決めて忙しくしただけであり、働き続けるのは当然という他ない。

 たとえ自ら定めた勝敗ラインをクリアしたとしても、解散によってより大きくなったこのギャップを埋めるのには、これまで以上の体力、そして政治力が必要になることは想像に難くない。

安倍元総理の語った「チームの大切さ」

 そしてギャップの三つ目は、高市総理自身のあり様にある。

 高市総理の言葉には確かに迫力があり、その明るさとも相まって、「力強く前に出ていく、パワフルな女性リーダー」像を印象付けている。女性ファッション誌の「エクラ」(集英社)では、エナジェティックな女性という特集テーマに合わせて、高市総理を高く評価するコラムが3本も掲載されているほどだ。

〈パワフルなうえにキュート〉〈彼女の言葉には「メロディー」があり…〉〈「自分らしくあること」が最も力強いエレガンスであることを私たちに教えてくれる〉など、「高市総理本人が見せたい姿」をそのまま受け取って絶賛する文言が並んでいる。

 確かに高市総理の明るさ、女性初の首相という重圧を背負いながら前進せんとするキャラクターには好ましい部分があるのだろう。社交的でエネルギッシュ、関西のおばちゃん的なコミュニケーション力、阪神ファンでドラマーというキャラも立っている。日韓首脳会談では李在明大統領とのドラムセッションまで実現した。

 だが一方では、毎日新聞などでも報じられているように、高市総理はいわば「引きこもり型」で、官僚からのレクも受けず、情報は紙であげてもらい、それを読むという間接スタイルを取っているようだ。やりたいことがたくさんある、熱意もあるというエナジェティックな振る舞いには目を引かれるが、一方で実現にこぎつけるだけの内実が伴っているのか、その点に不安があるのだ。

 安倍内閣で長く官房長官を務め、その後総理に就任した菅義偉は、頻繁に朝食会を開いて各界の現場から意見を吸い上げ、官僚に対しても「俺にとって耳の痛い話でも、思うところは何でも言ってくれ」と声を掛けていたという。こうしたあり様が組織のグリップ力や政策実行能力につながっていた。

 イメージと実態の乖離は、選挙に際しての党首討論会などでも露呈しつつある。自信たっぷりに自説を述べる一方で、他党の党首から突っ込まれると具体的に説明することができない場面がある。タカ派で中国からの批判にも物おじしない姿勢はある面では評価できるものの、では高市総理が防衛政策、国際法や防衛法などに詳しいかと言えば必ずしもそうではない。

 存立危機事態の説明についても、これまでの政府答弁とは違う受け答えをしたのが何らかの戦略に基づくものであればよい。だが、どうやらそうではなくうっかり口をついて出たもののようだ。デイリー新潮でも報じられたように各省庁から出向している秘書官でも直に話すことが許されていないとなれば、おのずと限界は露呈する(※2)。

 高市総理は安倍路線の継承を謳うが、安倍政権の強さの根源を学び実践しているとは言い難い。これこそが、高市政権の足をすくう決定的なギャップかもしれない。

 政治学者の牧原出は安倍政権の強さの根源を人材登用、政策プログラムと並んでスケジュール管理にあったとの研究レポートを公開している(※3)。だが高市総理の今回の解散は、徹底したスケジュール管理のもとに行われたものではなさそうだ。

 筆者が取材した際、安倍元総理は、次のように述べていた(『安倍晋三 ドナルト・トランプ交友録』、星海社新書)。

「総理といえども、一人では何もできない。チームで事にあたれば、自分に足りないところを補ってもらえる」

「人は、自分を信頼してくれない人のためには働けない」

 電撃解散を知る者は周囲にも少なかったという。

「安倍路線の継承」を掲げる高市総理は安倍元総理のメッセージをどう受け取るのだろうか。

※1 (菅原琢の政治分析 2026年1月25日・高い内閣支持率という幻覚が引き起こしたリセマラ解散――低迷する党支持率の下で高市自民はどこに向かうのか?)。
※2 (デイリー新潮 1月15日・「高市さんが官邸で心を許しているのは2人だけ」 ブレーン不足の“異常事態”の裏側)
※3 (PHP「内閣政治」研究会 2024年6月発表・「官邸の作り方」)

梶原麻衣子
1980年埼玉県生まれ。中央大学卒業。月刊「WiLL」、月刊「Hanada」編集部を経て現在はフリーの編集者・ライター。著書に『安倍晋三 ドナルド・トランプ交友録』『「“右翼”雑誌」の舞台裏』(いずれも星海社新書)。

デイリー新潮編集部