2025年のマーケティングおよびメディア業界は、急速な技術進化と市場構造の変化が重なり、これまで当たり前とされてきた前提が揺らぎ始めた1年だった。とりわけAIの進化は、ツールの域を越え、マーケティングにおける生産性と創造性の前提を書き換えつつある。加えて、検索、ソーシャル、コマース、生成AIといった接点が絡み合い、顧客体験の「入り口」そのものも分散・再編されはじめた。Digiday Japan恒例の年末年始企画「IN/OUT 2026」では、当メディアとゆかりの深いブランド・パブリッシャーのエグゼクティブたちにアンケートを実施。2025年をどのように総括し、そして2026年に向けてどのような挑戦とビジョンを描いているのか。その声を紹介する。JTBで、執行役員 ブランド・マーケティング・広報担当 CMOを務める風口悦子氏の回答は以下のとおりだ。

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――2025年のもっとも大きなトピック・成果は何ですか。

2025年は、交流の価値を強く感じる1年でした。訪日外国人旅行者数は11月時点で累計3906万5600人に達し、前年の年間最多記録を大幅に更新しました。世界各国からの需要、そして各国間の交流需要を的確に捉え、当社のグローバル事業も躍進しました。ツーリズム業界のB2Bメディア企業最大手の米Northstar Travel Groupが当グループ傘下となりましたことも大きな出来事です。3月に開催された開幕戦において日本中が熱狂したMLBとの契約は2年目を迎え、ホスピタリティビジネスを定着させるとともに、日米間の旅行拡大にも貢献しています。また、55年ぶりに開催された大阪・関西万博では、JTBグループが数々の取り組みに深く関与しました。地域との連携を深め、来場者の皆様の実感価値向上に貢献すべく、高度なオペレーションでその成功を支えました。これらの成果は、地球を舞台に人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献するというJTBグループの理念が具現化されたものです。この経験を基盤に、今後も持続可能な成長と社会に貢献する交流創造を追求していきます。

――2026年に向けて見えてきた課題は何ですか。

2025年を振り返ると、CMOとして、お客様を取り巻く環境の大きな変化を肌で感じた1年でした。AIが検索や購買行動を根本から変え、お客様がサービスに求める期待値や実感価値は、従来の顧客戦略では対応しきれないほど高まっています。AIの活用によって、専門的なスキルがなくとも多様なマーケティング施策に挑戦できるようになった一方で、環境・社会・人権への配慮は、企業と顧客との信頼関係構築にこれまで以上に大きな影響を及ぼす重要な視点となり、もはや企業の競争力を左右する決定的な要素になっています。また、地政学的な不安定さや国際情勢といった外部環境の激変に対し、迅速に対応できる体制の必要性を痛感しています。部門ごとの最適化を超え、企業全体として機動的に意思決定できる仕組みの構築が急務だと感じています。

――2026年にチャレンジしたいことを教えてください。

2025年からの継続となりますが、グループ全体に顧客起点の文化をより深く根付かせることです。AI前提の世界において、交流はさらに価値を増すと信じています。その中で、お客様の多様な価値観を捉え、共感を得るためには、常に顧客起点であることが全社員に浸透している必要があります。AIという強力なツールを最大限に活用しつつ、旅の現場で培ってきたJTB社員の暗黙知を形式知・組織知化し、全社の力へと高める仕組みをつくること。価値向上の循環を全社員の力で回すことに挑戦していきます。