清田隆之さんインタビュー 『あいの里』のヒットから考える、中年の恋愛について

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2023年5月、Netflixで配信開始されるやいなや、“キラキラしていない”リアルすぎる恋愛バラエティ番組として多くの人の心を鷲掴みにした『あいの里』。シーズン1の大ヒットを受け、先日シーズン2の制作が決定!SNSではその吉報に沸くファンの声が多く見られました。この番組はなぜこんなに多くの人に愛されているのでしょうか!?「恋愛リアリティショーが大好物」という恋バナ収集ユニット桃山商事の清田隆之さんに番組の魅力、中年の恋愛事情について聞きました。

清田隆之

きよた・たかゆき 1980年東京都生まれ。文筆家。恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。「恋愛とジェンダー」をテーマに幅広いメディアに寄稿。近著に『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門─暮らしとメディアのモヤモヤ「言語化」通信』(朝日出版社)。

怖いもの見たさから、いつのまにかどハマりして

メンバーの誕生日を祝う和やかなシーンも。

『あいの里』は、人里離れた古民家(ラブヴィレッジ)に集合した35歳から60歳の男女が自給自足の生活を送りながら、人生最後の恋を探すという恋愛リアリティショー。「古民家で出会った中年たちの恋模様」と言葉にするとキラキラ成分は少なめなのにハマる人が続出!番組が愛される理由を「恋愛とジェンダー」をテーマに執筆をする清田さんと一緒に考えます。

―清田さんが見始めたきっかけはなんでしたか? 桃山商事メンバーのワッコがお勧めしてくれたんです。彼女も恋愛リアリティーショーが大好きで普段からよく話をしているのですが、「『あいの里』は『バチェラー』や『オオカミには騙されない』、『テラスハウス』とまったく違う」と。参加者が35歳〜60歳代と他の恋愛リアリティショーより圧倒的に年齢層が高く、今どき珍しい“無加工の素人み“のような瞬間にあふれている、という話で盛り上がりまして。

他の恋愛リアリティショーの参加者って、どんどん洗練されているように思うんですよ。『オオカミ』シリーズなんて今をときめくモデルやインフルエンサー、クリエイターや格闘家などみんなキラキラ眩しいくらいですし、価値観も極めて現代的で差別的な発言や振る舞いはしない。一方の『あいの里』は「え!?」っと驚くような発言もちらほらあると聞いて、ちょっとした“怖いもの見たさ“で見始めたんです。

最初の方は俳優のハリウッドさんや心理学者のじょにいさんなどアクの強いキャラクターが目立っていたので、「こ、これはたしかに…」と思って観ていました。ハリウッドさんは自分語りが多くて、人の話はあまり聞かないし、女性の頭を「ぽんぽん」ってやっちゃうほどオラつき全開のキャラクター。じょにいさんは謎の文脈で「フロイトは〜」とウンチクを始めたり、薬を1錠飲んだか2錠飲んだかでハリウッドさんと謎の喧嘩を始めたり。イタリアンシェフのアンチョビさんは「みんな僕のことが好きなんだ」と勝手に都合のいい解釈をしたり…。そういった振る舞いは同性である自分から見ていてもかなりヒヤヒヤするところがあって、「ぎゃー」っと叫びたくなりました(笑)。

―女性メンバーがポカンとするシーンもたくさんありましたね。 そういうアクの強いキャラクターをツッコミながら楽しむ番組なのかなと思ったら、だんだん様子が変わってきて。おかよさんの恋が動き出したあたりから、見事にハマっていきました。

―清田さん的、名場面はどこでしたか? いっぱいありすぎて、一つには絞りにくいのですが、やっぱりおかよさんが変化していくところは見どころですよね。最初は存在感が薄くて、「私なんか」と必要以上に自分を卑下したり、「恋愛ができないかもしれない」と泣いてしまうシーンもありましたが、意中の人ができてからは笑顔が増え、積極的になっていって。自分の恋は実らないかもしれないけど、納得できるところまで頑張ろう!という気持ちが画面からも伝わってきて、ぐいぐい引き込まれてきました。おかよさんが好意を寄せている隼平さんは別の女性のことが気になっていたけど、だんだんおかよさんの魅力に気づいていく。その感情の移ろいも『あいの里』ならではだったのかな、と。

―というと!?人里離れた古民家を改修しながら自給自足の生活をする中で、それぞれの人柄や能力が見えてくると思うんです。作業がとても丁寧だとか、気が利くとか、お金の管理がしっかりできるとか。これは想像ですが、自分で会社を経営している隼平さんにとって、「彼女がそばにいてくれたら心強い」と自然に想像できたことが大きかったのかもなと。

13歳の子供を持つシングルマザーのセラピスト、バツイチのコンビニ店員、60歳の心理学者など結婚歴も職歴もさまざまなメンバーたち。 「あいの鐘」を鳴らして意中の相手に告白。ハリウッドさん(写真右)はハリウッド映画の出演経験もある俳優。当初恋に消極的だった、おかよさん。

どうしようもない中年から垣間見えるピュアな部分

アラフォー以上の世代にもなると、それぞれ長い時間を生きてきて生活スタイルとか価値観がそれなりに固まっていると思うんです。そういう、どうしてもせり出してきてしまう個性みたいなものも『あいの里』の魅力だと思います。相手の選び方に関しても、単純に見た目がタイプとか、ただ一緒にいて居心地がいいとかそういうことだけじゃなく、価値観とか人生設計とか複雑な要素が絡み合いながら、トータルで相手を見極めている感じがありました。

―アニメーションでそれぞれのキャラクターの人となりや過去の恋愛トラウマを紹介するシーンも印象的でしたね。離婚や子育てを経験している人、昔のパートナーや家族との別れ、身体の問題や性にまつわる考え、過去の失敗など……抱えているものがそれぞれにあって、そういった個人史が出汁のように効いてきて、恋愛が繰り広げられる。そこが魅力的でした。

生活レベルも人生設計も人それぞれ。お子さんがいる方はここでパートナーを見つけたとしても、すぐに付き合って同棲するのは難しいのかな?とか、そういう現実的なことも考えないといけない。それがすごくリアルで、他の恋愛リアリティショー番組ではあまり見たことのないような奥行きを感じました。「俺が、俺が」と主張ばかり強いとか、自分に都合のいい解釈をするとか、時には泥酔してしまったり、告白の時に我を忘れてサンダルで行っちゃったり、そういうみっともなさやダサい姿が見えてしまうところも、人間臭くていいなと思ったんです。

「どうしようもないな」と思いつつ、それぞれにピュアな部分もある。率先して料理をしたり、掃除をしたり、誰よりも早く起きて植物のお世話をしたり。“勘違い劇場“を繰り広げていたアンチョビだって、なんだかんだみんなに愛されている感じが伝わってきました。そんなふうに一人一人のキャラクターが一辺倒ではなく、重層的。綺麗な部分も格好悪いところも丸ごと提示されるところがおもしろかったですね。

オールorナッシングではない大人の恋愛

経験豊富なみな姉さん(写真左)はスタッフの相談にも乗ることも。ユキえもんとの何気ない会話で勘違いをしてしまったアンチョビ(写真右)。参加者は料理が上手が多い。食事がいつもおいしそうだった!

他の恋愛リアリティショーでは、「2人の関係が縮まる告白カップル成立」というプロセスをエモーショナルに演出していく傾向があって、それはそれで個人的に大好きなんですが、成立したカップルを追った後日談とかを見ると、意外と関係がドライだったり、「あ、付き合ってないんだ」と拍子抜けすることが結構あって。もちろん必ずしも恋人になる必要はないものの、「あのエモい煽りはなんだったんだ……」ってなる瞬間も正直あるんですよね(笑)。一方の『あいの里』はそういう煽りがあまりなくて、どちらかというと放置しているようにも見え(笑)、そうした環境下で一緒の時間を過ごしながら、心地いい距離感を見つけている感じがする。なので、ここで結ばれた2人のその後を見てもそんなに齟齬がない。そこも良いなと思うんですね。

―スタジオMCの田村淳さん(ロンドンブーツ1号2号)、ベッキーさんはどうでした? スタジオMCは説明役であり、ツッコミ役であり、フォロー役であり、番組の盛り上げ役でとても重要な役どころ。淳さん、ベッキーさんはさすがのMC力でしたよね。昔の淳さんだったらもっと意地悪な目線で参加者をおもしろおかしくいじってったように思うんですが、『あいの里』ではメンバーの発言に思わず自分の経験を重ね、感情が溢れ出して泣いてしまう瞬間もたくさんあって、新たな一面を見た気もしました。

―清田さんの元にはいろんな恋愛相談を寄せられていると思うのですが、令和の中年の恋愛事情はどうでしょうか? よく耳にするのは「出会いが激減する」という相談ですね。マッチングアプリは増えているけれど、対面のデートに漕ぎ着くまでに苦労するというか、出会っても付き合うまでのギアがかかりにくい。中年になると、それなりに仕事もプライベートも充実していて、恋愛が入り込む余地ってあまりない気がするんです。そう考えると、『あいの里』は日常から切り離された特殊な空間だから、恋心が生まれやすいのかもなと思います。また、ここで成立したカップルを見ると、お互いをリスペクトし、価値観や人生観を擦り合わせながら付き合っている感じがする。若い頃のような「オールorナッシング」みたいなカロリーの高い恋愛というよりも、仕事や家族の時間も大事にしながらほどよい距離感で一緒に歩いていける人生のパートナーを探している感じ。それが中年以上の視聴者の方にとっても希望になるのかなって。

―『あいの里』は1999年から約10年間放送された元祖・恋愛バラエティ『あいのり』のスタッフが再結集して制作したことでも話題でしたね。 そのことは全部見終わってから知ったんです。完全なる偏見なのですが……『あいのり』=「野暮ったくてダサい番組」というイメージがあって、当時リアルタイムでは追っていなかったんですが、その『あいのり』イズムが引き継がれて『あいの里』が生まれたのか!と、妙な納得感がありました。1999年のヒット曲をオープニングや劇中で起用しているところも中年世代に響いた一因かなと思うんですが、じゃあ、この番組がかつての『あいのり』視聴者にだけ響いているのかと言うとそうじゃなくて、10代や20代の若い世代にもファンが多いんですよね。SNSでは幅広い世代が盛り上がっていたし、自分も当時、一緒に仕事をしていたアラサー世代の編集者さんたちと番組の話で持ちきりでした。人間が剥き出しで恋愛する姿は時代や世代を超えて心を揺さぶるんだなと思います。

―シーズン2に期待することは?シーズン1の時のような“洗練されてなさ“が残るといいなと思います。次の参加者は、やっぱりシーズン1を研究して「こうした振る舞いは嫌われるんだな」とか「叩かれやすそうだな」とか、いろいろ対策してくる方もいると思うんですが、気取らず縮こまらず、ファンとしてはダサい部分やみっともなさを含む人間臭さを存分に見せてもらいたい…!個人的にはシーズン1と同じ古民家を使うのかとか、ラブヴィレッジがどう変化していくのかも注目しています。

Reality Show

Netflixリアリティシリーズ『あいの里』シーズン1独占配信中、シーズン2制作決定https://www.netflix.com/jp/title/81521365

edit&text_Mariko Uramoto