「どういうつもり?」デート帰りにハグされたけど進展なし!不安になった30歳女は…
高度1万メートルの、空の上。
今日もどこかへ向かう乗客のために、おもてなしに命をかける女がいる。
黒髪を完璧にまとめ上げ、どんな無理難題でも無条件に微笑みで返す彼女は「CA」。
制服姿の凛々しさに男性の注目を浴びがちな彼女たちも、時には恋愛に悩むこともあるのだ。
「私たちも幸せな恋愛がしたーい!」
今日も世界のどこかでCAは叫ぶ。
◆これまでのあらすじ
七海は、元カレ・新太に呼び出され、復縁を求める彼からプレゼントをもらった。しかし、誠意のない彼との復縁は無理、とその場を立ち去った。そんな七海の元に、小泉からメッセージが届くが…。
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Vol.11 やっぱり彼が好き
七海は、ドキドキしながら小泉からのLINEを開いた。
そこにあったのは「宿を気に入ってもらえて嬉しい」みたいなメッセージだけだった。
― これだけかぁ…。
七海は、がっかりと肩を落とす。
元カレ・新太に対してのイライラに落胆も加わり、ため息が漏れる。しかし、ひたすらガツガツと歩いてきた勢いも手伝って、七海はメッセージを打ち始めた。
『七海:いい天気ですね。あまり来る機会のない表参道をぶらぶら散歩中です』
送信ボタンを押すと、今度はスマホを頭上に掲げる。そして、秋晴れの空と立ち並ぶケヤキを撮り、小泉に送った。
メッセージは、瞬時に既読になり『一人?』と小泉から返信が来た。
迷わず『はい』と返事をする。
すると『僕、家が近所なんですよ。お茶でもどう?』と送られてきた。
― そうなの?「家は港区」とは聞いてたけど…。
七海の驚きも冷めやらぬまま、15分後。七海は小泉と合流した。
キャップを目深に被り、プルオーバータイプのパーカを着た小泉が交差点の向こうから走ってやってきた。フードの立ち上がりが小泉の顔をますます小さく見せる。
七海は自分の元に走ってくるまでのわずかな時間、彼に見惚れていた。
時間はすでに13時を回っていた。
「もしかして、もうランチ食べた?」
「えっと、食べたような、食べてないような…」
新太と入ったレストランでは、前菜を少し口にしただけで、メインには手をつけることなく出てきてしまった。
「この辺り、土日はどこも混んでるから、オシャレじゃなくてもいい?」と小泉は前置きすると渋谷方向に向かって246をゆっくり歩き始めた。
「ココに入るね」
小泉が、喫茶店のようにも見える店の扉を押し開けた。店内はほぼ満席の状態だ。テーブルを見渡すと、供されているのは中華のようだ。
「あら、いらっしゃーい。今ね、テーブルいっぱいなのよ、カウンターでいい?あ、カウンターがいいよね!2人の距離が縮まるもんね!」
入り口までやってきた男性店員の異常なほど明るいテンションに、七海は思わず吹き出した。
「ここ、いつもこうなんだよ。気にしないで」と小泉。
「ビール飲む?」
「明日のフライトまで24時間を切ってるので、お酒は飲めないんです」
「じゃ、今日はなしで。料理は、適当に頼んでいい?」と小泉は慣れた様子でオーダーし始めた。
「ところで今日は表参道に何しに来たの?」と小泉が聞いた。
「元カレの言い訳を聞きに来た」とも言えない七海は、少し考えてから「数ヶ月前までお付き合いしていた彼に忘れ物を預かってもらっていたので、取りに来ました」と答えた。
小泉は「そうなんだ」と言っただけで、続きはなかった。
― そんなこと興味ないよね…。
七海はちょっと凹むと同時に、ある質問を投げてみたいと思った。
「小泉さんはお付き合いしてる人いるんですか?」
しかし、喉まで出かかったこの質問を、七海は声に出すことができない。同期たちと一緒に参加する食事会だったら、一番最初に聞いてはずなのに。
彼が七海に興味があるのなら、元カレについて少し突っ込んでくれるだろう。だが、それもない。
それに、七海は「彼女いるよ」という答えは聞きたくなかった。
「この店面白いですね」
結局、七海は話題を変えた。
すると小泉は「星野源が書いたエッセイに出てくるお店なんだ」と言った。
「ライブあがりにへろへろに疲れた星野源が、ふとヘアメイクの人に教えてもらった中華の店を思い出し、タクシーで乗り付けるというエピソードがあってね」
そこまで言うと、自分のスマホから「Kindle」のアプリを立ち上げ、星野源の『いのちの車窓から』の一節を七海に見せた。
「ここに書いてある、『ボンジュール!』って挨拶する店員がいる町中華に惹かれて“表参道 中華 ボンジュール”ってググったらすぐに見つかった」
本に出てきた店をググって探す小泉の意外な一面を知り、七海はクスクスと笑う。
その本にも登場している、例の店員が「おまたせぇ」と2人の間にチャーハンの乗った皿と取り皿を置いていった。
「で、これがその本にもあったレタストマトチャーハン。食べてみて」と小泉が皿に取り分けた。

― さっきまで新太といたあの時間ってなんだったんだろう…七海は、さっきまでの自分を思い返しながら、チャーハンを口に運ぶ。
「トマトの酸味が効いてて美味しい…」
一口食べたところで、なぜか七海の瞳から一粒の涙が頬を伝って落ちた。
「ど、どしたの?泣くほど美味しい?」
慌てた様子で小泉が七海の顔をのぞき込む。
「ごめんなさい…。なんでもないんです」
溢れて出てきたのは、きっと後悔の涙。七海は、さっき新太が謝る姿に一瞬でも心が揺らいだ自分を悔やんだ。
とはいえ、小泉の咄嗟の反応がおかしくて、ハンカチで涙を拭いながら笑った。
食事の間、とりとめのない話ばかりだが、会話が次から次へと湧いてくる。そういえば一昨日も箱根で食事をしたばかりなのに。
飛行機に乗っている時はもっと無口な人だと思っていた。七海は小泉の横顔をまじまじとみた。
「どうかした?」
「いいえ、あの、初めて会った時は、もっと寡黙な人だと思ってたから…」
すると、あの飛行機に乗った時は、自分的に人をシャットアウトしたくなるような出来事があった直後だった、と小泉は言った。
「タイミングが悪かったっていうか。変なとこ見られちゃって…参ったな」
結局、店を出た後もスターバックスでラテを飲み、夕方までおしゃべりに興じた。
気づくとあたりはすっかり暗くなっている。
小泉は車で自宅まで送ってくれるという。一応遠慮したが「チャーハン食べて涙してた人を1人で帰せないでしょ」と小泉は笑った。
2人は、骨董通りから1本入った小泉の自宅マンションの駐車場まで歩いた。
住んでいるヴィンテージマンションや彼が乗っているレクサスRXは、七海にとっては今まで知らなかった彼の一面。七海の自宅に向かっている間中、車内で流れていたジョージ・ウィンストンのピアノも小泉という人間を表しているように思った。

そして、気がつくと七海の自宅近くに着いていた。
「このあたりで大丈夫です。ありがとうございました」
七海が車を降りると、小泉も車を降り、助手席側までやってきた。
― 「また会えますか?」って聞いていいのかな…。
一瞬迷ったが、その言葉を飲み込む。七海は「じゃあ、また」とその場を立ち去ろうとした。
その時。
ふわり、と背後から何かに包まれるような感覚に七海は思わず立ち止まった。
― えっ?
右肩に小泉の顎が触れ、七海は明らかに小泉に抱きしめられていた。
背中に小泉の体温を感じながら、七海はピクリとも動けずにいる。
七海の耳元で小泉が言った。
「元気出して」
それに応えるように、七海は交差する小泉の腕に、自身の手を重ねた。
― 私、やっぱりこの人のことが好き…。
◆
翌朝。
今日は福岡に1泊2日のフライトだ。
昨夜、中途半端になっていたパッキングの続きをしたあと、七海はスマホを手に取りInstagramを立ち上げた。
実は、普段はマメに更新していないInstagramだが、昨日のことを忘れたくなくて、七海はランチの一皿をポストした。

また、昨日のあの時間を思い出した。一夜明けても小泉の体温や匂いを、鮮明に覚えている。
「ごめんね。なんか衝動的で」
そう言って小泉は七海を自分の体から離し、「じゃあ」と言って去っていった。
― はぁ…。喜んでいいのか?どうなんだろ?
ぼんやり考えていると、莉里子からメッセージが届く。
「美味しそう。誰とですかー?ところでリードアテンダントに上がったそうじゃないですか!おめでとうございます」
「ありがとう。大学の時の友達だよ」とメッセージを返す。
いくら莉里子でも「一緒にいたのはファーストクラスの彼」とは、言えなかった。
彼女の言う通り、最近七海は国際線のクラスごとのCAをまとめるリードキャビンアテンダントとなった。同期が結婚や転職などで退職をしていく中、七海は今の会社の社風や、CAという仕事が好きで、地道にキャリアアップの努力を重ねてきた。
「婚活、恋活はひとまずお休みって感じですかー?」と莉里子。
しばらくは仕事に専念する必要があることは七海が1番よくわかっていた。その職務に応じた訓練も始まるし、勉強も必要なのだ。
また画面に通知が届く。今度はニューヨーク在住の瑞穂だ。
『いいなー、私も日本の町中華が食べたい』という瑞穂にメッセージを返す。
『七海:おいしかったよ。瑞穂たちに紹介してもらった、小泉さんにご馳走になっちゃった』
『瑞穂:え?意外、七海と彼が日本で会ってるなんて』
この間ニューヨークのお礼に、箱根の旅館に招待してもらった件も瑞穂に伝えた。
『七海:最初はとっつきにくいと思ってたけど、話が面白いし、素敵な人だね』
しばらく間を置いてから、意味深なメッセージが届いた。
『瑞穂:まさか、好きになってないよね?』
『七海:やだ!なんでそんなこと聞くの?』
七海は恐る恐る返信した。すると…。
『瑞穂:小泉さんって、婚約者いるって旦那が言っていたけど…。七海にそのつもりがないなら、全然いいんだ。気にしないで』
― えっ、婚約者?
七海は呆然と画面を見つめた。もうそろそろ家を出ないと間に合わないとわかっている。

不思議と怒りはなかった。
しかし、まだ何も始まらないうちに終わってしまったんだと思うと、また瞳の奥から涙が溢れてくるのだった。
▶前回:彼と箱根に行った翌日、目覚めたら1人だった!スマホには、彼からのメッセージが…
▶1話目はこちら:機内で名刺をもらった28歳CA。ステイ先で連絡したら…
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【最終回】婚約者のいる身でありながら…小泉が七海に抱いた思いとは?次回最終回。2人の恋の行方は?

