ついに完成した世界最高水準の国産戦闘機用エンジン「XF9-1」- 日本のミリタリーテクノロジー 開発者インタビュー【前編】 - BLOGOS編集部
※この記事は2019年04月11日にBLOGOSで公開されたものです
昨年6月29日、重工メーカー・IHIから防衛装備庁へ、ひとつの試作型ジェットエンジンが納品された。そのエンジンの名は「XF9-1」。これまで日本の弱点とされてきた“戦闘機用ジェットエンジンの国産化”という難題に大きな進展をもたらした研究試作品である。同年7月にはアフターバーナなしの状態で推力11t以上を達成。さらに8月にはアフターバーナを使って15t以上という最大推力をマークした。(アフターバーナとは、ジェットエンジンの排気ガスに再度燃料を噴射して燃焼させることで、一時的にパワーを増大させる装置のこと)
史上最強とも言われる米空軍のステルス戦闘機「F-22ラプター」が搭載しているエンジン「F119」のアフターバーナ最大推力は公称15.9tであり、XF9-1はこれに並ぶ数値を叩き出したと言える。
これまでアフターバーナ最大推力5tクラスのエンジンしか作ってこなかった日本が、ここに来て突然世界一線級のエンジンを生み出したことは航空関係者からちょっとうるさいミリタリーマニアまで、大きな驚きをもって迎えられた。
確かに日本はロシアと中国という、アメリカに続いてステルス戦闘機を開発した国々に囲まれている。そんな地球上でもなかなか珍しいポジションにある日本にとって、最新世代の戦闘機に使えるエンジンを自力で作ることができる意味は大きいと言えるだろう。
しかしなぜ今になってそれができてしまったのか? そしていかにしてそれを可能に? 防衛装備庁 航空装備研究所に勤務し、エンジン技術研究部長としてXF9-1の開発に携わってきた郄原雄児氏にお話を伺った。 【文/しげる 編集/木下拓海】
アフターバーナ推力15tを達成したXF9-1の最大推力確認試験映像
【お話を伺った人】防衛装備庁 航空装備研究所 エンジン技術研究部長 郄原雄児さん(現 防衛装備庁長官官房装備官)
防衛技官、工学博士。ジェットエンジンの専門家。防衛省に入省後、エンジンの研究室に勤務。防衛省の研究職は予算取りなど、研究以外にゼネラルマネージャー的な仕事も多く、途中FSX(次期支援戦闘機、現在のF-2)の開発室に3年在籍。その後BMD(弾道ミサイル防衛)の開発室長も務める。XF9-1開発の佳境であった2年前に航空装備研究所に戻り、現職に就任。XF9-1のプロジェクトマネジメントと、技術検討会議を担当。
大きいエンジンではステルスに不利
--まず初めに、XF9-1とはどのような目的で作られたのでしょうか?このエンジンの一番の目的は、戦闘機のエンジンを国産で造るための技術を蓄積することです。ですので、特定の戦闘機のために作ったエンジンではありません。しかし、将来的に日本が戦闘機を開発することになった際に、すぐ作れるだけの技術を持っていないといけない……ということで実証試験的に作られたのがXF9-1なんです。
--これを今後、自衛隊で使うかどうかはまた別の話になるんですね。さて、このエンジンの特徴は?
まず一番の特徴は、アフターバーナ最大推力が15t以上出せるという点ですね。これはつまり15tのものを垂直に持ち上げられるだけの力でして、それだけのパワーを出せるエンジンは世界でもアメリカとロシアくらいしか作っていません。
例えば、現在航空自衛隊で使われている戦闘機「F-15」のエンジン「F100」だと、アフターバーナを焚いても推力はおよそ10t。XF9-1はアフターバーナなしでも11t以上とそれを上回りますし、アフターバーナありなら約1.5倍の推力を出すことができます。
諸外国の一線級エンジンとの比較。XF9-1の最大推力は米空軍戦闘機F-22のエンジン「F119」に匹敵している。さらにF119の主要部分を流用してパワーアップさせたのが、日本も導入する米製最新鋭戦闘機F-35に搭載されているエンジン「F135」。推力自体は他を圧倒しているがサイズがかなり大きく、F-22はエンジン2台なのに対し、F-35は1台のみの搭載。
--それでいてXF9-1は、全長4.8m以下、直径1m以下とコンパクトにできているんですね。
そうなんです。実は“大きくて強いエンジン”を作るのは、比較的簡単なんです。でも飛行機のエンジンなので、まずは軽くなくてはならない。それに今後のことを考えるとステルス性も重要になってきます。
敵が照射したレーダーの反射を抑えないといけないステルス戦闘機は、従来のようにミサイルを主翼や胴体の下にぶら下げず、機体の内部に詰め込んで隠しちゃうんですね。そうなるとエンジンも飛行機の内部にありますから、ミサイルとのスペースの取り合いになってしまいます。
ですからエンジンはなるべく細くて軽いものが必要、というわけなんです。求められているのは“ハイパワースリムエンジン”でして、パワーは出るけど大きくて重い……というエンジンはもうやめようという発想で作られています。
XF9-1の1/5模型。ファンと圧縮機(青)が回ることで左側から空気を吸い込み、燃焼室(銀の上部分)で圧縮された空気に燃料を噴射して燃やす。すると温められたガスは膨張、噴出して、その後にあるタービン(赤)を回す。タービンの軸はファンや圧縮機(青)の軸とつながっており、タービンが回るとそれらも回って、再び空気を吸い込むというのがジェットエンジンの基本的な仕組み。そして赤色部分の後の空洞部で、タービンを回した後の排気ガスに再び燃料を噴射して燃やし、さらに勢いよく噴出させるのがアフターバーナだ。
細い直径でいかに大量の空気を吸い込むか?
--細くて強力なエンジンを実現するのに必要なことは何でしょうか?まずひとつは、なるべくいっぱい空気をエンジンの中に吸うことです。エンジンが細いということは、断面積が小さくなるので空気を吸うのに不利なんですね。
そのためにXF9-1では、例えばコーン(編注:上写真、左側に突き出た三角部分)が大きいと空気が入ってくる量が減っちゃうので、それをなるべく小さくするだとか、ファンや圧縮機の形状をもっと空気が吸い込めるように効率化したり、外側のケースと圧縮機の間にできる隙間を減らして空気の漏れを防いだり、遠心力の作用を利用したりすることで、なるべく大量の空気を吸い込むようにしています。
--限られたスペースで限界まで空気を取り入れているんですね。
そしてもうひとつですが、燃焼ガスの温度を上げることです。そうすると同じ空気量でもより膨張して、よりタービンを回してくれるので効率が上がります。単純な話、燃料をいっぱい空気に噴出すれば温度は上がるんですが、でもそうなるとタービンが高熱に耐えられなくなって溶けてしまいます。
したがって、これを実現するには普通の鉄やアルミではなく、特にニッケル系の耐熱材料が必要です。近年のタービンは基本的にニッケルベースの素材でできているんですけど、ただ、エンジン稼働中はニッケルの融点である約1400℃よりも高い温度になります。だから何も対策を取らないと耐熱材料でも溶けてしまうんですね。
--となると、何かしらの方法でそれらを高温から守る技術が必要になると?
その通りです。ニッケル合金でできたタービンの羽根に小さな穴をたくさんあけて、超高速回転している際にその穴から空気が染み出してくるような冷却の仕方をしています。そうすることで、タービンとガスの間に冷たい空気の層を作ってやるんですね。
だけど、例えば火山の近所を飛んだとしますよね。そうすると、その穴に火山灰がつまっちゃう。火山灰というのはシリコン系ですから、あっというまに溶けて穴がふさがっちゃうんですよ。
--なるほど、火山が噴火すると飛行機が飛べなくなる理由のひとつがそれなんですね。
XF9-1の高圧タービンのスケールモデル。燃焼したてのガスは、まずこの高圧タービンの羽根にぶち当たって羽根車のように回す。高温・高圧・高回転という最も過酷な環境にさらされるため、羽根は国産第5世代ニッケル単結晶超合金製。さらに羽根の表面には小さな穴を無数にあけて、内部から冷却空気を噴出させる。そうすることで空気層でコーティングし、高温で羽根が溶けないようにしている。
世界トップレベルの燃焼ガス温度
こういった技術のおかげでXF9-1のタービン入口温度は1800℃以上出せるようになりました。空気を吸う量と熱効率を突き詰めて大推力を引き出しているというのが、このXF9-1の特徴と言えるかと思います。--1800℃というのは、アメリカやロシアのエンジンと同じくらいの温度なのでしょうか?
正確にはどこの国も公表していないんですよ。まあそんなもんかなという推定です。ただ、1800℃という数字は世界のトップクラスなのは間違いないと思います。ナンバー1かどうかはわからないですが、最高水準ではあります。
--先代の戦闘機用ジェットエンジンにあたる「XF5-1」は1600℃でしたが、そこからどのような技術革新があったのでしょう?
XF5-1はおよそ20年前のエンジンになります。その時点で1600℃というのは、特に世界最高クラスの性能ではなかったんですよ。そこから200℃上がったというのは大きな向上だと思います。
実は高温に耐えられる金属材料は日本が得意な分野でして、ニッケル系の単結晶材の技術が向上したんです。それは防衛省だけじゃなくNIMSさん(国立研究開発法人 物質・材料研究機構)などが基礎的な研究を進めて、そういうものを引き継ぎながらIHIさんで仕上げた……というような材料技術の進展が大きいですね。
アフターバーナ最大推力5tのXF5-1の実物。推力的にはXF9-1の1/3、サイズ的にもかなり小さい(本文一番上写真参照)。ちなみに「X」とは試作型を意味した記号。量産されるとつかなくなる。
--なるほど、外部機関とも連携を取った着実な蓄積がこの20年の間にあったんですね。
あと、回転部品であるタービンはニッケルで作っているんですが、その外枠部分の回転しないタービンシュラウドは、CMCという耐熱材料で作っています。セラミックは高温に強いですけど割れちゃうんで、それを解決するためにセラミックスの繊維を織り込んで作った材料なんです。
非常に軽くて高温に強い上に脆さも多少解決しているので、ノズル(編注:ジェットが噴出するエンジンの最後端)の動くところなどにも使っています。その技術も日本は強いんですよ。回転する部品まではまだ使えないんですけどね。
CMCでできたタービンシュラウドの一部。実際に金属製の従来品と持ち比べてみたのだが格段に軽い。セラミック系材料だけあってか、表面は素焼きの陶器のようにざらついている。
現在の戦闘機はたくさん電気が必要
--XF5-1で培った技術を活かして今回XF9-1を開発したのでしょうか?高圧圧縮機と燃焼器、そして高圧タービンは、ジェットエンジンの肝とも言える部分で“コア”と呼ばれているんですが、さすがにXF5-1のコアの技術は古いものなので、XF9-1で直接取り入れた部分はさほど多くないです。
ただXF5-1は、実際に先進技術実証機であるX-2に取り付けて飛行試験をやっていますので、機体とのインテグレーションや、実際の飛行で得られたものは大きかったですね。
XF5-1の燃焼器を除いたコア部分(実物)。左側が高圧圧縮機、右側が高圧タービン。このXF5-1のコア部分を流用して、海上自衛隊の哨戒機P-1のF7エンジンは作られた。
--実際に飛ばしてみるとまた違った課題が見えてくるんですね。
関係している会社や立場によって視点も違うので、例えば、飛行機を作っている三菱重工さんの観点から見た改善すべきポイントが出てくるわけです。我々はエンジンだけを見ているから、ついエンジンに偏ってしまいますが、エンジンは飛行機につけて初めて生きるものですからね。
飛行機側からの観点はX-2で学びましたので、そういったことは最初からXF9-1に盛り込まれています。
X-2の飛行試験映像(防衛省 防衛装備庁公式YouTubeチャンネルより)。
--他にXF9-1の特徴としてはどのようなものがありますか?
発電能力の高さですね。飛行機の中で電気を作ることのできる部分はエンジンしかありません。今や戦闘機というのは電子機器の塊でして、レーダーで敵を見つけてミサイルを撃ったり、相手からのレーダーを感知して逃げたりだとかでいちいち電気を使うわけです。
将来の戦闘機がどんなものになるにしろ電気を大量に使うのは明らかなので、それに対応できる発電能力は次世代エンジンには必ず求められる能力です。
--とはいえ、大きな発電機は積めないと?
そうなんです。ものすごく大きな発電機を積めば大電力を作れるかもしれないけど、そうするとまた飛行機内のスペースを取り合ってしまう。そこでエンジンのスタータと兼ねさせることにしました。
--スタータとは、自動車のセルモータのようなものですか?
そうです。ただ、車のセルモータはエンジンを始動するときにしか使わないですよね。一方、発電機は車が動いている間ずっと使います。今までの飛行機って、これを分けて積んでいたんです。しかし原理的にはモータと発電機は表裏一体と言うか、電流をかければ力が出るし、力をかければ電流が出るものですから、それならということで“スタータジェネレータ”というひとつの装置にしたというわけです。
これは世界的なトレンドでもあるんですが、うまくいけばデメリットはない装置です。作るのは難しいですが一石二鳥です。この発電能力と省スペース化もXF9-1の売りですね。
XF9-1を横から見たところ。前方下側にある張り出しの中に、スタータジェネレータは搭載されている。発電能力は180kW級でこれも世界トップレベル。
そして気になるコスト面
--XF9-1はコストも考慮されているのでしょうか?まさにコストは大変重要なファクターでして、非常に重視しています。世界で戦闘機を作っている国はたくさんありますが、費用が高すぎると誰も買ってくれません。なので競争力のある価格になるよう努力しています。ちょっとでも安ければその分、飛行機の数もミサイルも増やすことができますからね。
例えば、ファンのこれまでの作り方は、ブレードとディスクが一体構造(ブリスク)の部品として製造する際、金属の塊を削って作っていました。だから無駄も多いし、手間もかかるのでコストが高い。一カ所でも折れたら全部最初からやり直しだったんです。
そういった削り出しで作るやり方から、3Dプリンターとか、“線形摩擦接合”という、パーツとパーツのつなぎ目を摩擦でぐりぐりっとこすりつけることでくっつけるような作り方でコストを下げられないかとチャレンジしています。
--やはりサイズが大きくなると、それだけコストもシビアになってくるのでしょうか?
エンジンを大きくすると金属素材を一様に加工するのは難しくなったりします。XF5-1のタービンディスクは金属の粉末を焼き固めて作っていたんですけど、同じやり方ではどうしても大きい設備が必要になってきて値段も高くなってしまう。
そこでXF9-1では、日本エアロフォージさんという会社の設備を活用して、金属を叩いて製造する“鍛造”でタービンディスクを作っています。
XF9-1の高圧タービンのスケールモデル。タービンの羽根が取り付けられた“円盤”がタービンディスク。国産溶製鍛造ニッケル-コバルト基超合金で作られている。溶製とは複数の金属を溶かし合わせるという意味。
--やはり日本は材料と加工技術が優れているんですね。
それもそうですし、あとCFDという、コンピュータで流体を解析するシミュレーションの技術も高いんですよ。そこらへんの技術がなければXF9-1のファンの形を作ったりとかはできなかったです。ただ、日本の弱点と言えば、3Dプリンターは外国を追っかけているところはありますね。
--エンジンの耐久性も欧米の一線級エンジンと同等でしょうか?
基本的にエンジンの耐久性は使われ方次第です。戦闘機と言ってもいろんな飛び方がありまして、何度もアクセルとブレーキを踏み込むような飛び方をするものもあれば、基本的にアクセルを踏んでいるだけの長時間巡航といったものもあります。
ただ、ミリタリー用エンジンの耐久性はある程度規格が決まっていて、とりあえず世界標準の値があるのでそこを目指そうとしています。どんな使い方をするにしても、こういう耐久性が必要というのは決まっているんです。
後編では引き続き郄原さんに、XF9-1の開発舞台裏や今後の見通し、戦闘機用ジェットエンジンを国産で作る意味などについてお伺いします。最大推力試験で起きた奇跡とは…。後編をお楽しみに。(つづく)
