激動と混乱のモバイル業界! 熾烈な価格競争は2021年に何をもたらすのか

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●モバイル業界史に残る激動の2020年
日本に携帯電話サービスが普及しはじめて20余年。その長いモバイル業界の歴史の中でも、2020年は1〜2を争うほどの大激動の1年となったことは間違いありません。

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが数年前より準備を進めてきた5Gサービスが、いよいよスタートというその矢先に起きた、新型コロナウイルス感染症問題(コロナ禍)。
2019年の電気通信事業法改正と、通信料金および端末販売の完全分離化が引き起こしたスマートフォンの販売不振。
楽天モバイルの移動体通信事業者(MNO)参入と低価格使い放題プランのインパクト。
NTTドコモのドコモ口座不正利用事件によるオンライン決済への不信。
総務省による通信料金値下げへの止まらない圧力。
通信料金値下げによる業績悪化を引き金としたNTTドコモの完全子会社化。
そして始まった形振り構わぬ熾烈な価格競争と寡占市場への不穏な足音。

果たしてモバイル業界の未来はどこへ向かっていくのでしょうか。
大激動となった2020年の同業界を振り返りつつ、2021年を占います。


2020年のモバイル業界は通信料金に振り回された


●未曾有の災禍が5Gを直撃した
2020年最初の不幸であり、最大の混乱の元凶ともなったのは、間違いなくコロナ禍でしょう。

MNO各社は、2020年までに5G通信の準備と周知に多くの時間とコストをかけてきました。
そのスタートとなった3月末、日本列島各地で新型コロナウイルス患者が発生しはじめ、大パニックとなっていました。

程なくして政府から緊急事態宣言が発令され、日本中が自粛状態となり、経済活動は停滞します。
これにより、5Gサービスはスタート直後から大ブレーキを余儀なくされ、先行投資していたコストの回収と5G戦略は大きく後退することとなります。

そもそも、5Gを2020年スタートに据えた理由の1つとして、東京オリンピック・パラリンピックがありました。
5Gはその電波特性やエリア展開の難しさから、
・スポーツスタジアム
・イベント会場
・ショッピングモールなどの商業施設
こういった人の密集する場所での超高速・超多接続通信を優先して利用が想定されていました。
しかし、肝心の東京オリンピック・パラリンピックが延期されたことで、これらの需要が消滅してしまったのです。

その上、「三密を避ける」というコロナ禍の防衛策により、ショッピングモールなどの商業施設の利用も激減。
オンライン通販などの「巣ごもり需要」は増えましたが、人の外出が減ったことで5Gのメリットがまったく活かされない世界となったのです。


5Gで解決しようとしていた社会問題とは、コロナ禍以前のものだった


●総務省の要請が引き起こした寡占状態
もう1つ、業界を大混乱に陥れた原因が、総務省による再三の通信料金値下げ圧力です。

菅義偉内閣総理大臣が、内閣官房長官を務めていた2018年8月に「(携帯電話料金は)4割程度値下げする余地がある」と発言して以来、MNO各社は総務省から圧力に近い強硬な値下げ要請を受け続けることとなります。

その要請を受けてNTTドコモは、2019年6月よりギガホ・ギガライトといった新料金プランを発表しました。
しかし、この料金プランが仇となって業績は一気に悪化。2019年度は大きく減収減益となります。
NTTドコモは株主総会などで「2018年より想定していた範囲内での減収」だと説明していました。

ところが、2020年度に入っても一向に回復の兆しが見えない通信事業にNTT本体が業を煮やし、ついに完全子会社化へ舵を切ります。

NTTはNTTドコモの通信事業を抜本的に改革し、他社潰しとも取れる、自社グループ内での合併・統合計画を発表したのです。
これにはMNOのみならず仮想移動体通信事業者(MVNO)各社も大きく反発し、28社合同による反対意見書を総務省へ提出する事態にまで発展しました。

結果として通信料金の値下げは各社で実行され、現在は「通信容量20GBで月額2980円」という料金設定が、MNO各社の大きな競争ラインになりつつあります。


NTTは競争力強化と経営健全化のため、NTTドコモへのグループ企業の合併・吸収も視野に入れる


消費者としては、通信料金が下がることは大変歓迎されることです。
しかし、それを実行するためにMNO各社は自社のサブブランドやグループ各社の統合・再編へと動き出し、モバイル業界は再び3大通信キャリアによる「大寡占時代」に戻る危険性を帯びてきました。

消費者の選択の結果としての市場の変化ではなく、政府主導による強引な市場介入が引き起こした寡占状態に陥りつつあるのです。


MNO各社は総務省の要請によってグループ内の通信ブランド間での手数料を0円にしたが、これによってグループ外への転出(MNP)がさらに減る可能性がある

通信容量20GBで月額3980円や2980円といった通信料金の設定も、健全な市場競争の末に生まれたものではありません。
総務省が「海外の通信料金水準」として挙げていたのが20GBで月額4000円前後であり、当時の菅官房長官はこの数字を基に「4割下げる余地がある」と発言していたからです。

10月28日にワイモバイルやUQモバイルから通信容量20GBで月額4000円前後の料金プランが同時に出されたことは偶然でも、ましてや企業間の談合などでは一切ありません。
総務省の要請に従った結果です。

こうした政府による価格統制に近い通信料金値下げの流れは、自由経済市場としては非常に好ましくない流れです。
もちろん、MNO各社の通信料金が高止まりし、高すぎる利益率で推移していたことは間違いなく、そこにメスを入れる必要があったことも間違いありません。

しかし本来は、価格統制のような値下げ圧力をかける前に、
・MVNOのMNO接続料金(回線卸価格)の値下げ
・MNP手数料や各種転出・転入手続きの無料化
・キャリアメールの持ち運び施策
こういった施策を実行した上で、そこから数年間は消費者流動性の動向を確かめる時間が必要だったのではないでしょうか。

通信料金値下げは菅政権の大きな目標として掲げられていますが、それを性急に行うべきではなかったと考えるところです。


総務省は「多様で魅力的なサービスを生み出す」ことを柱の1つに掲げているが、通信料金の値下げを急ぎすぎた結果、業界の多様性が潰され始めている

4月には楽天モバイルが通信容量無制限で月額2980円を武器にMNOへ新規参入しましたが、その認知と普及を待たず、MNO各社の低料金プラン競争が開始されています。
新規MNOの参入は市場活性化と健全な価格競争を促すための国策であったはずなのに、総務省の強引な市場介入によって、健全な価格競争ではない方法で価格は下げられてしまいました。

楽天モバイルも、MNO新規参入に対する優遇的な施策が少ない中、政府によって持ち上げるだけ持ち上げられて参入したものの、途中ではしごを外されてしまった状態です。
自社通信網が整っていない楽天モバイルにとって、MNO各社の値下げ合戦と顧客の囲い込み強化による影響は、事業存続への致命傷にもなりかねません。


楽天モバイルはエリア展開計画を大きく前倒しして状況の打開を図る

スマートフォンの販売でも、通信料金との完全分離化と値引き制限によって「多機能・高性能」を売りとした高価な端末が売れなくなり、5G通信対応スマートフォンの販売不振にも繋がっています。

それでも現在はMNO各社がメインブランドで販売するスマートフォンをすべて5G対応に切り替えていく施策により、リーズナブルな5G対応スマートフォンも用意され、販売と普及は徐々に進みつつあります。

2020年の大混乱の中、通信キャリアのみならず、端末メーカーも大きな試練に突き当たってきたのです。


5G普及は政府の目標でもある。その5G普及が政府の別の施策によって阻まれたのは皮肉でしかない


●大寡占時代を迎える2021年
2021年のモバイル業界はどうなるのでしょうか。

現在MNO各社が用意している通信容量20GBの低料金プランは、いずれも2021年2月から4月頃のスタートとなっており、本格的な通信料金競争は2021年春から始まることになります。
また、東京オリンピック・パラリンピックの行方はまだ不透明ですが、仮に日本国内でコロナ禍が収束しても海外の動向次第であり、オリンピックを起爆剤とした5G普及促進の再点火は望みづらいというのが現在の見通しです。

MNOによる低廉な通信料金プランの浸透は、一方でMVNOのシェア縮小や経営状況の悪化を招きます。
その動きは前述のように業界の寡占化を加速させ、MNO各社の経済圏への顧客囲い込みが強化される可能性もあり、消費者の流動性はますます低下していくものと思われます。

さらに、強引な値下げに踏み切ったMNO各社のインフラ整備計画への影響も懸念されます。
料金の値下げは収益悪化に直結します。それに加え、5G基地局敷設を計画通りに進めれば業績悪化は避けられません。

こうした状況を是とする企業や株主であれば問題ありませんが、事はそう簡単に進まないのが市場経済です。
事実、それによってNTTドコモはNTTの完全子会社となりました。

ソフトバンクもNTTドコモの料金施策に追従するため、同社のMVNOブランドとして運営していたLINEモバイルを完全子会社化し、新たにオンライン専用ブランドとして「ソフトバンク on LINE」(ソフトバンクオンライン)を展開することを決定しています。

競争に勝つためならば形振り構わない。それが市場原理です。
総務省がこの状況と企業の行動理念を理解していたのか、甚だ疑わしくもあります。


利益追求こそが企業の最優先課題だ。そのためであれば法に触れないどのような手段も講じる


こういった事業統合や経営の合併・吸収は2021年も継続されるものと思われます。

その大寡占時代の先に、消費者の利となる世界は実現できるのか?

低廉な通信料金プランという「手札」は、各社ともに出揃いつつあります。
次は、消費者たる私たち自身が選択する番です。
執筆 秋吉 健