2018年7月に就任記者会見を開いた際の、稲田伸夫検事総長。慣例で検事総長の任期は約2年。勇退前に、検察の生き残りと威信をかけて、安倍内閣と戦っていただきたい 写真/時事通信社

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―[言論ストロングスタイル]―

◆安倍内閣と法務・検察、どちらかが叩きのめされるまで続く死闘が始まった

 絶句してしまった。この世に、これほど間違った内容を伝えるジャーナリストがいるのか。もはや、ここまで間違っていると、ジャーナリスト生命の危機ではないかと、他人事ながら心配になる。普通は人間のやることに100点も0点も無いものだが、今回は極端な例外だ。特に恨みはないので名は秘すが、何もかもが間違った発信で世を惑わし、当方にまで迷惑がかかってきた。

 曰く、「黒川弘務東京高検検事長の定年が、誕生日直前になって延長されたが、首相官邸は政治介入などしていない。事実は、法務省が林真琴名古屋高検検事長を次期総長に推したら、官邸からは返事が無かった。そこで官邸の意向を理解した法務・検察が黒川氏を次期総長に推す案を検討したが、これに現職の稲田伸夫総長がカルロス・ゴーン逃亡事件の責任を取らされたと思われるのが嫌で駄々をこねた。そこで黒川氏の定年を延長し、稲田氏が夏の定期異動まで居座れるようにしたのだ。むしろ、黒川氏の昇進阻止、林氏の出世を望む朝日新聞が意図的に歪曲報道をしている。朝日新聞こそ、検察への人事介入をやめろ!」云々。

 このジャーナリスト氏の言い分が事実だとしたら、首相官邸は「林総長案」を蹴り、人事介入をしているではないか(失笑)。また、安倍首相はメディアや野党の攻撃を甘受してまで法務・検察に配慮してあげた、お人よしということになる。贔屓の引き倒しだ。そして、稲田現総長だけが悪者になる。眉に唾を大量につけて聞かねばならない、与太話だ。

 ところが、ネトウヨ相手の商売など、チョロイものだ。こんなタワゴトを根拠に「お前の言っていることは自分が聞いた話と違う!」と私に抗議してくる人間がいる。「お前の信じている人間こそ全部デタラメなのだから仕方が無かろう」としか言いようがないのだが。

 ネトウヨ界隈なら、「安倍首相は100点、安倍さんに逆らうパヨクは0点!」程度の言論で済むのだろうが、次元が低すぎる。

 しかし、罪なものだ。愚かなネトウヨとて、最初から愚かなネトウヨだった訳ではない。世の中のことを知りたいと思って、騙された哀れな存在なのだ。そして、純真な人間を騙して食い物にする人間が、いわゆる保守論壇には溢れている。そろそろ、一掃すべきか。

 さて、今回の首相官邸の検察人事への介入は大事件である。首相官邸の主である安倍内閣と法務・検察、どちらかが叩きのめされるまで続く死闘が始まったのだ。

 一から話そう。

 法務・検察は特殊な組織である。検察庁は法務省の「特別の機関」と規定されている(法務省設置法第14条)。だが、力関係は逆で、司法試験合格者の検事が集まる検察は、法務省のことを「ロジ」と呼ぶ。ロジスティックスのロジ、後方の意味だ。他の役所と違い、法務・検察の頂点は、法務事務次官ではない。検事総長だ。その検察庁のトップである検事総長をめぐり、林真琴・黒川弘務の両氏は、激しく出世競争をしていた。二人とも司法修習所35期の同期、同じ昭和32年生まれである。ただし黒川氏は2月8日、林氏は7月30日生まれである、検事の定年は63歳だが、検事総長のみ65歳だ。だから、総長になれなければ、法務・検察を去るしかない。本来は。

 林氏は、「検察のエース」「保守本流」と目されていたが、安倍首相と菅官房長官に嫌われ続けた。逆に黒川氏は、引き立てられてきた。一説には甘利明氏や小渕優子氏らの疑惑事件を黒川氏が揉み消した論功行賞とも言われるが、よくわからない。

 林氏の出世が阻まれること、三度! 首相官邸は、この4年間、林氏を徹底的に嫌い、黒川氏を重用し続けた。だが、誕生日のみは変えられない。