東京には、様々なライフスタイルを持つ者がいる。

中でも、最近特に注目されているのが「デュアルライフ(2拠点生活)」だ。

ビジネスや子供の教育のために、このスタイルを選ぶ人も多い。

通信機器の発達により、東京と地方、東京と海外などでデュアルライフのための環境が整ってきたことも大きく影響しているのだろう。

では、その実際の暮らしぶりとは、どのようなものだろうか?

この連載では、都心に住む限られたアッパー層のデュアルライフに至った事情と、その実態を覗いてみる。これまで、田舎暮らしに耐えられず別居婚を選んだ女、東大卒バツイチ社長の悩み、一つだけじゃ満足できない女などを紹介してきた。今回のデュアラーは…?




#File07 好きだからこそ別居婚を選択したドクターの場合


名前:石井拓人 37歳(仮名)
住まい:文京区、沖縄(2ヶ月に1回ほど不定期滞在)
職業:内科医
家族:妻36歳(フラワーコーディネーター、ライター)と子供2人(5歳と3歳)

結婚は何のためにするのか、考えたことがあるだろうか。

「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と、法律上では同居を義務としているが、夫婦の合意があれば別居婚は認められている。

デュアルライフを語る上で、度々話題に上る「別居婚」問題。今回は、沖縄に住む妻子との別居婚を選択している男性を紹介しよう。

待ち合わせ場所であるグランドハイアットの『フィオレンティーナ』に現れた拓人は、無駄な贅肉はなく細身で仕立ての良いスーツを着こなしている。2児の父親だというが、生活感はまるでない。

「ドクターっぽくないですね」と言うと彼は、嬉しそうに笑った。代々医者の家系で育った拓人にとって、医者っぽくないという言葉は褒め言葉のようだ。

「僕は医者ですけど、いわゆる勤務医とかではなくフリーランスで仕事をしているからですかね。

病院やクリニックなど医療機関はもちろんですけど、新しいことにチャレンジすることも好きなので、企業から呼ばれて医療系アプリの開発アドバイザーなんかもしてますよ」

バイリンガルの拓人は、日本各地はもちろん、海外に呼ばれることもあるという。そのため拠点は東京の方が動きやすいと話す。

一方、彼の妻と二人の子供は沖縄暮らしをしている。早速、別居婚をしている理由について尋ねてみた。


「別居婚」を選択したその理由とは?


好きだから、別居婚を選択。強烈に惹かれた二人の出会い


「そうですよね、やっぱり別居婚の実態って気になりますよね。ところで、結婚って何のためにすると思いますか?」

別居婚の理由を聞いたものの、逆に質問で返される形となった。だが彼は、こちらの答えを待つでもなく、続けてこう言った。

「妻とは、社会人になってアメリカ留学をしていた時に現地で出会いました。出会った時に、お互いすぐにこの人だってわかりましたね」

人目を惹く美人という訳ではないが、凛としていて透明感がある。人との距離感が絶妙でよく笑う彼女の周りには、男女問わずいつも人が集まっていた。そんな彼女に拓人も惹かれた。




二人はよく似ていた。世界中を旅して、様々な人種と出会うことが好きなタイプ。付き合い始めても、二人だけのデートをするよりも仲間と一緒にワイワイしていることの方が多かった。

結婚前から、妻は子供が生まれたら自然豊かな沖縄で子育てしたいという夢を持っていました。“横浜出身だから海が近いところじゃないと暮らせない”とよく言っていましたが、色々な場所を旅した結果、特に沖縄の暮らしと海が肌に合うと直感的に思ったみたいです。

自由を愛する二人なので結婚なんてできるのかと思っていましたが、逆に型にはまらない新しいスタイルの家族があっても良いのでは、と話し合って結婚したんですよ」

子供が二人生まれた後、妻は夢を叶えるべく沖縄に移住し別居婚が始まった。拓人は、結婚当初一緒に住んでいた文京区のマンションを維持する形で住んでいる。

妻は、東京でもともとやっていたフラワーコーディネーターの仕事をフリーランスとして沖縄でも続けており、ホテルや結婚式場で仕事をしている。

「他にも、沖縄だからこそできることを徐々に仕事にしているようで毎日楽しそうですよ。例えば、沖縄での子育てやデュアルライフを記事にするライター業をしたり、地元の人しか知らないディープな沖縄ツアーを企画したりと。

もともと社交的なので、沖縄の地域の人たちともすぐに打ち解けてビーチでママ会やヨガをしたりしているみたいです。

子供達は、まるで大勢の親戚に囲まれているような環境で、多くの人に見守られながら大自然の中で育っています。こういう経験は、東京ではなかなかさせてあげられないですね。

僕らはフリーランスで仕事をしているので、お互いが出張を兼ねて行き来するついでに会うということも多いです」

別居婚の距離感をあえて楽しんでいる、そんな風に聞こえてくる。だが、順調に理想の暮らしを手にしたように見える彼にも、このスタイルに落ち着くまでには紆余曲折があったと言う。

「色々あったんですよ。一番大きかったのは、妻のSNSパトロール問題です」

少しだけ苦い表情になった拓人が、ゆっくりと語り出した。


別居婚の危機「タグ付けで幸せアピール」


別居婚の危機「タグ付けで幸せアピール」


「別居した当初は妻も心配だったらしく、やたらSNSで僕をタグづけしてきました。それも子供と一緒の写真とかに、意図的に。

#娘のバースデー、#パパが作ったご飯、#happy、とかハッシュタグをつけて。“別居はしているけど、結婚生活うまくいっています”アピールとでも言うんでしょうか」




その流れで、妻は夫のFacebookやインスタを徘徊しパトロールするようになった。

「僕がタグづけされた写真を、まるで霊媒師かよっていうくらい透視するんです。わずかに写っている手とか、影まで見るんですね。これが、笑い話にならないくらいのレベルだったんです」

もともとそんなタイプの女性ではなかったので驚きを隠しきれなかった。お互いの夢を尊重し別居婚を選んだのに、これでは余計に窮屈な生活をしていると。

一時は、妻が東京に戻ってくるかという話にもなった。

「妻に夢を諦めて欲しくなかったので、僕が潔白を証明するために1週間に一度何とかして沖縄に行き東京にとんぼ返りするという生活を2ヶ月ほど送りました。その様子を始めはタグづけされていましたが、家族で時間を持つことで次第に妻も自分らしさを取り戻して来ました。

結局、お互いのSNSは見ないし、タグづけもしないということで落ち着きました」

とは言いつつも、妻がSNSパトロールしようがしまいが拓人は、別居婚を開始してからモテるようになったという。


別居婚をしているとモテる理由


「変な話、別居しているというと勝手に周りに誤解されるんですよ。うまくいっていないのかなとか、一人は寂しいでしょとかって。男女問わずご飯に誘われることが増えましたね。

そして、結婚しているからという安心感もあるのか、気軽に女の子から相談を持ちかけられて、これはどういうつもりなのだろうということは、正直よくあります(笑)でも僕、浮気願望とか本当にないんですよ。妻のことを裏切りたくないので。だから堂々と胸を張って別居生活を送れているのかもしれませんね」

拓人は、そう言って爽やかに笑った。


お互いの夢を応援する形、無理をしない自然な形


今の生活に心から満足している様子の拓人だが、ものごとにはメリットとデメリットの両面があるもの。そのあたりも聞いてみた。

「僕らの場合、お互いの夢を応援する自然な形が別居婚なので、今は別居婚のメリットしか感じていないです」

ときっぱり言い切る拓人。

何よりも妻と子供がいきいきと楽しそうに沖縄で生活していることが、別居婚がうまくいっている証拠だという。そして不定期で会うことも良い刺激になっていて、結婚6年目の今でも変わらず仲が良い。

「子供にたまにしか会えないのは寂しく感じましたが、慣れましたね。LINEで毎日話していますし。

結婚が家族の同居を前提としているというのは、ネットなどが普及していない一昔前の時代の価値観だと思いませんか。

僕の父親世代くらいまでは、男の人は家事をするなんて少数派でしたけど今では当たり前になってきている。会社に行かないリモートワークっていうのも時代が変わって認められるようになって来たように、家族のあり方も今後変わっていくと思うんです。

多分、別居婚やデュアルライフも10年後には珍しくないスタイルだと思いますよ」

インタビューを終えても、結婚は何のためにするのか?に対して答えは出なかった。でも、結婚している夫婦の数だけその理由はあっても良いのかもしれない。

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「子育てのために海外移住」を決意した女性が登場。オランダと東京のデュアルライフとは?