「結婚=ゴール」なんて考えは、古すぎる。

東京婚活市場は、婚活に勤しむ女で溢れかえっているが、当然ながら、結婚はゴールではない。そんなものは、幻想だ。

アンチ結婚主義者、吾郎、独身、34歳。長身イケメン、東大卒、超エリートの企業法務弁護士。

吾郎いわく、結婚をM&Aに例えるならば、M&A実施の調印式=結婚式であり、PMI(買収実施後経営統合)=結婚後の生活となる。東京婚活市場において、PMI軽視の風潮は非常に強い。

滑稽な既婚者たちの結婚生活を、彼独自の目線で、じっくりと観察していこう。




どんな美人でも、どんな才女でも、男運の悪い女というのは存在する。

彼女たちは恵まれた長所を有効活用できず、いつも周囲に「えっ?」と疑問を抱かせるような男を連れている。

吾郎の幼馴染である美加は、そんな典型的な男運の悪い女だ。生まれ育ちは東京、吾郎とは名門の国立小学校からの付き合いである。

彼女は小動物系の可愛い顔をしていて、賢いうえに愛嬌も良い。しかし如何せん、昔から男の趣味が悪い。

学生時代は、いかがわしいグループに属するような札付きのワルと付き合っていたし、社会人になると、妻子ある男を筆頭に、貧乏な男、浮気性の男、酷い場合にはDV男を抱え込んだりしていた。

「ダメンズウォーカー」とは、美加のためにあるような言葉だ。吾郎は心配を通り越し、いつもただ呆れていた。

しかし美加は最終的に、真面目そうな会計士と結婚した。育ちの良い女は、意外と最終判断を見誤らないものだと、吾郎は素直に感心し、祝福していたのだ。

だが、甘かった。

三つ子の魂百までではないが、男運の悪さというのは、早々に治るものではないらしい。


「結婚は墓場だ」と嘆く女の生活とは...?


「あなたとの結婚生活は、汚れたコップで水を飲むようだった」


「結婚は人生の墓場って、本当よね...。吾郎はいいなぁ。独身は勝ち組よ。」

久しぶりに再会した美加は、才巻海老の天ぷらを一口齧り、生気のない顔で言った。今夜は彼女の自宅からほど近い、人形町の『蕎ノ字』に来ている。

人妻と二人で会って良いものかと吾郎は少し考えたが、今日は「話を聞いて欲しい」と、彼女に呼び出されたのだ。

「なんだよ急に。新婚生活は楽しくないのか?」

「結婚して1年も経てば、もう新婚じゃないわよ。それに、結婚生活が楽しいとは言えないわね...。」

美加は生ビールを数口飲んだだけだったが、すでにカウンターに突っ伏してしまいそうな様子だった。童顔の可愛らしい顔には疲れが滲んでいて、本来の魅力を損なってしまっている。

「私、本当にいつか息が詰まって死ぬんじゃないかと思うくらい、毎日息苦しいの。」

男運の悪かった彼女は、最後にようやく幸せを掴んだように見えたが、どうやら間違いであったらしい。吾郎は、大きく溜息をついた。




「前に何かのドラマでね、“あなたとの結婚生活は、汚れたコップで水を飲むようだった”ってセリフがあったの。今の私、ちょうどそんな感じ。」

吾郎は反射的に、水がいっぱいに注がれた汚いコップを想像してしまった。何となく、ゾワっと気持ちの悪い感覚に襲われる。

「致命的に嫌なことがあるわけじゃないんだけど、ジワジワと鬱憤が蓄積していく感じ。旦那と私は、微妙にズレてるのよ。」

汚いコップの水。そんなものを飲むのは絶対に嫌だが、しかし、苦痛を伴うわけではない。運が悪ければ病気になるだろうが、特に何も起こらない可能性も高い。

美加の結婚生活とは、そういう類のものなのだろうか。

「何だよ、ハッキリ言えよ。浮気でもされてるのか?」

美加は、「そんなんじゃない」と、大きくかぶりを振る。

「女って結婚すると、家事が増えて、自由時間と睡眠時間が減るのって普通のことなのかしら?毎日ご飯作って、掃除洗濯して、旦那より遅く寝て、早く起きて、それで仕事に行って......」

そこまで言うと、彼女は思い詰めた表情で押し黙ってしまった。

「分かった。今日はとりあえず飲んで食って、言いたいことは全部吐き出せ。」

吾郎がそう言うと、美加は「ありがとう」と、少し安堵したように、薄く笑った。


彼女の口から溢れ出た、夫への不満とは...?


地味に亭主関白な夫と、地味に夫を騙す妻


堰を切ったように美加の口から溢れ出た愚痴を簡単にまとめると、彼女の夫は、ひどく鈍感で、地味に亭主関白な男であるらしい。

まず、悪気はないが、家事を一切しようとしない。

美加は結婚後も大手IT会社のSEとして多忙な仕事を続けているが、そんな事情はお構いなしだ。

厳しく何かを要求するわけではないが、家事は女の仕事であると、心の底から自然と思い込んでいるタイプの男だという。

平日の帰宅時間が美加より早かったとしても、腹を空かせたまま、夜10時でも11時でも、何もせずに待っている。急いで料理したおかずと白飯だけが食卓に並べば、「あれ、お味噌汁と漬物を忘れてるよ?」と、無邪気に促すそうだ。

「先月、私がノロウィルスにかかったときはね、“じゃあ、俺はしばらく外に泊まるね”って、笑顔で近くのビジネスホテルに泊まりに行っちゃったのよ。看病なんて、一切なしに。」

「それは......。旦那さん、天然なのか?」

「そうだと思う。とにかく悪気がないの。だから私も強く言えなくて...。その時は、結局お母さんに看病に来てもらったのよ。旦那が外に泊まってるだなんて言えなくて、出張だって嘘ついちゃった...。」

「旦那も旦那だけど、お前もハッキリ不満を言えばいいじゃないか。」

「まぁ、そうなんだけど。でも......」

ああ、そうだったと、吾郎は昔を思い出した。美加は、「言えない女」だった。




男に浮気されても、貸した金を返して貰えなくても、何も言えないのだ。昔からそうだった。そうして、「今度こそは素敵な人!」であったはずの男は調子に乗り、どんどん嫌な男へと変貌していく。

美加は「ダメンズウォーカー」ではなく、「ダメンズメーカー」とも言えるのだった。

「しかも旦那はね、すごく子供を欲しがるの。私、今の状態で子供なんて絶対に嫌だから、内緒でピル飲んでるんだ。」

「え?旦那は知らないで、子作りに励んでるのか?」

その時だけ、美加は嬉しそうに「ふふふ」と可愛らしい微笑みを見せたが、吾郎は背筋が寒くなった。

地味に亭主関白な夫に、地味に夫を騙す妻。

評判通り、『蕎ノ字』のシメの蕎麦は美味かったが、夫婦の愚痴を聞きながら食べるものではないと、吾郎は少し後悔した。

「何だか、吾郎にたっぷり愚痴ったら、コップが綺麗になった気がするわ!ありがとう!!」

酔っ払った美加は晴れやかな表情で帰って行ったが、吾郎には後味の悪さが残った。

彼女の溜まった汚れが浄化されたのは、きっと一時的であろう。

また少しずつ、夫婦間のズレは膿のような汚れとして溜まっていき、美加は再び「墓場の住人」のような顔に戻るに違いない。

夫婦とは本来、助け合い、支え合うものではないのだろうか。少なくとも、結婚式場の神父はそのような類のセリフを口にしている。

しかし実際は、どちらかに負担を強いたり、騙し合う夫婦がほとんどである。それほど人を消耗させる結婚とは、一体、何のための制度なのか。

吾郎にはやはり、どうしても理解できないのだった。

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