PRIDE、K-1の消滅により長い冬の時代を送ってきた格闘技が、この年末に「復活」する。12月29日、31日の両日、「RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX 2015」が、「PRIDEの聖地」さいたまスーパーアリーナで開幕するのだ。そのなかで、エメリヤーエンコ・ヒョードルの現役復帰戦(大晦日)と並ぶ目玉カードが、29日に行なわれる桜庭和志vs青木真也の「新旧日本人エース対決」である。

 しかし、いったい誰が桜庭と青木の一騎打ちを予想できたであろうか。そもそも、ふたりは闘っている階級が異なる。桜庭が80kg級台なのに対して、青木は65〜70kg級と10kg以上の差があるのだ。

 ボクシング同様、厳格な階級分けが当たり前になったMMA(総合格闘技)においては、本来ありえないマッチメークと言っていい。無差別級での争いがスタンダードだった20年前にタイムスリップしたような錯覚も覚える。青木も「時代遅れのマッチメークであることは確か」と大きく頷く。

「僕はずっとMMAのメインストリームから離れるようにやってきたけれど、格闘技の凄さはそこから離れれば離れるほどわかるもの。だからこそ、RIZINは桜庭vs青木に活路を見出すのでしょう」

 青木が語るメインストリームとは世界最大のプロモーション「UFC」を指す。現在、青木はアジア最大のMMAプロモーション「ONE FC」を主戦場としていて、アジアで最もファイトマネーが高い男と言われている。野球に例えれば、大リーグからお声はかかったけれど、よりいい条件で韓国プロ野球と契約した日本人プレーヤーといったところか。

 強豪ファイターの大半はUFCが独占契約で押さえている。だとしたら、RIZINはUFCが軸とする階級制の枠外で魅力的なマッチメークを考えるしかない。UFCがやっていないことを突き詰めていくと、階級の枠を超えた闘いになっても不思議ではないのだ。

 桜庭も、青木との対戦を打診された時、「階級が違うじゃん!」と驚くしかなかったと明かし、冗談交じりに語る。

「たぶんキャッチウェイト(双方が合意した体重)でやることになると思うので、青木くんにはぜひ増量してほしい(笑)」

 現在、新日本プロレスのリングに上がっている桜庭にとって、MMAは4年3ヵ月ぶりになる。ブランクは問題ないのだろうか?

「僕にとっては半年〜1年くらいにしか感じていない。去年もメタモリス(組み技の大会。ヘンゾ・グレイシーと引き分け)に出ましたし。強くなるための練習はずっとしているし、気にはならないですね」

 UFCをはじめ、現在のMMAの試合形式は5分3Rが標準になっているが、桜庭vs青木はかつてのPRIDEと同じ1R10分、2、3R5分の3R制だ。以前から桜庭はこの形式を好んでいただけに、さぞ喜んでいると思いきや意外な答えが戻ってきた。

「僕は10分5分の2Rがいい。20〜30代の頃からともかく、もう40代なので。あ、思い切って3Rはプロレスルールにしましょうか。5秒以内なら反則もOKだから、毒霧を吹こうかな(笑)」

 いまだルールは最終調整中だが、PRIDEルールと異なり、ヒジ打ちが認められる可能性もある。相手の顔面を切り裂いたらドクターストップを誘発しやすいヒジ打ちに対する両者の考えは180度異なる。シンガポールのメガジム「Evolve MMA」で一流のムエタイ選手からその奥義を学ぶ青木は賛成派だ。

「DREAM(2008年〜2012年に開催されていたイベント)を離れてからはヒジありきでやっているので、練習でもパッと出ますよ」

 一方、桜庭はあまりヒジ打ちを好まない。

「ヒジがあると、グラウンドの展開の幅が狭くなるので面白くない。ムエタイとか立ち技だったらありだと思いますけどね」

 5年前、ふたりはスパーリングで手を合わせた経験がある。目撃者の証言によると、その時は桜庭がいきなり3本先取したという。桜庭に確認すると、「覚えていない」というつれない返事が戻ってきた。

「5年も前のことなんでお互い変わっているでしょうし、試合はやってみないとわからない」

 対照的に青木は「2、3回取られたかな」と当時の状況をハッキリと覚えていた。

「桜庭さんは強かったと思いますよ。だからこそ(実戦で闘うことに)興味がある」

 以降の両者の交流といえば、記者会見などで顔を合わせた時に挨拶程度の会話をしたくらい。ただ、計量会場で一緒になった際、青木が年上の桜庭に減量方法をアドバイスしたことがあったという。

「(重量級でやってきた)桜庭さんは減量の仕方とか知らないから、試合前に摂るべき食事法とかがわからない。ファーストフードのハンバーガーを食べて吐いたと言っていたことがありましたね。その時、僕はヴィターゴという吸収のいいサプリメントを教えました」

 このふたりは歩んできた道のりも対照的だ。桜庭はタイガーマスクに憧れプロレスラーを志し、UWFインターナショナルからMMAに転向した。一方の青木は、大学生時代にパラエストラ東京というジムに通いながらプロになった。青木から見れば、桜庭は大相撲の部屋制度のしきたりを色濃く引き継いだプロレス団体の出身者に映る。

「そうなると、試合は団体内での出来事だから勝とうと負けようと自分の取り分に変わりはない。だからこそMMAでも思い切って行けたり、おおらかな試合ができたんだと思う。仮に負けたとしても、『いいよ、どうせまた試合をしたら金は入ってくるんだから』みたいな感覚だったんじゃないですかね?」

 桜庭が46歳なのに対して、青木は32歳。両者にはひとまわり以上の年齢の開きがある。桜庭が2000年にホイス・グレイシーと歴史的激闘を繰り広げた時、青木はまだ高校生だったのだ。青木はジェネレーションギャップも感じているという。

「僕の中では37、38歳にひとつ壁がある。その世代には魔裟斗さんや秋山(成勲)さんみたいに銀座で遊びたいとか派手な生活をしたいという価値観がありますよね。それ以上の桜庭さんの世代になるともう『どんぶり』ですよね」

 桜庭と違い、青木は酒を一滴も飲まなければ煙草も吸わない。ストイックなまでに練習中心の生活を送っている。だからといって自分のやり方だけが正しいとは思わない。リング上では生き方が如実に現れると感じているだけだ。

「IGF(アントニオ猪木主宰の団体)で、桜庭さんの同世代の藤田和之さんとしゃべっても人間的な大きさを感じる。それから下の世代になるにつれ、人間としてはどんどん小さくなってきているとも思う」

 試合に対する価値観も異なる。桜庭にはとにかく観客が喜ぶ試合をしようという気持ちが強い反面、青木には勝利至上主義の傾向があると言われている。青木とは噛み合うと思うかと訊くと、桜庭は「僕だって勝負事なので勝ちたい」と本音を語り始めた。

「勝って、さらにいい試合ができたらベストでしょう」

 仮に2Rまで試合を優勢に進めた青木が勝ち逃げを狙い、こう着したら?

「しゃべるかもしれない。『これでいいのか』とか『もうちょい動こうよ』とか」

 桜庭のこの発言を伝えると、青木は数秒間絶句したあと、語気を強めた。

「桜庭さんは『今の格闘技』をやられたらイヤなんでしょう。でも、そんなこと言われたら動くしかないでしょうね」

 今の格闘技──それはUFCを筆頭にポイントを稼いで確実に勝利を目指す傾向を指す。これに対して、桜庭はこう苦言を呈す。

「ポイントといっても、選手、レフェリー、ジャッジにしかわからないわけで、見ているお客さんには伝わらない。だったらアマレスのようにタックルで倒したら1点というふうに明示化した方がいい。ポイントをとって勝ち逃げというのは、やるかやられるかのリングに上がる者の考え方ではないと思います」

 両者の価値観は対照的だが、「日本の格闘技を復活させたい」という決意は同じだろう。青木は桜庭戦をこう捉えている。

「2015年の今、格闘技も多様化しすぎて、いろいろなものがチャンポンになってしまった感じがする。なので僕と桜庭さんの試合は『闇鍋』のようなものですよ。『終戦直後のどうしようもない混乱の中で、あるものでなんとか商売しよう』という考えのもとに生み出された試合ですから。今、大会前に『いったいどうなるのかな?』と期待感を抱かせる試合は少ない。でも、桜庭さんと僕だったら、みんなに語り継がれるような試合になるんじゃないですかね。だって闇鍋だもの!(笑)」

『RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX 2015 さいたま3DAYS』
12月29日(火)、31日(木)/さいたまスーパーアリーナ
29日は桜庭和志vs青木真也のほか、高坂剛vsジェームス・トンプソン、石井慧も出場するヘビー級トーナメント1回戦などが、31日にはエメリヤーエンコ・ヒョードルvsシング・心・ジャディブ、曙vsボブ・サップ、バルト(元大関・把瑠都)vsジェロム・レ・バンナ、山本アーセンvsクロン・グレイシー、ヘビー級トーナメント準決勝・決勝などが行なわれる。

布施鋼治●文 text by Fuse Koji