熾烈なパ・リーグ首位打者争いにみる「打率.350の世界」
プロ野球は交流戦が終了してリーグ戦が再開したが、パ・リーグの首位打者争いがすごいことになっている。
1位 秋山翔吾(西武/27歳) 打率.381
2位 柳田悠岐(ソフトバンク/27歳)打率.375
3位 清田育宏(ロッテ/29歳) 打率.341
※成績は6月24日現在のもの
上位ふたりに比べると3位の清田は数字的にやや劣って見えるが、それでも3割5分近い数字を残しており、この3人がいかに高いレベルで争っているのかがわかる。
これまでプロ野球の長い歴史の中で、ハイレベルな首位打者争いは多々あり、それを掘り起こしてみるのも楽しい作業なのである。長いプロ野球の歴史の中で3割5分以上の首位打者争いはどれだけあったのか、まとめてみた。
1950年
藤村富美男(阪神) 打率.362
小鶴誠(松竹) 打率.355
1954年
与那嶺要(中日) 打率.361
渡辺博之(阪神) 打率.353
1976年
谷沢健一(中日) 打率.3548
張本勲(巨人) 打率.3547
1979年
加藤秀司(阪急) 打率.364
新井昌宏(近鉄) 打率.358
1981年
藤田平(阪神) 打率.357
篠塚利夫(巨人) 打率.356
1986年
R・バース(阪神) 打率.389
W・クロマティ(巨人) 打率.363
1986年
落合博満(ロッテ)打率.359
ブーマー(阪急) 打率.350
2003年
小笠原道大(日本ハム)打率.360
谷佳知(オリックス) 打率.350
2010年
青木宣親(ヤクルト)打率.358
平野恵一(阪神) 打率.350
現在、広島で打撃コーチを務めている新井昌宏コーチに、ハイレベルで首位打者を争う選手の心境について聞いてみた。
―― これだけ高い打率を残しても2位なのか、と思ったことはなかったですか?
「それはなかったです。自分も打てているわけだから。加藤秀司さんと争ったのですが、途中、打率.351ぐらいでトップに立ったこともあったんです。結局、首位打者は逃しましたが、それは加藤さんが『僕以上に打った』という結果ですからね。僕としては、首位打者争いをすることや、高打率を維持することのプレッシャーに負けず、打率.358まで上げられたことは、自信になりました」
―― 3割5分以上というのは見える景色が違うものですか。
「3割5分以上の打者は、1日にヒットを2本打たないと打率が下がる世界です。3打数1安打では維持できない。僕は現役の頃、中西太さんに『一日一善』ということを教えられたんですね。1日1回、何かいい行ないをすれば、打者として精神的なストレスはたまらないと。でも、3割5分以上を維持するには『一日二善』じゃないとダメなんですよ(笑)」
新井コーチは今の若い選手たちに「3打数1安打で打率が下がるような経験をしてごらん」と言うことがあるという。
「ヒットを打たなければならないという状況で、相手も警戒を強めてくる。それに余計な意識を持ちすぎては自分の打撃ができなくなってしまう。その中で1日2本のヒットをうちましょうと。そうした経験をして結果を残せたら、大きな自信になるはずです。僕は2番を打つことが多く、送りバントも多くしました。バントをすれば勝負は3打席しかない。そこで3打数1安打だと打率は下がる。逆に、状態が悪い時は『バントしとこうか』と弱気になってこともあります。数字だけで考えれば、3割5分以上を維持するにはそういう世界でやっていかないといけないんですよ」
―― 打率.366で首位打者を獲得したシーズンは、毎日ヒットを打っている感覚でしたか。
「もちろん全試合でヒットは打てません。でも、毎試合打てていないとダメという感じでしたね。あとは内容です。常にしっかりバットを振れていたか、自分に問うていました。"一日二善"じゃないですけど、ヒットが出なくても4打席の中で2回、自分のスイングができていたら落ち込むことはないと。ストレスをためないためにも、自分の決め事としてやっていました」
そして新井コーチに、秋山と柳田の首位打者争いについて聞いてみた。
「秋山選手は見る機会が少ないのですが、柳田選手は一軍を経験することで、上手くなっていったという典型的なバッターですね。オリックスの二軍監督をしていた時に柳田選手をよく見ていましたが、バットをいつも振り切っている印象がありました。しかし、バッティングは荒っぽくて、低めの変化球はくるくるバットが回っていたし、ひざ元のボールは振れば自打球という感じでした」
―― タイプ的に見て、首位打者を獲る可能性があるのは?
「タイミングの取り方や的確にボールをとらえる技術は、秋山選手の方があると思います。ただ、柳田選手は足もあり、バットを思い切り振り切るので当たり損ねでもヒットになったりする。そういうのも含めて今の打率だと思います」
―― ハイレベルな争いはまだ続きそうですか。
「まだシーズンの半分もいってないのでね。イチローはこの時期に4割を超えている年があったし、バースもそうでした。イチローが打つのは当たり前のことで、ヒットが出なかった日に記者から『今日はどうしたんですか?』と聞かれる打者でしたよね。それを思うと、彼らはまだそこまではいっていない。今年はへばるような天候もまだないし、夏場になってどうなるのか。今はドーム球場が多いから、その点はやりやすいのかもしれないけど、これからが本当の勝負だと思います」
そして新井コーチは3割5分以上を打った経験者として、彼らにこうエールを贈った。
「名選手になれば、一度は3割5分以上を打つことがありますけど、3割5分以上を2度経験した選手は10人もいないんじゃないかな。彼らには、この1年だけで終わらないようになってほしいですよね」
史上稀に見るハイレベルな首位打者争いはどこまで続くのか。いずれにしても、この経験は彼らの野球人生に大きな自信を植え付けることだろう。
島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
