「医師だった夫はうつ病、引きこもりに」…90年代に「変額保険」を申し込んだ79歳夫婦の悲痛

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銀行員がおすすめしているし、保険だから―そう信用しきってハンコを押した。それが自宅を追い出されるきっかけになるとも知らずに。

医者のWさん(79歳)と妻のK子さん(79歳)は35年前に三菱銀行の「変額保険」を申し込んだ。死亡時に3億円が入る保険なら、1億3300万円の一時払いで買えるという。銀行が勧めるがままに金利8.1%のカードローンを申し込んだ。変額保険の利回りは13%を下回らない、と言われ、安心していた。

さらに万が一のために、「ダイヤモンド信用保証株式会社」と保証委託契約を結んだ。しかし、これこそがのちに夫婦を地獄へ引きずり込む「融資、カードローン、自宅担保、信用保証」という恐怖の4点セットの罠だった。

【前編を読む】70代医者夫婦が「ホームレス一歩手前」の状態に…90年代に銀行が提案した「変額保険」が生んだ悲劇

雪だるま式に膨れ上がるカードローン

バブル崩壊とともに株価は暴落。13%の利回りどころか額面割れになり、配当は途絶えた。変額保険は、顧客から預かった資金を株式等で運用する。保険という名前でも中身は金融商品で、株価が下落すると減価する。

K子さんは訪ねてきた銀行員に「保険は大丈夫?」と聞いた。すると突然、「裁判をやっても勝ち目はありませんよ」と言われ驚いたという。その時初めて、変額保険が社会問題になっていることを知った。

山一證券が潰れ、千代田生命も危ないと聞き、心配になって解約も考えた。しかし、できなかった。解約しても莫大な借金が残る。ついに千代田生命が潰れ、経営はAIGスター生命に引き継がれた。3億円で契約した保険金は1億1900万円になっていた。

さらに、雪だるま式に膨れ上がるカードローンの借金がのしかかる。月40万円ほどの返済利息をカードで払っても元本は減らず、むしろ、融資残高は複利で増殖していく。カードローンの危うさに気づいたWさんは、自前の返済に切り替えた。

銀行が勧めた「自宅売却」

「銀行からは、自宅を売却するよう強く言われました。それでも私たちは住む家がなくなると困るので、金利を払い続けたのです」(K子さん)

Wさんはアルバイトで稼いで金利を返そうと、開業医の応援診療を目一杯やった。しかし、借金の重圧と過労でうつ病を発症し、自前での返済は限界を迎えた。

そして昨年、三菱UFJ銀行は、融資の返済保証をしていた系列のダイヤモンド信用保証に「代位弁済」を求め、貸金を一括回収した。

これで一件落着かと思われたが、そうはならなかった。代位弁済の恩恵を受けるのはWさんではなく銀行だったのだ。Wさんの借金は消えず、ダイヤモンド信用保証が新たな債権者となり、返済を迫る。保証会社は系列のエム・ユー・フロンティア債権回収株式会社に債権を委ね、行き着いた先が強制競売だった。

「返済できなくなった時には保証会社が代わりに払ってくれると聞かされ、毎年25万円を納めていた。それが銀行のためだったなんて……」

K子さんはこう憤る。

片山さつき金融担当相も問題視

これまでに支払った金利は約8000万円、32年間払い続けた保証料は800万円にのぼる。それにもかかわらず、相手方は元本に遅延損害金などを上乗せした「2億8900万円」を要求し、自宅を競売にかけた。

「返済しないとは言っていない。子供たちも協力してくれると言っているので、最低限の暮らしができる範囲での返済計画を話し合いたいのですが、聞く耳を持ってくれません」(K子さん)

病が悪化して家から出られない夫に代わりK子さんが前に出て、頭取へ手紙も書いた。

Wさん側の代理人を務める椎名麻紗枝弁護士は「変額保険のトラブルは当時の三菱銀行に集中的に起きている」と説明する。

「当時、バブルに出遅れ業界5位に低迷していた三菱銀行は、業績挽回のために融資規制の緩い個人向け融資へ突っ走った。その結果が、この夥しい金融被害を生んだ『略奪的融資』の正体です」

以上はWさん側の言い分である。事実関係に誤りはないか、銀行の言い分を聞こうと三菱UFJ銀行の広報部に取材を申し入れると、「個別の取引に関する質問については回答を差し控えさせていただきます」としたうえで、以下のように回答した。

「お客様がお困りの事案については、これまでも、可能な限りの対応を検討すべく、話し合いの場をもつなど、お客様ごとのご相談に応じており、今後も肌理細かく解決に向けて努力してまいりますが、協議に応じてもらえない場合ややむを得ず訴訟になったケースについては、法律に基づいた対応や司法の判断に委ねさせて頂きます」

事態は国会をも揺るがしている。4月の参議院財政金融委員会では、れいわ新選組の大島九州男議員が金融当局の姿勢を糺した。片山さつき金融担当相は、「自宅の強制処分は日常生活が営めなくなり、(債務者は)困窮する。こういうことがないように指導監督していくべきだと思っております」と答弁した。

同委員会の上田清司議員(国民民主)も、筆者の取材にこう憤慨する。

「正当な使途の確認、債務者の支払い能力の範囲内という『融資の2大鉄則』を大きく踏み外している。リスクの高い保険を買わせ、カードローンで借金漬けにするなど大銀行のやることではない。金融庁の監督指針にも違反しており、かつての三菱銀行でこれが多発していたことは重大だ。6月の委員会で取り上げ、頭取を参考人招致することも視野に入れたい」

「週刊現代」2026年6月22日号より

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