知床沈没事故、判決で「安全を軽視する平素からの態度が形になった」と運航会社社長の過失を指摘
北海道・知床半島沖で2022年、乗客乗員26人が死亡・行方不明となった観光船「KAZU I(カズワン)」の沈没事故を巡り、釧路地裁は17日の判決で、事故時に船にいなかった運航会社社長、桂田精一被告(62)の過失を認めた。
悪天候下で運航すれば、事故は予見できたとし、被告の安全管理のずさんさを非難した。
「被告の過失は、安全を軽視する平素からの態度が形になって表れたものだ」。水越壮夫裁判長は、桂田被告が安全統括管理者や運航管理者となった21年以降、運航判断にほとんど関与しなかったと指摘。船の運航中も安全管理規程に反し、事務所を離れることが常態化していたと述べた。
事故当日も無線機のアンテナが故障して観光船からの連絡を受けられないことを認識しながら出航させていたとし、安全意識の希薄さを批判した。
これまでの公判で、検察側は当時、会社の運航基準を上回る風速と高波の注意報が出され、桂田被告は死傷事故の発生を予見できたと主張した。弁護側は、船首甲板のハッチの蓋を固定するレバーが十分に機能しない不具合があり、開いたハッチからの海水流入で沈没したと強調。桂田被告は不具合を把握しておらず、事故は予見できなかったとして無罪を訴えていた。
水越裁判長は、船内にシートベルトなどがなく、運航基準を上回る強風や高波に遭遇すれば船が激しく揺れ、乗客が海に転落するなどして死亡する恐れがあったと指摘。ハッチの蓋が開いたのも、通常を超える強風や高波の中で航行したからで、不具合を知らなくても「過失責任を問うことは不当とはいえない」とした。
一方、経営者である桂田被告が、死亡した船長(業務上過失致死容疑などで書類送検、不起訴)に、運航中止を指示できる立場だったことも重視した。船長から海が荒れる前に引き返すと聞いたとする供述についても「不自然、不合理で到底信用できない」とし、弁護側の主張を退けた。
量刑の理由では、「26人もの尊い命が犠牲になった結果はこの上なく重大」と強調。冷たい海に投げ出された被害者の苦痛は想像を絶するもので、残された家族の傷はいささかも癒えておらず、厳重な処罰を求めるのも至極当然とした。
法廷で述べた反省や謝罪の言葉も内容や態度に照らせば「責任の重さを真摯(しんし)に受け止めているようには見受けられない」と批判した。
弁護側は即日控訴
黒色のスーツにネクタイ姿の桂田被告は午前9時半頃、釧路地裁に入った。入廷後、被害者家族らが座る傍聴席に一礼。証言台の前に立つと、「被告人を禁錮5年に処する」という水越壮夫裁判長の判決の言い渡しを、前を向いたままじっと聞いていた。
約1時間20分に及んだ公判中、桂田被告は拳を握って判決に聞き入る一方、体を小刻みに揺らしたり、首をひねったりする様子も見られた。
閉廷後、被告を乗せたとみられる車は収容先の帯広刑務所釧路刑務支所に移動。弁護側は即日控訴し、保釈も請求した。桂田被告は弁護団を通じ、「多くの乗客の方、船員が亡くなられたこと、依然として行方不明の方々もおられることについて、これからも謝罪と償いを続けていく所存です」とのコメントを出した。
運航管理者、資格試験を導入…国の再発防止策
国土交通省は事故後の2022年12月、運航管理者の試験制度など66項目の再発防止策を打ち出し、今春までに65項目で実施されている。
事故では、船に関する知識や経験がない桂田被告が運航管理者と安全統括管理者を兼任していたことが問題視された。国は再発防止対策の一つとして、運航管理者などの資格取得のために法令や海事の知識を問う試験制度を昨年5月から開始。これらの資格は2年の更新制で、27年1月頃に更新講習が始まる予定だ。
このほか、「KAZU I(カズワン)」のような小型船の旅客不定期航路事業の許可について、更新制を導入。旅客定員12人以下の船などについても、それまでの届け出制から登録制へ移行し、国が事業停止や登録取り消し処分を行うなど監督権限を強化した。
ただ、今年3月には沖縄県名護市辺野古沖で小型船2隻が転覆し、研修旅行中の高校生ら2人が死亡する事故が発生。そのうち、1隻は、必要な事業登録をしていなかったことが判明している。国交省ではこうした違法運航を防ぐため、全国の運輸局に通報窓口を設置して情報収集の強化に着手している。
◆観光船「KAZU I」沈没事故=2022年4月23日午前10時頃、乗客乗員26人を乗せた観光船が北海道斜里町のウトロ漁港を出航。知床岬で折り返した後、午後1時20分過ぎに知床半島沖のカシュニの滝付近で沈没した。20人が死亡し、行方不明となっている乗客6人も家族が死亡届を提出している。
