主人公は50歳のスーパー従業員…若者から圧倒的な支持を受けたワケ 「時すでにおスシ!?」が覆したドラマ界の常識
プライム帯(午後7〜11時)に16本あった春ドラマが次々と最終回を迎えている。TBS「時すでにおスシ!?」(火曜午後10時)とテレビ朝日「リボーン 〜最後のヒーロー〜」(同9時)も9日に終わった。2つのドラマは個人視聴率の平均値がかなり近かった。しかし、数字を吟味すると、視聴者層は驚くほど違っていた。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
若い人が観た「時すでに――」
「時すでにおスシ!?」は4月7日に始まり、6月9日に終了した。全10回。個人視聴率の平均値は3.1%だった。「リボーン」は1週遅れの4月14日にスタート。最終回は同じ日だったので全9回。個人視聴率の平均値は2.9%だった。

2つのドラマは個人視聴率の平均値が0.2%しか違わない。視聴者数にして約8万人相当(関東地区)。このため、毎週更新される週間個人視聴率ランキングの結果も近かった。
「時すでに――」は16本ある春ドラマの中で4、5位が中心。「リボーン」は5、6位が多かった。どちらのドラマも春ドラマの勝ち組だ。
もっとも、個人視聴率を細かく分析すると、2つのドラマの視聴者層は大きく違っていたことが分かる。まず個人視聴率とは4歳以上の全視聴者を対象にしている。だからテレビ界内では「オール(全世代)」とも呼ばれている。
対象を40代以下に絞った個人視聴率がコアである。コアの数字は「時すでに――」が高かった。民放制作者を取材したところ、毎週1%半ばから2%超。コアの週間ランキングでは常にベスト3に入っていた。
片や「リボーン」のコアはほとんどが1%以下。0.5%を割ることもあったという。コアの週間ランキングではほとんどが下位だった。
コアより早くから使われていたF1層の個人視聴率も取材した。20〜34歳の女性が対象で、この層は古くからドラマの流行を左右すると言われてきた。行動的で消費意欲の高い層でもあるから、民放もスポンサーも重視する。
6月2日放送分の「時すでに――」のF1個人視聴率は3%を突破していた。6月第1週(1〜7日)のF1層ランキングでトップである。片や「リボーン」は1%をかなり下回り、最下位だった。
T層(13〜19歳男女)の個人視聴率も民放制作者に取材した。同じ6月2日放送分である。やはり「時すでに――」の数字は抜きん出ており、2%弱。T層の週間ランキングもトップだった。一方で「リボーン」は1%を大きく割り込んだ。
常識破りのヒットと理由
「時すでに――」が若い視聴者から圧倒的支持を得ていたことが分かった。ドラマ界の常識が覆された。なにしろ主人公のスーパー従業員・待山みなと(永作博美)は50歳という設定なのだ。永作の実年齢も55歳。若い視聴者は自分自身と重ね合わせやすい若い主人公を望むとされてきたが、そうとは限らなかった。また、若い視聴者が好む考察要素も全くなかった。
なぜ、「時すでに――」は若い視聴者に支持されたのか。みなとの1人息子で新幹線の乗務員になったばかりの渚(中沢元紀)の仕事に対する不安も盛り込んだのがプラスに働いたのだろうが、それだけでは説明が付かない。
若い視聴者にウケた理由も従来のドラマ界の常識とは違ったはず。まず、エイジレスだったことが良かったのだろう。
みなとはリカレント学習(学び直し)として鮨アカデミーに入る。そこで出会った40代前半の講師・大江戸海弥(松山ケンイチ)と好意を寄せ合う。クラスでは60代の立石船男(佐野史郎)と20代前半の森蒼斗(山時聡真)が気さくに付き合った。コンパもあった。
世間では年の差カップルなんて少しも珍しくない時代である。60歳を過ぎてから大学に入る人もよくいる。70代で働いている人も珍しくない。すっかりエイジレスの時代だ。それなのにドラマは年齢によって役割を決めてしまいがち。現実より遅れている。それに若い視聴者はもどかしさを感じていたと見る。
このドラマの編成プロデューサー・松本友香氏は「私の家政夫のナギサさん」(2020年)の企画者・プロデューサーでもある。28歳のメイ(多部未華子)と50歳のナギサ(大森南朋)を結婚させた。ずっとエイジレスを描いている人なのだ。
みなとの送る日々が明るく溌剌としていたところもプラスに働いた。子ども家庭庁の調査によると、13〜29歳の7割以上が自分の将来に不安を感じている。経済的な問題もあるのだろうが、そもそも周囲の50代、60代以上が楽しそうに見えないからではないか。
このドラマを観た若い視聴者は50代も悪くないと思ったはず。振り返ると分かるが、このドラマは世間の50歳が直面するネガティブな問題の描写を徹底的に避けた。みなとの勤務先での苦労や肉体の衰えなどである。
だから若い視聴者はみなとの暮らしがただ楽しそうに見えた。「暗くなるから」と視聴を止めることをしなかっただろう。この成功により、他局も50代を主人公とするドラマを増やすに違いない。
コミカル色があったことも若い視聴者を惹き付けるのに役立ったのは間違いない。たとえば最終回、みなとは大江戸が新規開店する鮨店に招かれた。客として呼ばれたのだと思い、快諾したが、実は従業員としてのスカウトだった。白衣姿のみなとは「なんなのよ、これはー!」と天に向かって叫ぶ。クスリとなった。若い視聴者はコミカルなタッチを好みがちだ。
「リボーン」は大人向け
一方で「リボーン」も面白いドラマだった。若い視聴者の支持は薄かったものの、それでも個人視聴率では上位に食い込んだのだから、立派である。M3(50歳以上男性)、F3(同女性)の支持が厚かった。
主人公の非情な企業経営者・根尾光誠(高橋一生)は階段道路を転落し、商店街のクリーニング店の跡取り息子・野本英人(同)と入れ替わる。このとき、時代は2012年に戻った。
この設定があったから、10代のT層に敬遠されたのはやむを得なかった。未来を知っている英人は2014年のソチ冬季五輪で羽生結弦選手が金メダルを獲得することや16年の米大統領選でドナルド・トランプ氏の初当選などを言い当てた。これにより、大物財界人の信用を得る。
T層はソチ五輪時には1歳から7歳。記憶がないだろう。米大統領選時には3歳から9歳。やはりおぼえていないのではないか。すると、英人が記憶にある未来を披露する場面の面白みが半減する。
根尾は熾烈なビジネス界の人間だったが、野本は人情を最優先する商店街の住民。若い視聴者にはどちらも身近に感じるのは難しかったに違いない。
根尾はビジネス至上主義。やさしさは欠片もなく、人の涙も気にしない。こんな人間が実在することを肌で知っているのは長く生きて来たM3、F3の視聴者だけだろう。
野本が暮らす商店街の住民についても同じ。住民は商売のことをほとんど考えてなかった。日々、楽しく暮らせれば良いと思い、英人の父親・野本英治(小日向文世)や精肉店の室田秀子(岸本加世子)たちは酒盛りを繰り返した。
M3、F3の視聴者には愛すべき人たちと映るが、若い視聴者は理解に苦しんだはず。英人も当初は商店街の住民にあきれ返り、理解するまでに時間がかかった。
このドラマは大人の寓話だった。人生の勝ち組とは根尾のようにビジネスの成功者なのか、それとも気の合う仲間たちとささやかな幸せを噛みしめながら暮らす者なのか。ドラマ側が考える勝ち組は後者だが、若いうちは根尾が勝ち組と考える人が多いかも知れない。なにしろ、商店街の住民のダメっぷりが凄まじかった。
もっとも、若い視聴者が観るドラマと大人が支持するドラマのどちらが優れているのかは誰にも決められない。若い視聴者が観たほうが、CM収入が高くなるだけである。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部
