『風、薫る』写真提供=NHK

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 現在放送中の『風、薫る』(NHK総合)第11週では、病院に運び込まれてきた女郎・夕凪(村上穂乃佳)をめぐる人々の思いの交錯が描かれている。瑞穂屋の清水卯三郎(坂東彌十郎)とりん(見上愛)の関わりを通して「廃娼運動」の話が出ることで、視聴者は、当時の女郎が置かれた状況を知る。

参考:『風、薫る』“シマケン”佐野晶哉が向き合う言葉の責任 “風の音”に包まれる尊い時間

 さらに、りんと直美(上坂樹里)がぶつかる「人を助ける」ことの難しさ。小説家志望のシマケンこと島田健次郎(佐野晶哉)の書いた記事をめぐって起こる騒動によって「社会全体の問題として世に訴えることで女郎を取り巻く環境の改善を試み、結果的に夕凪を助けよう」とするシマケンや卯三郎の考えと、「今、目の前にいる患者を助けたい、守りたい」というりんたち看護婦見習いの考えの違いが明らかになる。

 そんな中、親身になって看病する直美と「夕凪」こと本名・魚住セツが、ゆっくりと心を通わせていく、静かなやりとりが美しい。まるで直美は、「夕凪」セツを通して、「夕凪」という名の女郎だったとされる、生き別れた母親と向き合っているかのようだ。きっとセツは、直美の看護婦人生において、なくてはならない重要な存在となるに違いない。

 『風、薫る』にはそんな、りんと直美のターニングポイントで現れる「運命の女性」が3人いる。

 1人目は、りんと直美がそれぞれ出会い、「トレインドナース」という職業の存在を2人に教え、看護養成所への入学を薦めた、すべての“きっかけ”の人・大山捨松(多部未華子)。2人目は、りんに大きな影響を与える患者、侯爵夫人の和泉千佳子(仲間由紀恵)。千佳子との関わりを通して、りんは初めてちゃんと「看護婦になりたい」「私のこの手を、患者のために使いたい」という実感を持つ。そして3人目となるのが、第11週の主人公とも言える魚住セツだ。本稿は、『風、薫る』の物語そのものを牽引していると言える3人の役割とその魅力について分析していく。

 りんが初めて卯三郎と出会った第10話において、卯三郎が「社会」について話す場面があった。そのとき、「女のすごろくのあがりは奥様だけではない。女も男も、強い人も弱い人もいて社会」という卯三郎の解説に対し、研ナオコのナレーションが「女のすごろくのあがりが奥様だけじゃないってこんな感じ」「ああ、ちょっと早かったか」と補足しながら、様々な職業を思わせる服装をした女性たちが踊っているイメージ図を提示した。

 そんな、当時のりんには「まだちょっと早い」その光景を、りんと直美は看護婦見習いの仕事を通して見て学んでいるような気がする。もちろん、「誰もが望んだ職業に就き笑っている未来」を示したイメージ図とは違い、彼女たちの場合、誰もがなりたくてなったわけではない。

 「アメリカで学問に励み、賊軍となった会津の汚名をそそげと言われて12歳でアメリカに渡った」のに、帰国したところで得た知識を活かせる場所がなく、大山巌(髙嶋政宏)と結婚することで「鹿鳴館の華」となった捨松。「奥様」になるのが当然の時代に「奥様」になり、「奥様」の人生を全うしてきた侯爵夫人・千佳子。「貧乏で売られ」女郎となったセツ。彼女たちとの出会いを通して、りんと直美は、他者を知り「社会」を知る。

 第45話で直美が寛太(藤原季節)に「病院で実習するようになって、いろんな人に会って。生まれたばかりの子、死にそうな人。いいやつもいやなやつも。そしたらどんな人なのか見てみたくなった」と「母親探し」の理由を話すことからも分かるように。

 3人の女性たちの魅力は、多部未華子、仲間由紀恵、村上穂乃佳たち演者の魅力ともい言えるが、何より惹かれずにはいられないのは、どんな状況に置かれていても、その葛藤の先に、その人らしさが見えることだ。例えば捨松の、結婚し「鹿鳴館の華」になることを「手段」とすることで、なんとしても自分の人生の道を自分で切り拓こうとする強さだ。その姿が直美を鼓舞し、自分の「This is my life」と言える道を確立しようと奮起させるに至った。また、千佳子が吐露する、年齢を重ねても本質的には変わらないままの自分自身への戸惑いは、「侯爵夫人」「奥様」という枠組みどころか、時代すら越えて、多くの女性たちが共感せずにはいられないものだったと言えるだろう。

 そして、「地獄」とも形容される過酷な状況に身を置きながら、無理心中を図り強引に薬を飲ませてきた男性が「1人で死んだ」ことを悼んだり、「母に捨てられた」と感じている直美を気遣ったり、新聞に書いたことを謝罪にきたシマケンに対して感謝の言葉もちゃんと添えたりするセツの優しさに、シマケンが書いた架空の「夕顔」の物語ではなくとも心動かされずにいられない。

 第53話において、「産んですぐに子を捨てた」直美の母親のことを非難するのでなく、自分の身に置き換え「産む」という選択をしただけですごいことであり「よっぽどあんたに会いたかったんだね」と言うセツに対して、直美はしばらく沈黙する。その間直美は当時の母に思いを馳せずにはいられなかったことだろう。

 そしてそれは、いずれ直美の、本当の意味での自分自身の肯定に繋がっていくに違いない。そうやって女性たちは、緩やかに繋がり合う。互いにいい影響を与え合い、それぞれの人生が少しずつだけど好転し、豊かなものになっていく。そんな理想的な女性たちの連帯を、『風、薫る』を通して、私たちは見つめているのかもしれない。(文=藤原奈緒)