イラスト:若林夏

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心身の衰えや認知症、介護にお墓…年齢を重ねると直面するさまざまな問題に対して、私たちはどのように考え生きていけばいいのでしょうか。今回は、エッセイストで作家の阿川佐和子さんと詩人の伊藤比呂美さんによる対談を、共著『サワコと比呂美 女じまい』から一部抜粋してお届け。「歳をとるって面白い!」と思える「女じまいの物語」をご紹介します。

【写真】阿川佐和子さん「足の爪は高齢者にとって健康のバロメータですよ」

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肉食系、今は昔

阿川 私は父譲りなのか、美味しいものへの執着があるんですね。贅沢したいというのじゃなくて、「ああ美味しいご飯だわ」って味わいたいの。昔はどちらかというと肉食系でお酒もけっこうたっぷり飲んでたんですが(笑)、若い頃のようにステーキがどーん、ていうのは、つらくなってきた。あと、酒量も減りました。

伊藤 私はもともと、そんなに飲めない。そもそも、酔っ払いって大嫌いだしね。ひとり暮らしで料理もほとんどしません。犬たち用の鶏肉をまとめてローストするくらい。

阿川 私、料理はしますよ。今日も夜ご飯に何作ろうか、考えながら帰ります。それも楽しみだし、だから、からだが元気なうちに高齢者施設に入って、三食用意されるような生活をするのはどうもねぇ。自分で食べたいものを作りたいから。

伊藤 まだ食べることは問題ないの。

阿川 歯はちゃんと全部、自分の歯です。歯医者さんには、いくつかの歯にひびが入ってるって言われてますけど、でもねえ、70年も酷使してるんだから、そんなもんでしょう。

まぶたが垂れた自分の顔がイヤ!

伊藤 私もまだ、歯の問題は起きてないです。目はね、そりゃ老眼でメガネがなきゃ夜も日も明けないですけど。そして、メガネをよく失くすわけです。

阿川 そうそう。だから予備のメガネをあちこちに置いてある。あと、テレビのバラエティ番組に出ると画面の隅っこに小さくひとりで顔が映される「ワイプ」っていうのがあるでしょ。そこに映る自分の顔がイヤ! まぶたが垂れてきて「あのつぶらな瞳はどこ行っちゃったの」って思うの(笑)。さらに老眼で目をしかめながらモニターにらんでるからか、後で番組を見て「婆ァが出てんじゃん。あっ、私だ」って落ち込むのよ。ワイプ抜かないでくださいって頼んであるんだけど。


『サワコと比呂美 女じまい』(著:阿川佐和子、伊藤比呂美/中央公論新社)

伊藤 ははは。アレはどうです、何だっけ、アイプチ? プチ整形?

阿川 眼瞼下垂、の手術ですか。少し前、食事会で同級生の男性と向かいの席になったとき、その友人がまじまじと私の顔を見て「手術、したほうがいいよ」って言ったの。「すごくつらそうだから」って。こっちとしちゃ「別につらくありませんけど」と答えつつ、 憮然としたわね。そんなに醜いんですかって。別に視野も狭くないし生活に支障がないから、手術までは考えてないけど、でも、もう少ししたらやったほうがいいのかしら、って思わないでもない。ただ……プチ整形って絶対バレるでしょ。

伊藤 あれ、なんか違うねーとか言われるのもね。

阿川 でしょう。だから、婆ァは婆ァとして粛々と生きていこうと思う。

伊藤 それしかないわよね。

阿川 あちこちガタがくるのはしかたない。でも、できる限り健康というか、仕事を続けられる身体ではいたいね。

足の爪は健康のバロメータ

伊藤 死んだ夫が、靴の文化の人だったでしょう。かがめない、爪が切れなくなった、って言ってきたときは、足の爪がすでに白く固まって盛り上がった肥厚爪になってた。私がその足をお湯でふやかして、ケアしてあげるようになった頃から、目に見えて衰えていった気がする。

阿川 私の母も巻き爪でしたね。私にも少し、ある。歩くのに困るというほどではないけど。

伊藤 足の爪は高齢者にとって健康のバロメータですよ。私はね、母が短期間で寝たきりになってしまったのを見ているから、備えなければっていう意識が強くて。母は最初左手が、次に右足が……って、1週間に1か所ずつダメになっていって、あっという間に全身マヒになったの。かろうじてしゃべることはできて、自分でご飯は食べられる。死ぬ直前まで、そういう状態で過ごしました。

阿川 それはつらかったですねえ。

伊藤 テレビも見られないし、本も読めない。私、あの死に方はイヤだなあーって思うから……今、寸暇を惜しんで「ズンバ」やってます。アメリカにいたときの主治医にも、その頃はまだ糖尿病の予備軍だったんだけど、あなたはDNA的にも必ず糖尿病になるから、せめてズンバは欠かさずにって言われていたから。日本に帰ってきて、すごくいい先生に出会ったからズンバを再開したの。今は空き時間があれば、レッスンを入れてる。有酸素運動だけど筋力トレーニング、体幹トレーニングにもなってます。

阿川 見ていても、伊藤さん、すごく元気でイキイキされてるもん。信頼できる先生に会えたっていうのは幸せね。

近づく母の面影

伊藤 そうなのよ。でね、うちの母も、母方の叔母も、背中がこう丸まって盛り上がる姿勢してたんですよね。あれにも絶対、なりたくない。せっせと運動して、背中を開いて、まっすぐ歩こう、まっすぐ歩ける身体であろうとしてる。私ズンバを再開してからこっち、膝や腰が痛いってことがないもの。今は健康に関して、なんの不安もないわね。……そうだ阿川さん、尿漏れってしますか?

阿川 えっ、何をいきなり。尿漏れはないなあ、まだ。

伊藤 私も。何せ鍛えてますからね。尿漏れ予防になるケーゲル体操ってあるでしょ。ズンバやってると腰をめっちゃ動かしていろんな筋肉を意識するから、自然と予防にもなってるんです。

阿川 伊藤さんがズンバに心血を注いでるのは、老化しないためだったのね。えらい! 私も何かしなきゃと思いつつ、何にもやってないね。さっき爪の話をしたけど、母の巻き爪なんかを思い出すと、私もいずれは母のようになっていくんだなと確信するの。体質や体形は、年々、母親を感じることが増えますね。

伊藤 はい、私は孫が生まれたとき、その抱き上げた自分の手を見て「あっ、母の手だ」って思った。

阿川 私、顔立ちは母とまったく違うんだけど、ふたりとも小柄でちょこちょこ走り回る“小走り女”なの。ここ2年くらい、弟に「母さんそっくりになってきたね」、あと「ねえちゃん、小さくなったなあ」って、会うたびに言われてる。

伊藤 小さくなったんですか。

阿川 はい! 去年、久しぶりに人間ドックで計測したら、148センチって。長年、150センチのつもりでいたのに。

伊藤 2センチは大きい。私たちの歳なら、確実に縮んでいきますよね。

阿川 まぁ、そうは言っても、自分が子どもとして見ていた当時の親の年齢は、とうに越えているからね。私の母は、明るくて率直な認知症になってくれたけど、私がそうなる保証はないでしょ。性格的にはチョー短気な父の気質を受け継いでいるから、朝から晩まで怒ってたり、そこらへんにうんち投げたりするかもしれない。

※本稿は、『サワコと比呂美 女じまい』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。