アグネス・チャンと上野千鶴子が「特別対談」…世間を揺るがした「アグネス論争」から40年、「報われる社会」は訪れたのか
約40年前に起きた「アグネス論争」を覚えているだろうか。1987年に歌手のアグネス・チャンさん(70歳)が、生まれたばかりの長男を仕事現場に連れて行ったことをきっかけに起きた、「子連れ出勤の是非」をめぐる社会的論争のことだ。
この問題は単なる芸能ニュースの域を超え、日本社会全体を巻き込む大きな問題へと広がっていく。社会学者の上野千鶴子さん(77歳)はアグネスさんを擁護する主張を展開し、作家の林真理子さんや中野翠さんらは批判的な立場をとった。女性たちの間でも意見が二分されたのだ。
「アグネス論争」は1988年の流行語に選ばれるなど社会現象となり、日本社会における「女性の働き方」「育児と労働」を問い直す重要な契機になった。
それから約40年――。価値観は変化し、共働きを選択する夫婦も増えたなか、2026年4月、アグネスさんと上野さんによる共著『報われない社会で、それでも生きる』(Gakken)が出版された。同月20日には、出版を記念して都内でトークイベントも開かれ、約70名が集まる大盛況となった。
40年のときを経て、二人は何を語り合ったのか。
前編記事『【アグネス論争】から40年…アグネス・チャンと上野千鶴子が語り尽くした「知られざる当時の心境」』より続く
「親子は友達ではありません」
アグネスさんは1989年に次男、1996年に三男をそれぞれ出産。成長した3人の息子たちは全員、米・スタンフォード大学に進学した。子どもたちとどのように向き合ってきたのか。アグネスさんはこう振り返った。
アグネス「自己肯定がある子に育てたいと思っていました。叱らずに褒めること、お金に支配されないこと、そして出る杭になれる勇気がある子になるように心掛けました。そして、『友達みたいな親子関係は望まない』ということでした」
上野「それは、なぜですか?」
アグネス「友達は自分で選べますし、仲違いすれば、さよならをできます。ですが、親との縁は切っても切れない。子どもたちは親を選んで生まれてきたわけではありません。だからこそ、子どもを命かけて守る、無条件に愛する人が親なんです。それが、親として子どもと付き合うことだと考えました」
上野「親は子どもに対して、責任がありますからね。親子は友達ではありません」
アグネス「友達親子という言い方には違和感があります。友達になると、親に対するリスペクトが欠けたり、逆に出過ぎた口を利いてしまいます。説明しにくいんですが、親は子どもたちに安定感や安心感を与える存在でいたいんですね。普段は遊び相手にもなりますが、いざとなればママは命を懸けて子どもを守ります」
「報われる社会」とは何か
また、アグネスさんは芸能活動の傍ら、研究者としての道を歩んでいたことでも知られている。
アグネス「私は息子たちに、ものすごく感謝しています。彼らは自分自身で頑張り、自分の人生を選んでくれました。
その姿を見て、ようやくあの論争やその後の歩みは『これで良かったのかもしれない』と確信できたんです。もし、子どものうちだれかが道を踏み外してしまったら、『私の子育てが悪かったのかな』と自分自身を責め続けていたことでしょう。
三男が(大学を)卒業した日、彼とハグをした瞬間に『もう天に召されても構わない』と思うくらい、嬉しかったです。ママは言葉にならないくらい、本当に感謝している、そう思ったんですね」
上野「その喜びは、まさに3人を育てあげたからこそ、得られたものですね。アグネスさんの喜びの深さを思うと、あの論争が人生にどれほど重いプレッシャーを与えたのか、改めて痛感します」
対談が終盤に差し掛かると、話題は共著のタイトルでもある「報われない社会」へと移った。タイトルに付け加えられた「それでも生きる」という言葉こそ、「アグネスさん自身の生き方そのものだ」と上野さんは語る。
上野「本書に書きましたが、『報われたくて生きているんじゃない』という言葉は、実は私自分に向けたものでもあります。すべてではなくても、自分が信じたとおりにやっていくこと、自信を持つことが大切です。報われなくてもやり続けることこそが、自分の生き方。報われたくてやるのであれば、それは他人任せにしているのと同じです。『だれかが褒めてくれる』とか『何かをくれる』とか、私たちはそうした他者からの評価のために生きているわけではありません」
「報われる社会」とは、「第三者からの評価が得られる社会」ではない。「報われても報われなくても、自分が『ああ、面白かった』と思えること。それこそが最大の報酬」と上野さんは語る。
平等に立てる男が一番カッコいい
上野「(他者からの評価を気にする)そうした価値観は、若い世代の間でも再生産されています。世代は変わっているのに、構造的な考え方は根強く残っているのです」
アグネス「女性の意識は高まり、自分自身を正当に評価できるようにもなってきたと感じます。ですが、男性の意識がまだ追いついていないようにも思います」
上野「それでも、男性の変化の兆しは見えています。ある男性のラジオパーソナリティは1年間育休を取り、収録現場にもお子さんを連れてきていました。
いまだに『女性の上に立つ男こそかっこいい』という意識の男性が社会にはたくさんいます。そうではなく、『平等に立てる男が一番カッコいい』という価値観が広がってほしいですね。
以前、若い人から聞いたのですが、『モテたい男性はフェミ男(女性の権利や男女平等を支持する男性)になればいいのに、なぜならないのか』と。育休も取り、家事も子育ても共に担う男性になれば、今の女性たちの心に響くはずです」
男女の考え方や価値観、働き方のギャップが大きくなれば、そこには新たな対立が生まれる。だからこそ、互いに歩み寄り、支え合える社会構造を構築する必要がある。40年前に起きたアグネス論争、そして今回出版されたアグネスさんと上野さんの共著は、今なお形を変えて続く「報われない社会」を変えるきっかけになるかもしれない。
上野さんは共著のあとがきに、こう記している。
〈変化は勝手に起きるわけではない、だれかが起こすものだ。落ち込んでいる場合じゃない。諦めているヒマなんてない。いつかあなたより後から来る時代が、あれはいったい何だったのか、あの時あなたは何をしていたのか、と問いかけてくる時がきっと来るだろう。その時に恥ずかしくないようにしよう。報われても報われなくても、あなたのがんばりをだれかが見ている。そしてその評価を下すのは、ほかのだれでもない、あなた自身なのだから〉
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