「あなたの子どもの写真が拡散されている」――日本人に盗撮・写真を拡散させられて外出もままならなくなったクルド人家族。まだ小学1年生の娘は精神安定剤を処方されるほど追い詰められたという。なぜ子どもまで狙われるのか?

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「クルド人差別」のリアルを、ジャーナリスト・池尾伸一の新刊『仮放免の子どもたち 「日本人ファースト」の標的』(講談社)より一部を抜粋・編集してお届けする。(全2回の1回目/つづきを読む)


写真はイメージ ©getty

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「子どもが放置されている」――傷つけられた小学3年生

 川口市に住むクルド人の小学3年生の女児ペリン(9)も、攻撃にさらされた。

「あなたの子どもの写真が拡散されているよ」。父親のアラムに知人が連絡してきた。

 あわててXをみると自分のアパートのドアの前にペリンと親戚の女性が写っている写真があった。ペリンが小2の2023年7月のことだ。後ろ姿だが服などから長女のペリンとすぐに分かった。クルド人を批判しているフリージャーナリストのアカウントだ。

 こう書き込んでいた。

〈〈クルド人の女の子も、男の子も、放置されて、平日からうろうろしてるんです。埼玉南部の光景。高確率で学校に行かなくなる。……この子達も可哀想……〉〉

 親が子どもを学校に通わすこともなく、平日に放置しているというのだ。アラムは憤激した。

 わたしも取材を進めた結果、この写真に写っているのはアラムの一家であることが分かった。家族を訪ね、話を聞いた。取材してみると、ペリンは実は学校が大好きだった。算数と体育、図工が得意。病気以外では学校を休んだことはなかった。

 この日は、放課後に家に帰った後、家に遊びに来た叔母とおしゃべりしていた。そこを盗撮され、事実とはまったく異なるコメントがつけられていたのだ。「子を放置している」とされた家庭環境も事実と違っていた。

 父のアラムはトルコでクルド人の権利を求める活動に参加。過酷な拷問を受け、日本で難民申請した。難民認定はされなかったものの、在留特別許可で在留資格を取得。いまは従業員7人の解体会社を経営し、子どもたちにも愛情を注ぎ、塾にも通わせているのだ。

 ペリンは自分が盗撮され、Xに投稿されたことにショックを受けた。

精神安定薬を飲むようになった小学1年生

「あれから、いつも襲われるんじゃないかと怖くなった」。放課後はいつも友達と公園で遊んでいたが、家に閉じこもるようになった。学校の教室にいても「外からだれか見ているのでは」と不安にさいなまれるようになった。

 母親のアラルも、問題の投稿をみて以降はいつも頭痛がするようになった。「眠れなくて苦しんでいる」と語る彼女は、深夜に別の部屋で小さな物音がしても「だれか入ってきたのでは」とおびえるという。アラムは家の外に監視カメラも取り付けた。

 影響は盗撮されたペリンだけでなく、次女の小1のシャナル(6)にも及んだ。何も起きていないのに、急に何かにおびえて泣きだすようになってしまったのだ。夜も不安を訴え眠れないことが多い。

 アラムは「病院に行ったら、家族のみんなが盗撮や不審者の侵入を心配しているので、シャナルもストレスで精神が不安定になっているのではないかと診断された」と話す。シャナルは精神安定の薬を処方され、飲むようになった。

 しかし、警察はここでも動こうとしなかった。

「まだ被害が出ていないので何もできない、と言われた。わたしの子どもたちは精神的な被害を十分すぎるほど受けているのに」。アラムは言う。

ヘイト対策を放置する国と自治体

 クルドの子どもたちを攻撃の標的にした虚偽情報の投稿について、ヘイトスピーチに詳しい弁護士の神原元は「これが日本の子どもだったら大騒ぎになる。警察が捜査しないのはおかしい」と指摘した。法律で禁じられた名誉毀損に加え、盗撮を禁じた埼玉県の迷惑行為防止条例違反になる疑いがあるという。

 ヘイト対策に取り組む弁護士の師岡康子は、人種差別的な表現自体を国が罰則付きで禁止する必要があると主張する。「ヘイトをする人たちは、女性やマイノリティーで立場が弱い対象を選んで徹底攻撃してくる。在留資格が不安定な人も少なくないクルドの人々、中でも最も弱い立場の女児が標的にされ、ひきょう以外の何ものでもない」と言う。

 現行法制でも2016年に成立したヘイトスピーチ解消法がある。だが、人種差別やそれに基づくヘイトスピーチを「許されない」としたものの、罰則を設けていない。

 川崎市は在日コリアン(韓国・朝鮮人)へのヘイトデモが激しくなったことから2019年にヘイトスピーチに刑事罰を科す全国初の条例を設けた。だが、埼玉県では、県に加え川口市など自治体も踏み込んだルールづくりに及び腰だ。埼玉県知事の大野元裕は24年11月の記者会見で罰則を伴うヘイトスピーチ禁止条例が必要ではと問われたのに対して「現時点で頭の中に条例制定はない」と答えた。

 それどころか政治家や選挙の立候補者らが、排外的なメッセージを発することで注目を集めようとする動きが急拡大した。

 2025年早春、埼玉県戸田市の市議会議員、河合ゆうすけが公園でクルドの小さな子どもたちが、笑顔でケーキを囲み、誕生日パーティを開いている動画をSNSに投稿し、「蕨市民公園で違法パーティ」と書き込んだ。子どもたちの顔には何のモザイクもかかっていなかった。直前の市議選で「あなたの部屋の隣にクルド人が住み始めても怖くないですか」と訴え、トップ当選した人物だった。

 日本が加入する国連の人種差別撤廃条約では、人種差別的言動を犯罪として禁止し刑事罰を科すことを明記している。この条約が各国で守られているかをチェックしている人種差別撤廃委員会は2018年、日本についてこう指摘した。「インターネット及びメディアを通じたヘイトスピーチ並びに(政治家など)公人によるヘイトスピーチ及び差別的発言が継続している」。委員会はあわせて、罰則付きの包括的な差別禁止法をつくるよう勧告した。

 師岡は「ヘイトスピーチを放置すれば深刻なヘイトクライム(憎悪犯罪)につながる」と警告する。大正時代、当時日本の植民地だった朝鮮人への差別が放置された状況は、関東大震災直後に「朝鮮人が暴動を計画している」「朝鮮人が井戸に毒を流した」などのデマやフェイクニュースを生み、これを信じこんだ人々が日本の各地で朝鮮人を虐殺した。

令和も止まぬ在日差別

 決して過去の話ではない。

 2021年には在日コリアンが暮らす京都のウトロ地区で「不法占拠している」などのデマを信じた青年が住宅に放火し、住宅7棟が全半焼した。青年はインターネット上での「在日コリアンが医療費免除などの『特権』を得ている」などの根拠のない書き込みを信じ込み、在日コリアンについて敵意を抱いたと裁判で証言した。

 自宅アパート前での長女の写真を投稿されたアラム。2人の娘はいまだに不安と深刻な心の傷に苦しんでいる。アラムは2024年時点で言っていた。

「根拠のないヘイト投稿を信じて、クルド人は悪いと思い込んだ人間が、今度は子どもたちに本当に取り返しのつかないような危害を加えてくるのではないか。その時はもう手遅れだ」

 多くの候補者らが排外的な訴えをあからさまに展開した25年7月の参院選を経て、この章の冒頭のような子どもへの暴行事件も発生した。

 アラムの心配は現実のものとなりつつある。

「外国人に厳しい政策はウケるんだよ」なぜ自民党も参政党も“排外的なメッセージ”を掲げるのか⋯ベテラン議員が明かした「悲しい事実」〉へ続く

(池尾 伸一/Webオリジナル(外部転載))