現場の医師206人に聞いた「血圧140/90ライン」は適切なのか…5人に1人が「驚きの回答」に
年々厳しくなる血圧の基準値
実は高血圧の基準ほど、医師によって意見のわかれるものはない。血圧の基準値はこれまで何度も変更されてきている。'80年代には最高血圧(収縮期血圧・上)がなんと180、最低血圧(拡張期血圧・下)が100以上ときわめて緩やかだったが、日本高血圧学会がおよそ5年おきに作成している『高血圧管理・治療ガイドライン』によって、'00年には高血圧の診断基準が、上は140以上、下は90以上と一気に厳格化された。
この診断基準そのものは、昨年策定された最新のガイドラインでも変化がないが、理想を示す「正常血圧」と、高血圧の治療中の人が目指す「降圧目標」はやはり、過去20年で厳しくなっている。
正常血圧は'00年の段階では「130未満かつ85未満」と定められていたが、'14年には「120〜129かつ80〜84」に、そして'19年には「120未満かつ80未満」と厳格化された。降圧目標も高齢者の場合、'00年には「上が140〜160以下、下が90未満」とされていたのが、昨年のガイドラインから「130/80」と厳しくなった。
どんどん厳しくなっていく血圧の基準値について、患者の目線から言えば、「昔は緩かったのに、なぜこんなに厳しくしなければならないのか」という疑問が拭えない。現場の医師たちはどう考えているのか。今回、『週刊現代』は彼らのホンネを探るべく、医師206名に対して大規模アンケートを実施した。
5人に1人が「厳しすぎ」と回答
アンケートでは、日本高血圧学会が定める基準値について「「上140」は適切か」「「下90」は適切か」「高血圧の診断基準そのものが厳しくなっていることは適切か」、そして「自分が高血圧の患者によく処方するクスリ」の4点に回答してもらった。
すると、およそ7割の医師が現行のガイドラインは「適切」と回答したいっぽうで、上の基準には13%が「高すぎる」、21%が「低すぎる」と回答した。また、下の基準についても、11%が「高すぎる」、18%が「低すぎる」と回答。さらに診断基準については、73%が「適切」と回答したいっぽうで22%もの医師が「もっと緩めるべき」と回答した。
総じて言えば、医師のうち5人に1人は現行の基準値を「厳しすぎる」と感じていることが判明したのだ。この事実をどのように考えればいいのだろうか。慶應義塾大学名誉教授で血圧が専門の河邊博史氏が語る。
世界的に降圧目標が下げられた背景
「高血圧の基準値を考えるうえで、もっとも大きな影響があったのは、'15年に世界的に有名な医学・公衆衛生研究機関であるアメリカ国立衛生研究所が主導して実施したSPRINTという大規模試験です。
この試験では、過去に糖尿病や脳卒中などに罹った人を除いた心血管リスクの高い50歳以上の高血圧患者に対して、降圧目標を上の血圧を120未満にする群と140未満にする群で比較。すると、降圧目標が120未満のほうが狭心症、心筋梗塞、脳卒中、心不全などの病気が減るだけでなく、死亡率そのものも低くなることが判明しました。
これまでは140/90がいわば医学の常識でしたが、この基準が130/80にまで下がった。結果として『血圧はできるだけ下げたほうがいい』という考えが生まれるようになり、世界的に降圧目標が一気に下げられたのです」
こうしてみると、意外にも日本の基準は、国際標準からすると緩やかに設定されていると言える。実際、アンケート結果でも多くの医師が現行の基準値を「適切」と回答。これは、むしろ「基準値を下げすぎると大半の人が高血圧となってしまい、高血圧という病気をつくってしまうことになりかねないから」だと、愛知医科大学特任教授の宮田靖志氏は指摘する。
「いわゆる血圧の「下」が過度に低下した場合にも心血管リスクとの関連が指摘されています。高血圧の治療では患者ごとの背景を踏まえた目標を設定することが大切です」
【後編を読む】「血圧で一喜一憂してはダメ」…降圧剤を処方された人に医師が伝えたい「ほんとうのこと」
「週刊現代」2026年5月11日号より
