「千載一遇のチャンスをものにしたネタニヤフ」こうしてトランプはイスラエルの対イラン戦争に巻き込まれた
今回のアメリカ・イスラエル対イラン戦争の一つの大きな特徴は、歴史上初めてアメリカとイスラエルが本格的な戦争を、共同で遂行していることだ。日本で、そのことが持つ意味が、過小評価されているように思われる。
アメリカは、一貫してイスラエルを支援してきた一方で、冷戦期には、イスラエルが行う戦争に巻き込まれることを懸念していた。変化が訪れたのは、21世紀の「対テロ戦争」が始まってからである。アメリカは、イスラエルにテロ対策の指導を求めた。そしてイスラエルが提供する情報と助言に従うようになった。トランプ政権になってからは、アメリカは遂にイスラエルと共同軍事行動をとるところにまで至った。これは歴史的には初めての状態である。
そこで本稿では、アメリカがイスラエルと共に戦争を行う際に顕著になる傾向について考えてみる。それは、現実のアメリカの戦争遂行の政策に対する影響である。
開戦の経緯
アメリカは、もともと2月28日のイランの最高指導者ハメネイ師を暗殺した際の攻撃だけを行い、あとはイランで体制変動が起こるのを待つ、という安易で楽観的な見通しと期待を持っていた。その背景には、イスラエルのネタニヤフ首相の強い働きかけがあったとされる。
ネタニヤフ首相が、本当にハメネイ師を暗殺すれば体制変動が起こる、と自ら信じていたのかどうかは、不明だ。どちらにしても、あらゆる手段を用いて、アメリカをイランとの戦争に引きずり込むことが目標だったはずだ。
イスラエルは、長年にわたりイランと厳しく対峙している。イスラエルは、ガザのハマスやレバノンのヒズボラなどの敵対勢力を、イランの支援を受けた代理勢力とみなしている。そこで執拗にイランの弱体化を狙う政策を取り続けている。少なくとも2010年頃からイランの科学者や政府要人の暗殺を繰り返してきている。過去に何度か空爆も行った。しかしイランは総合的な国力でイスラエルを凌駕する地域大国である。軍事強国イスラエルといえども簡単にイランを駆逐することはできない。そこでアメリカとイランを対立させることに苦心してきた。
オバマ政権の時代に成立した2015年「JCPOA(包括的共同作業計画)」は、イランによるウラン濃縮を平和利用だけが可能な範囲に制限しつつ、制裁を解除するものであった。これを、イスラエルは当初から強く批判していた。そこで2017年に成立したトランプ第一期政権が、このイスラエルの要請に応えて、2018年に一方的にJCPOAから離脱した。そしてイランに対する「最大限の圧力」としての一方的制裁をかけ始めた。やむを得ず日本などがその頃にイランからの原油購入を止めるようになったのは、そのためであった。
トランプ大統領が再び政権をとった2025年には、イスラエルは、イランとの間で12日間戦争と呼ばれる直接的な交戦を行った。その際、アメリカは、イスラエルに対して、財政物資支援を提供しつつ、自らイランの核施設を爆撃する踏み込んだ行動をとった。
このトランプ政権の動きの背景には、イスラエル政府からの強い要請とともに、アメリカ国内のイスラエル・ロビーや、親イスラエル系シンクタンクの主張などがあったと言えるだろう。特にネタニヤフ首相は、大統領選挙時には選挙顧問で、就任後には中東担当の大統領顧問となったトランプ大統領の娘婿にあたるクシュナー氏と非常に親しく、トランプ大統領には個人的なルートを通じても影響力を行使できる立ち位置を持っている。
対イラン戦争におけるアメリカの迷走
ネタニヤフ首相の予言は外れ、最高指導者ハメネイ師を暗殺しても、イラン国内の体制変動は起こらなかった。それどころかイラン政府の態度はかえって強硬になり、アメリカはエスカレーションが続く消耗戦に巻き込まれることになった。
当初は、仮に体制変動が起こらなくても、早い段階でイランを軍事的に圧倒することができる、という楽観論が、アメリカ国内では支配的だった。それを裏付ける主張をしていたのは、親イスラエル系のシンクタンクなどだ。しかし戦争が長期化の様子を呈するようになり、次第に長期消耗戦に持ち込むイランに有利な情勢になってきた。
そこでトランプ大統領は、民生エネルギー施設や交通路を完全に破壊して、「一つの文明を滅ぼす」といった過激な発言で、イランを威嚇するようになった。当初の目論見が外れ続けた結果であったと言ってよい。イラン側の要求を受け入れるかのような態度を見せて何とか一時停戦に持ち込んだ後は、オマーン湾における海上封鎖という奇策をとるだけにとどめ、軍事衝突の再発を回避し続けている。
トランプ大統領としては、本音では、この戦争に深入りしたくない心情があるだろう。だがそれにしても成果なく途中で撤退するわけにはいかない。なぜそれができないかというと、アメリカの威信も重要だが、それにしてもイスラエルを見捨てるわけにはいかないからだ。
中間選挙の年だ。戦争を通じて、イスラエルがより安全になったという形がとれなければ、撤退することができない。イスラエルの存在が、アメリカが戦争を始めてしまった理由であり、アメリカが戦争を終わりにできない大きな理由なのである。
パキスタンでの協議の撹乱要素
イスラエルは、パキスタンにおけるアメリカのイランとの協議に対しても、クシュナー氏らを通じて、戦争継続に誘導するような働きかけを行ったとされる。パキスタンで協議にあたったアメリカの代表団は、何度もイスラエルのネタニヤフ首相に電話をしたと伝えられている。
そもそもパキスタンでの和平協議が、三者協議にならなかったのは、イスラエルを参加させると絶対にまとまらない(しかしアメリカが撤退すればイスラエルは戦争を続けられない)、という考えが関係者にあったからだろう。逆に言えば、イスラエルを排除して、アメリカとイランの二者間の協議として設定しても、なお影のようにイスラエルがアメリカに影響力を及ぼしてくる。
今回の戦争では、イランの攻撃にさらされて、イスラエルでも相当な被害が出た。だがそれでもイスラエルが断固として戦争を継続したいのは、アメリカと一緒にイランを叩く機会は、そう簡単には訪れないからだ。千載一遇のチャンスと考えているので、今後も、大統領府のみならず、アメリカの議会にも、イスラエル・ロビーなどを通じて、強力な働きかけをしてくるだろう。
【後編を読む】アメリカ一辺倒では大きなリスクになるのに…日本のイラン戦争認識はなぜこんなにも歪んでしまうのか
