「日本は高学歴女性の能力を生かせていない」浜田敬子がアイスランドで見た「男女平等に近づける3つの法制」絶大なる効果
2025年10月から公開され、ミニシアター作品でありながら、いまも上映され続けている映画『女性の休日』。1975年にアイスランド国民の女性の9割があつまったという大規模ストライキ「女性の休日」を描いたドキュメンタリーだ。アイスランドを大きく動かした女性たちのアクションが、どのようにして実現し、社会を変えたのかが語られている。このストライキをきっかけにして、アイスランドはこれまでに6回同様のストライキが開催され、ジェンダーギャップ指数1位の国になったとも言われている。
国際女性デー直前の3月5日、FRaUはNewsPicks for WEとともに「女性の休日WEEKのキックオフ」ともいえるイベント「日本をアイスランドに近づけるための大ブレスト会議」を開催した。
平日の夕方にもかかわらず、会場に約80名の男女が集結。ジャーナリストの浜田敬子さんや、漫画家の鳥飼茜さん、FIFTYS PROJECT代表の能條桃子さんの講演などが行われた。
イベントで語られた内容をご紹介する今回は、浜田敬子さんのトークイベントをお伝えしている。
前編では、浜田さんが25年にわたりジェンダー問題を取材テーマとしてきた経緯や、アイスランドを取材して感じた実情を紹介した。
続く後編では浜田さんが「平等3点セット」と名付けた法制度について詳しく解説。それによって起こったアイスランドの変化を通して、日本社会が変わるための具体的なヒントを語った。
鍵は「男性育休取得の義務化」
アイスランドは、1975年10月に女性の9割が参加したストライキ「女性の休日」をきっかけにして女性大統領誕生や、女性議員が増加することになる。それによって政治の場で変化が起こり、法制度が整い始めたという。
ここで浜田さんが注目したのは、2000年に法制度化された「男性の育児休業取得の徹底」だ。
「アイスランド取材で、平等人権省の担当者に、男性の育児休業が事実上義務化されたことで、何が変わったかを尋ねました。すると、男性の家事・育児能力が上がり、当事者意識が高まったと言っていました。男性が育休を取っている間は、女性が復職するため自分でやるしかないから当然ですよね。
しかし、その後に私が想像していなかった答えが返ってきたのです。企業の採用や登用の場で女性差別がなくなったという話でした」(浜田敬子さん、以下同)
企業で採用や登用を決定する際、同じ能力の候補者がいた場合、男性の育児休業取得が義務化されていなければ、女性が不利になる可能性は否定できない。義務化はジェンダー問題の解決に大きな意味を持ったのではないかと浜田さんは評価した。
「例えば同程度の能力を持った男性と女性がいた場合、採用側にどんな意識が働くでしょうか。女性は将来、出産して育児休業を取るかもしれない。復職後は短時間勤務を選んだり、もしかしたら辞めてしまうかもしれない。それなら男性を採用した方がいいのではないか、というアンコンシャスバイアスが働く可能性があります。
アイスランドを取材して、そのことを強く実感しました。男性も女性も等しく家事育児に携わるようになって初めて、働き方をフェアにすることができるのです。女性だけがケア労働を女性のキャリアを考えたとき、それは最低限必要なことだと感じました」
クオータ制の導入
「クオータ制の導入も重要な役割を果たしています。アイスランドがクオータ制を取り入れる直接のきっかけは、2008年に起きたリーマン・ショックです。人口が少ないアイスランドでは、金融国家を目指していました。
その結果リーマン・ショックで多大な影響を受け、経済が破綻してしまったんです。リーマン・ショックがなぜ起きてしまったのかについては世界各国で検証されていますが、大きな理由として投資銀行などの意思決定層が白人男性に偏っていたことが挙げられています。この反省から、企業の経営層にクオータ制を導入したのです。
50年前のストライキによって、男性の育児休業が徹底されました。でもそれだけでは企業の管理職は十分に増えなかった。つまり、数値目標がなければ自然に増えることは難しいということです。
クオータ制が導入されたことによって、現在では国会議員の5割弱が女性に、そしてレイキャヴィーク市議会は半数以上を占めるようになりました。過渡期にはクオータ制を取り入れ、女性の人数を意識的に増やすことが、非常に大事だと思います」
「私たちは男性の6割ではない」
浜田さんは女性権利協会でも取材を行った。そこで、アイスランドはジェンダーギャップ指数1位になってもまだ男女の賃金格差が約12%残っていると聞いたという。25%の日本に比べれば小さいが、意外にも感じる。
「その理由として挙げられたのが、移民女性の賃金でした。かつてはルーマニアから、最近ではフィリピンからの女性たちが、医療や介護などのケアワークをしており、その多くが非正規雇用で、低い賃金で働いています。
次の課題は、非正規雇用で働く移民女性の賃金を上げていくことだと、取材先で政府官邸の担当者が話していました」
さらに浜田さんが「印象に残っている」と語るエピソードがあった。女性たちによるストライキ「女性の休日」は、1975年に始まった一度きりではなく、現在も継続している。2025年には50周年を迎え、7回目となるストライキを決行している。できるだけ多くの女性たちがデモに参加できるよう、女性権利協会が取った行動が、強く心に残ったという。
「女性権利協会は企業のCEOなどに女性従業員が『女性の休日』に参加できるよう協力を求める手紙を書いたそうです。とくに時給で働く非正規の女性は、休むと収入が減ってしまいます。だから収入を減らさずに参加できるようにしてほしい、と企業に呼びかけたのだそうです」
なぜ、これほど多くの女性が連帯できたのかと浜田さんが担当者に尋ねると、「ストライキ当日に向けて、数ヶ月かけて何度も議論を重ね、誰もが共感できるアジェンダを決めたことが大きかった」と語っていたという。
「立場に関係なく、共感できることとなると、やはり“賃金格差”です。1975年の最初の『女性の休日』でも、『私たちは男性の6割ではない』というスローガンが掲げられました。賃金は誰にとっても関係のあるテーマなので、連帯しやすいんですね。
地域の自治体や組合が集まり、何ヵ月にもわたってアジェンダを決めていく、そのプロセスも大事だと話していました」
日本は高学歴女性の能力を生かせていない
では日本はどうだろうか。浜田さんは、用意してあったスライドをモニターに映し出した。OECD(38カ国が加盟する経済協力開発機構)による、高等教育の経済的リターン(収入)の男女格差を示したグラフだった。
「日本は女性の賃金が非常に低く、男女の格差が非常に大きいことがわかります。非正規雇用も含まれていますが、男女の差は他国と比べてもかなり大きいです」
しかし、日本の女性の能力が低いわけではない。浜田さんが次にモニターに映し出したのは、15歳を対象にした国際学力調査のデータだった。日本の女子生徒の数学の平均点は、女子だけで見ると世界1位。読解力も4位と高い水準だ。それでも賃金格差は、先進国の中で下から2番目。
「理由の一つとして、家事労働時間があげられます。OECD平均で言うと、男性を1とすると、女性は2倍くらい。しかし日本は5.5倍。共働きが増えても“男が稼いで、女が家事育児をする”という基本的な構造はあまり変わっていない。税制や社会保障制度も関係しています。
法制度、企業の働き方、そして人々や社会の無意識のバイアス。この3つが強固に結びついていることで、日本は変わらないのだということを、アイスランドを取材して、強く感じています」
ケアは「女性が適任なのか」
最後に浜田さんは、参加者から事前に寄せられたアンケートや、会場からの質問に答えた。まずはアンケートから。
「ケアワークに関しては『やっぱりお母さんが一番よね』とか『女性らしいやさしさや繊細さがケアには必要…』みたいな文脈で語られることが多いので、そうしたステレオタイプをなくしていきたい」
この声を受け、浜田さんは娘を出産後、仕事復帰するタイミングで、当時の夫が3ヵ月の育児休業を取得した際のエピソードを語った。
「私が育児休業を取得し、夫が仕事をしていた時期は、夜中に子どもが泣いても夫は起きませんでした。ところが私が復帰することになり、夫と立場が逆転すると、今度は私がまったく起きられなくなりました。脳が完全に仕事モードに入ったんですね。逆に夫はすぐに起きられるようになりました」
この経験から、浜田さんは性別の特性というよりも、どちらが当事者として関わるのか、意識の問題ではないかと感じたという。
「だから“母性”という言葉に、私はすごく懐疑的です。女性だから必ずそうなるというものではないと思います。女性だから育児が自然にできるわけでもありません。それにもかかわらず、うまくできないと、日本の女性は『私は母親として十分ではない』という罪悪感に苦しめられることがあるのではないかとも思います」
「宝探しをする」
文筆家を目指す参加者からは「男性中心の世界で、どう評価を得ていけばいいのか」という質問が上がった。
「人はどうしても同質性の高い人を評価しがちです。自分の成功体験と異なる人を評価することは女性でも難しいですよね。
だから意思決定層が男性ばかりでは、自分と似た人、同性を評価する傾向がどうしても生まれてしまいます」
だからこそ、評価の仕組みそのものを見直す必要があるという。浜田さんは具体的な企業の例をあげ、解説する。
「化粧品会社のポーラでは、共創型の企業を目指すと決めたときから、リーダーの要件定義を見直しているんですね。新しい評価軸を作り、制度自体を見直しました。
その結果、管理職に女性が増えたと言います。元社長の及川さんは『社内で宝探しをした』と言っていました。才能も能力も持っている人がいる。見つけられていなかったのは、評価をする人が男性ばかりだったから。新たな評価軸を作り、それに見合う女性を社内からきちんと発掘したと」
また、最初の配属や仕事の分担に関しても指摘をした。ある財団の調査では、IT業界では同じエンジニアでも男性には新規提案の仕事、女性には保守業務が多く割り振られていたという。
「IT業界で評価が高いのは新規提案の仕事です。最初の配属で評価が決まってしまう。だからこそ、男女ではなく個人の適性で公平に仕事をアサインすることが大切です」
浜田さんは、芸術分野は主観的な評価もあるため、こうした基準を設けることが難しいとしつつも、2019年のあいちトリエンナーレの事例を挙げた。芸術監督を務めた津田大介さんが、参加作家の男女比を50%にすることを目指した事例を紹介した。
「最初に数値目標を決めると、ポーラのように宝探しが始まるんです。するとこんなにいるじゃないか、と気づくんです。何も女性である必要はありません。性別にかかわらず、変えようという意思を持つ人をリーダーにすることが、社会を変えるきっかけになるのではないでしょうか」
実際に、アイスランドを取材した浜田敬子さんが指摘する日本の課題。男性の育児休業義務化やクオータ制、そして賃金格差は個人ではどうしても変えられない構造だ。だからこそ浜田さんは、法制度を変えるためにも政治への参加が必要だと強調し、セッション1は終了した。
撮影/杉山和行(講談社写真部) 構成/笹本絵里(FRaUweb)
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