「日本人の体質」にグルテンフリーは合わない。予防医学を追求してきた医師が指摘する「日本人がはまると逆効果の健康法」

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「太り気味だから、ごはんをお茶碗半分にしているのに痩せない」「血圧が高いから塩分を控えるように家族に言われた」……こんな経験がある方、少なくないのではないでしょうか。実はそれ、日本人に合っていない健康法かもしれません。

同じ人間であっても、外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がないどころか、逆効果ということさえあるのです。

見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための健康法を、徹底解説してロングセラーとなった『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』が全面改訂されて、『最新 欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』として新たに刊行されました。本書は発売即重版となるなど、大きな話題を呼んでいます。

新型コロナの流行をはじめ、旧版刊行からのおよそ10年のあいだの医学・健康をめぐる新知見をも取り込んだ一冊。そこで数回にわたり、この『最新 欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』から、とくに注目の話題をご紹介していきましょう。

第1回前編では、ダイエットなどで注目されるグルテンフリーについてお伝えします。

*本記事は、『最新 欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

日本人、こんな健康法は意味がない

「グルテンフリーでダイエット」「朝はスムージーでビタミンチャージ」「牛乳は骨を強くしてくれる」「筋肉をつけて脂肪を燃やしましょう」……。

手軽に健康でキレイになりたいという人々の願いを受けて、次々に登場する新しい健康法。たいてい、もっともらしい説明がなされ、テレビや雑誌が盛んに取り上げます。店頭で見かけて、つい買ってしまったという人もいるでしょう。

しかし現実には、都合のよいデータに尾ヒレをつけてセンセーショナルに報じる例があとをたちません。そして健康法にも人種差の問題があります。メディアは欧米で流行している健康法をきそって紹介しますが、日本人は欧米人とは異なる遺伝子を受け継ぎ、異なる環境要因のもとで暮らしてきました。こうして作られた日本人の体質は、当然ながら、欧米人の体質とは多くの点で異なります。

欧米人に有効な健康法が日本人にも役立つとは限らず、それどころか有害なことすらあるのです。

そんな健康法にはどんなものがあるのか、日本人と欧米人の体質の違いに注意しながら見ていきましょう。

食文化を培ってきた「グルテン」

グルテンフリーは小麦やライ麦、大麦を原材料とするパンや麺、お菓子などを避ける健康法です。原因不明の体調不良に苦しんでいたプロテニス選手が、グルテンフリーで復活した話をきっかけに、日本でも広く知られるようになりました。

小麦粉に水を加えて練ると、蛋白質が結びつき、粘り気のあるグルテンができます。グルテンの語源は「べたべたくっつくもの」を意味するラテン語で、その名のとおり、弾力性と粘着性があります。パンが膨らんだ状態を保てるのも、うどんや中華麺、パスタなどの麺にコシが生まれるのもグルテンのおかげです。麩のおもな成分なので日本人も伝統的に食べてきました。

機械で製造した麺より手打ちのほうがコシが強いのは、グルテンがからみ合い、しっかりした網目状の組織ができるから。逆に、天ぷらの衣を合わせるときに、混ぜすぎるとグルテンができて衣がぼってり重くなってしまいます。

じつは、「奇跡ではなかった」グルテンフリーの効果

食卓を豊かなものにしてきたグルテンですが、摂取をひかえたことでプロテニス選手が元気になったのは奇跡でもなんでもありません。この選手はグルテンアレルギーだったからです。小麦製品を中心に、グルテンのもとになる蛋白質を含む食品を遠ざけたことで、アレルギー症状が起きなくなったということです。

このようにグルテンフリーは、本来、グルテンの摂取で腸に障害が起きるセリアック病や、小麦ないしグルテンにアレルギーがある人のための治療法でした。セリアック病は腹痛や下痢が起きる自己免疫疾患で、日本の発症率は欧米の20分の1程度です。その理由は、セリアック病の発症とかかわる遺伝子を持つ人が欧米には25〜30%いるところ、日本には約0.3%しかいないからです。

小麦アレルギーも同様で、日本の発症率は米国の約6分の1。なんと言っても小麦の消費量自体が違います。国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、2021年の国民1人あたりの年間小麦消費量は英国が124キロ、米国は117キロあるのに対し、日本は42キロしか食べていません。パン食が定着した現代でも、欧米のざっと3分の1です。

セリアック病と、小麦/グルテンアレルギーが珍しくない欧米では、グルテンフリー食品が以前から普及していました。そこにプロテニス選手の復活劇が華々しく報じられたことで、問題なく小麦を摂取できる人たちのあいだでもグルテンフリーが流行し始めました。これが日本にも伝わって、グルテンフリー健康法として話題になったのはご存じのとおりです。

グルテンを避けすぎると陥る、落とし穴

しかしながら、グルテンを避けるよう医師から指示されている場合ですら、治療の原則は「必要最小限の除去」です。なぜかと言うと、グルテンを避けすぎると、他の成分まで摂取できなくなるからです。

小麦に限らず、穀物はどれも食物繊維が豊富です。とくに小麦を丸ごと挽いた全粒粉には通常の小麦粉より4倍多く入っており、100g食べるだけで1日に必要な量の半分以上を摂取できます。食物繊維は腸の善玉菌の餌であり、悪玉菌が作る有害物質や体内の余分なコレステロールの排泄を促す作用があります。

図「日本人の食物繊維摂取量が減っている」に示すように、日本人1人1日あたりの食物繊維摂取量は、約60年で3分の2まで減りました。小麦、大麦、玄米、雑穀など、穀物の摂取量が3分の1になったからです。このことは、とくに日本において糖尿病増加の背景になっています。

また、グルテンフリーによって総コレステロール、空腹時血糖、そして体格指数(BMI)が上がることも報告されています*。BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割って算出し、18.5以上25未満を普通体重と判定する肥満の国際尺度です。「グルテンフリーでダイエット!」という記事を見かけることがありますが、実際は太るわけです。心筋梗塞をはじめとする心臓病の発症率が高まることを示した論文もあります。

穀物との上手な付き合い方

そして、全粒粉にはカルシウム、マグネシウム、カリウム、亜鉛などのミネラル、ビタミンB1、B2、B6、ビタミンDをはじめとするビタミンも多く、さらにはグルテンそのものも質のよい植物性蛋白質です。植物性蛋白質はコレステロールや中性脂肪の数値を下げ、脂肪の蓄積を抑えます。また、肉などに含まれる動物性蛋白質が脂質を一緒に摂取しがちなのとくらべて、穀物であれば脂質は少ししか含んでいません。

グルテンフリー発祥の地、米国の専門家も、グルテンフリーが一般の健康な人に特別な効果をもたらすとは考えにくいと述べています。とりわけ日本人は、穀物から食物繊維と植物性蛋白質の摂取を心がけるのが大切です。

◇グルテンフリーで体調がよくなった人がいるから、ダイエットによいという「思い込み」により、むしろ体調を崩してしまうこともある。「これはヘルシー」と思われている代名詞のようなものが、日本人の「体質」の面から科学的にみるとよくないこともあるのだ。

では「ヘルシー」の代名詞と思われているものでも気を付ける必要があるものはなにか。後編「毎日のスムージーで肥満や生活習慣病? 予防医学を追求してきた医師が指摘、「日本人の体質」を知らないと陥る健康の勘違い」で詳しくお伝えする。

記事中の参考記事

*グルテンフリーで血糖値、BMIが上昇する:Vici G. et al. ,“ Gluten free diet and nutrient deficiencies: A review.”, Clinical Nutrition , 35(6)(2016).

**果糖が内臓脂肪を増やすしくみ: DiNicolantonio J. J. et al. ,“ Fructose-induced inflammation and increased cortisol: A new mechanism for how sugar induces visceral adiposity.”, Progress in Cardiovascular Diseases , 61(1)(2018).

***腹囲が同じでも日本人男性の内臓脂肪は白人男性より多い:Kadowaki T. et al. ,“ Japanese men have larger areas of visceral adipose tissue than

【後編】毎日のスムージーで肥満や生活習慣病? 予防医学を追求してきた医師が指摘、「日本人の体質」を知らないと陥る健康の勘違い