その「すみません」が‟命取り”...「サナエトークン」大炎上に学ぶ、トラブルを未然に防ぐ《究極のコミュニケーション防衛術》
2026年3月現在、世間を大きく騒がせた「サナエトークン」を巡る騒動は、ピークを過ぎてようやく一定の落ち着きを見せ始めている。
しかし、水面下では「一体誰が悪かったのか」「何が問題だったのか」という犯人探しの論争が未だにくすぶっている状態だ。
政治家をモチーフにした暗号資産(仮想通貨)の発行という、前代未聞のプロジェクトはなぜ大炎上したのか。
前編では、2026年春に大炎上した「サナエトークン」騒動の裏側に、スタートアップ企業と官僚組織という、そもそもルールの違う世界同士の衝突があったことを解説した。
ただ、この騒動を「特殊な事件」で片づけるのは危うい。
自分では普通に話しているつもりなのに、相手には非常識だと受け取られる。説明したつもりが火に油を注ぎ、謝ったつもりが不利になる。そうしたすれ違いは、私たちの職場でも珍しくないからだ。
では、価値観の異なる相手と向き合うとき、何に気をつければ深刻な対立を避けられるのか。
前編記事『「サナエトークン」大炎上の理由…気鋭の起業家たちが陥った「致命的すぎる勘違い」』に続き、遠藤貴則氏に、後からもめないための記録の残し方、謝罪が必要か分からない場面での受け答え、相手の決めつけに乗せられない話し方など、現場で使える防衛術を聞いていく。
その「すみません」、逆効果だった...
トラブル発生時、多くの人は「相手が嘘をついている」「前と言っていることが違う」と憤る。臨床心理学者の遠藤貴則氏は、そもそも人間の脳の仕組みとして、都合のいいように記憶を作り変えてしまう性質(認知の歪み)があるのだと話す。
「人間は、自分にとって不都合な情報を無意識に消去し、自分を正当化する情報だけを残す『確証バイアス』を持っています。時間が経てば経つほど記憶は改ざんされ、『昔からずっとこうだった』という強引な一般化が起きてしまう。だから、揉めごとで合意形成が崩れ、『言った・言わない』の論争になるのは、ある意味で必然の現象なんです」(遠藤氏、以下同)
今回のサナエトークンのケースでも、おそらく関係者間でコミュニケーション不足による認知の歪みが発生していたはずだ。記憶があてにならない以上、身を守る術は一つしかない。
「人間の証言ほど信憑性の低いものはありません。アメリカの法廷でも参考程度にしか扱われないほどです。だからこそ、日頃からカメラの映像や写真、LINEなどのテキストといった客観的な物的証拠を残しておくことが、最大の防衛策になります」
日本のビジネスパーソンは、クレームや厳しい指摘を受けると、反射的に「すみません」と口に出してしまう。とりあえず謝って場を収めようとする態度は長らく美徳とされてきた。ところが、ルールの違う相手に不用意な謝罪をするのは命取りになる。
「証拠が揃っていない段階で謝ってはいけません。相手に『自分は被害者だ』という確証を与えてしまうからです。私がおすすめしているのは、第一声を『教えてくれてありがとうございます』に変えること。これは相手の発言に対する感謝を伝えているだけで、自分の非を認めたわけではありません。否定も謝罪もしない、言うなれば『第三の選択肢』です」
さらに、相手が感情的になっている場面では、「事実」と「感情」を明確に切り離すスキルが求められる。
「相手が怒っているとき、『そんなつもりはなかった』と反論するのではなく、『あなたはそのように感じたんですね』と、まずは相手の感情だけを事実として受け止める。承認するだけでいいんです。そのうえで、『私の意図は不快にさせることではありませんでした』と明確に伝える。このとき、『しかし』や『だけど』といった逆接ではなく、『そして』で言葉をつなぐのがポイントです」
話し合いは、始まる前に壊れている?
話し合いは、席に着く前からこじれ始めていることがある。そこで気をつけたいのが、「ラベリング」と「相手の前提」だ。前編でも触れたように、人は不安や怒りを覚えると、「誰が悪いのか」を早く決めたくなり、相手をひとくくりに見てしまいやすい。
「サナエトークン騒動でも、『どうせスタートアップ側の論理で動いているんでしょ』『身内をかばっているだけではないか』と見られた時点で、冷静な対話はかなり難しくなります。
発言の内容より先に、“スタートアップ側”“運営側”というラベルで受け取られてしまうからです。なので、自分を特定の立場に押し込められないことが大事です。同時に、こちらも相手を『感情的に叩いているだけだ』などと決めつけてはいけません」
さらに厄介なのが、質問の形をしながら、実は相手の見方を決めつけてくる言い方だ。
「『なぜそんなに厳しい対応をするのですか?』と聞かれると、そのまま答えたくなるものです。ですが、この聞き方には最初から『あなたは厳しい対応をしている』という前提が入っています。ここで『そんなつもりはありません』と返すと、気づかないうちに相手が置いた前提のうえで話すことになってしまうのです」
上記のようになった場合、すぐに弁明するのではなく、まず前提を確かめたほうがよい。
「こういうときは、『どの点をそう感じられたのでしょうか』『その前提をもう少し詳しく教えてください』と聞き返す。相手の前提を言葉にしてもらうだけで、感情的なやり取りを事実確認に戻しやすくなります。もし最初から犯人扱いする前提で話が進んでいるなら、その先は弁護士など第三者に任せるべきです」
わかり合うより、まず孤立しないことが大事
現代のコミュニケーションにおいて、SNSやメールといったテキストツールでのやり取りも火種になりやすい。
声のトーンやボディランゲージが伝わらないテキストは、読み手の精神状態によって極めてネガティブに受け取られやすく、変動性が非常に高い。遠藤氏は、業務連絡以外では絵文字やスタンプを適切に活用し、感情を補完することを推奨している。
そして、最後に遠藤氏は、トラブルに直面した際のもっとも重要なマインドセットを語る。
「絶対に自分一人で抱え込まず、いろいろな人に相談することです。相手を孤立させるのは、洗脳やDVの典型的な手法です。当事者2人だけの閉鎖空間では、必ず見えない盲点が生まれます。あえて敵側の人間(相手の友人など)や、利害関係のない第三者に状況を評価してもらうことで、問題解決の糸口が見えてきます」
サナエトークンの騒動が残した最大の教訓は、世の中には自分たちとは異次元の世界観で生きている人々がいる、という厳然たる事実だ。
「コミュニケーション術の本質とは、相手の世界観を理解しつつ、自分の世界観を無理に押し付けないことに尽きます。相手のゲームルールを見極め、適切な距離感を保つこと」
異なる価値観が複雑に絡み合う現代社会。無用な炎上を防ぎ、ビジネスを安全に前に進めるために、遠藤氏の提唱する防衛術は、今日から使えるあなたの強力な武器になるはずだ。
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