「パートだから暇でしょ」弟の一言に52歳姉ブチ切れ…83歳父の介護で露呈した「きょうだい格差」の末路
父の介護を一身に背負い、心身ともに限界を迎えていた52歳の姉。意を決して弟に助けを求めた彼女を待っていたのは、あまりにも無神経な一言でした。在宅介護に潜む不均衡と、破綻を防ぐための現実的な対策を考えていきます。
「優しいお姉ちゃん」という呪縛
東京都近郊の一軒家に、月12万円の年金で一人暮らす加藤隆夫さん(83歳・仮名)。2年前に妻を亡くして以来、認知機能の低下が目立ち始め、要介護1の認定を受けています。その介護を一手に引き受けているのが、近隣に住む長女の加藤美智子さん(52歳・仮名)です。美智子さんは現在、スーパーのレジ打ちパートとして働いており、月収は約12万円です。
9時から16時まで働き、そのまま実家へ向かう日々。隆夫さんは身体的には自立していますが、火の不始末や薬の飲み忘れ、同じ内容の電話を1日に何度もかけるといった行動を繰り返します。美智子さんは週4回、実家で夕食の準備、掃除、洗濯、そして隆夫さんの話し相手を務めます。帰宅するのは20時を過ぎることが多く、自身の家事はその後に行う過酷な生活を送っています。
美智子さんには、都内のIT企業に勤務する2歳下の弟・加藤健一さん(50歳・仮名)がいます。健一さんは実家から電車で1時間の距離に住んでいますが、盆と正月以外に帰省することはほぼありません。美智子さんは自身の心身の限界を感じ、現状を訴えるため、健一さんの職場近くのファミレスで話し合いの場を設けました。
美智子さんは「自分たち家族の生活、仕事、そして介護の両立が限界だ」「週に1回でもいいから父の様子を見に行ってほしい」と切り出しました。しかし、健一さんの反応は彼女の期待とは大きく異なるものでした。
「今、重要なプロジェクトを任されていて、土日も仕事が入ることが多い。父親の面倒を見られない代わりに、毎月3万円を介護費として振り込んでいる。姉さんはパートなんだから時間に余裕があるはずだ」。健一さんは淡々と書き言葉を重ねていきます。「実家に近い人間がやるのが一番効率的だ。俺が行く往復の時間もコストだ。姉さんが全部やってくれたほうが合理的だろう」。この言葉を受け、美智子さんの我慢は限界に達しました。
「3万円で何とかなると思っているのか。私だって自分の家庭がある。仕事、仕事と言っている間に、私は父の汚れた下着を洗い、執拗な呼び出しに対応している。『パートだから暇』で片づけられるのは我慢がならない。なぜ、私ばかり我慢しなければならないのか」
店中に響くほどの声をあげてしまい、健一さんは困惑。それでも具体的な協力案は出てきませんでした。
「父さえいなければ、という考えも頭によぎるようになりました。そんな自分に嫌悪感を覚えます」
父親の介護をきっかけに、家族関係はいまだかつてないほど険悪になっています。
在宅介護が引き起こす「ケアの不均衡」と孤立の実態
美智子さんのように、近居の家族(特に女性)に介護負担が集中するケースは、高齢化の進展により増加傾向にあります。厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、同居の主な介護者が介護に費やす時間は「必要なときに手をかす程度」が44.1%で最多ですが、一方で「ほとんど終日」という回答も22.7%に達しています。
美智子さんのように「要介護1」の軽度であっても、見守りや家事代行、話し相手といった役割を合わせると、その拘束時間はフルタイム労働に匹敵する負担となります。
さらに、総務省『令和4年 就業構造基本調査』によれば、過去1年間に介護・看護を理由に離職した人は約10.6万人にのぼり、その多くが40代から50代の働き盛りです。弟の健一さんが抱く「パートなら余裕がある」という認識は、介護離職の予備軍が直面する「時間的・精神的な余白のなさ」を軽視していると言わざるを得ません。
ここで直視すべきは、介護にかかる「お金」の現実です。生命保険文化センター『2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査』によると、介護に要した費用のうち、一時的な費用の合計は平均47.2万円、月々の費用は平均9.0万円となっています。介護度別にみると、「要介護1」で5.4万円、「要介護4」で12.4万円。また在宅介護では平均5.3万円、施設介護では13.8万円です。
健一さんが「仕事が忙しくて手伝えない」という論理を通すのであれば、その「動けない分」を経済的なサポートで全面的に補う姿勢が不可欠です。美智子さんが介護負担を減らすために「訪問介護の上乗せ」や「配食サービス」、「自費の見守りサービス」などを検討するなら、健一さん側に追加の金銭負担を求めるのも一つの手段でしょう。
「手伝えないなら、せめてお金を出す」というのは、長期戦も予想される介護を乗り切るための現実的な役割分担です。何よりも介護においては、一人で抱え込まず、ケアマネジャーなどの専門家を含めて早めに相談することが大切です。
