イラン出撃の米軍「空飛ぶ海兵隊」の実態…沖縄・佐世保が「空白地帯」で危惧される「東アジアの安全保障」
海に浮かぶ多機能基地「強襲揚陸艦」とは何か
現在、中東情勢はかつてない緊張状態にある。米海軍佐世保基地を母港とする強襲揚陸艦「トリポリ」が、沖縄の精鋭、第31海兵遠征部隊(31MEU)を乗せてイラン近海へと急行しているからだ。さらに米西海岸からも強襲揚陸艦「ボクサー」率いる部隊が追加派遣され、ペルシャ湾周辺にはかつてない規模の海兵隊戦力が集結しつつある。
これら「殴り込み部隊」の狙いは、イラン経済の心臓部であるカーグ島の占領にあるのか。最新の軍事構想とAIを駆使した新時代の戦争の姿を読み解く。
軍事ニュースで頻繁に耳にする「強襲揚陸艦(LHA/LHD)」だが、一般的な「空母」や「輸送艦」とは何が違うのだろうか。
一言で言えば、強襲揚陸艦は「ヘリコプターや垂直離着陸機を運用できる航空母艦の機能」と「数千人規模の地上戦闘部隊を運ぶ輸送艦の機能」を併せ持った艦艇である。
通常、米海軍の強襲揚陸艦には、艦尾に「ウェルドック」と呼ばれる大きな空間があり、そこから水陸両用車やホバークラフト(LCAC)を海上に発進させることができる。しかし、今回派遣された「トリポリ(LHA-7)」は、このウェルドックをあえて廃止し、航空運用能力を極限まで高めた「アメリカ級」の2番艦だ。
最新鋭のステルス戦闘機F-35Bを数十機搭載し、事実上の「小型空母(ライトニング・キャリア)」として機能する。この艦は、かつてのノルマンディー上陸作戦のような「海から砂浜へ」という平面的な突撃ではなく「空中から一気に敵の背後や要衝を突く」という現代的な戦い方に特化した、まさに「空飛ぶ海兵隊」の母艦なのである。
沖縄の精鋭「第31海兵遠征部隊(31MEU)」の正体
「トリポリ」に乗艦しているのは、沖縄のキャンプ・ハンセンを拠点とする第31海兵遠征部隊(31MEU)だ。彼らは約2,500名で構成され、歩兵部隊だけでなく、砲兵、航空、後方支援のすべてを自前で備えた「自己完結型の小規模統合部隊」である。
また、彼らは「遠征前進基地作戦(EABO)」を具現化する部隊でもある。EABOとは、敵のミサイル網の圏内にある小島や拠点に迅速に展開し、そこに一時的な基地を設けて敵の行動を妨害したり、攻撃の足がかりを作ったりする高度な分散型作戦だ。
31MEUは、朝鮮半島有事や東アジアの緊張に対応するため、常に24時間以内の出撃態勢を整えている「精鋭中の精鋭」である。今回の中東派遣は、彼らの柔軟な即応能力が、世界規模の危機管理においていかに重宝されているかを物語っている。
今回の作戦において、すでに公然と語られているシナリオが、イランの経済を支える重要拠点の占領だ。その筆頭が、ペルシャ湾北部に位置するカーグ島である。
カーグ島(Kharg Island)は、イラン経済の心臓部であり、イランの原油輸出の約90%がこの島を経由する。ここを占領・無力化することは、イランの戦争継続能力(資金源)を文字通り断つことを意味する。
また、カーグ島を狙うには、まず入り口であるホルムズ海峡の安全を確保しなければならない。そのためには、ホルムズ海峡の「コルク栓」といわれるゲシュム島(Qeshm Island)を抑える必要がある。ゲシュム島は海峡を扼する位置にあり、イランのミサイル基地やドローン拠点が存在する。ここを制圧しなければ、米艦隊は海峡内に安全に進入できない。
つまり、「ゲシュム島で海峡の栓を抜き、カーグ島で経済の息の根を止める」というのが、海兵隊に期待される究極のシナリオの一つなのだ。
占領は可能か?そして日本への影響とは
かつての島嶼占領は、大量の兵士を上陸艇に乗せて力押しする被害の大きい作戦だった。今回の米軍の作戦は、「AIを取り込んだ戦争」である。
米軍はAIを使い、イラン側の対艦ミサイル配置、ドローンの飛行パターン、レーダーの死角などをリアルタイムで分析。膨大なデータから「最も効率的な攻撃目標とタイミング」を選定する。
強襲揚陸艦「トリポリ」から発進するF-35Bがステルス性能を活かして防空網を破壊し、同時にMV-22オスプレイが31MEUを空中から一気にカーグ島やゲシュム島の戦略要地に降下させる。AIによる正確な状況把握と、垂直展開によるスピード感。これが、現代の米軍が描く占領作戦の全容だ。
果たして、計5,000人規模の海兵隊(31MEUと11MEU)で、イランの重要拠点を占領できるのだろうか。
軍事的には、拠点の「一時的な奪取と無力化」は十分に可能というのが大方の見方だ。31MEUのような自己完結型の部隊は、敵の不意を突いて重要施設を制圧し、そこに臨時の防空拠点を築く能力に長けているからだ。
しかし、広大な島全体を長期間「維持・管理」するには、さらなる増援が必要となるだろう。今回の派遣の真の目的は、占領そのものよりも、イランに対し「いつでも喉元にナイフを突きつけられる」という強烈な抑止力を示すことにあると考えられる。
一方で、この軍事行動は、強烈な副作用をもたらす可能性が高い。イランは「生命線」であるカーグ島を占領されれば、死に物狂いの反撃に出るだろう。
ホルムズ海峡が完全に封鎖され、原油供給がストップすれば、世界のエネルギー市場はパニックに陥る。現在の原油価格が数倍に跳ね上がり、1バレル200ドルを超えるような事態になれば、日本を含む世界経済は、戦後最大の不況に直面することになる。カーグ島の占領は、イランを屈服させる手段であると同時に、世界経済を道連れにする「諸刃の剣」なのだ。
さらに、日本にとって懸念されるのは「インド太平洋地域の空白」である。 佐世保を母港とする「トリポリ」と沖縄の「31MEU」が中東に長期間張り付くことになれば、東アジアにおける抑止力が一時的に低下する恐れがある。ウォール・ストリート・ジャーナルなどが指摘するように、中東の火種がアジアの安全保障に直接的な影響を及ぼす時代に入ったと言える。
「トリポリ」がマラッカ海峡を抜け、すでに本日26日現在、イラン近海に到達したとすれば、「海兵隊のブーツ」がイランの領土を踏む準備を整えたことになる。21世紀のAI戦争がどのような結末を迎えるのか。その鍵は、沖縄から飛んだ2,500人の精鋭たちが握っている。
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