ぐるりと走る東京と大阪のエンドレス路線、比較して分かるその不思議な違い 知れば役立つ列車番号の豆知識も
東京と大阪のJRには、ぐるっと円を描くように走る環状路線が存在する。東の山手線と西の環状線だ。この二つの路線は、いずれも時計まわりに運行する線路を外回り、反時計まわりに運行する線路を内回りと呼ぶ。と、ここまでは同じなのだが、マニアックな見方をすると違うことがひとつあることをご存じだろうか。電車の形式やラインカラーが異なることではないことは先に申し上げておこう。鉄道愛好者ならば常識だ、と言われてしまいそうな話ではあるが、ちょっとした鉄道雑学に興味を抱いてみるのもいかがだろうか。
※トップ画像は、大阪環状線の内回り(京橋・大阪方面)を走る電車。大阪城公園駅で=2025年4月11日、大阪市中央区、撮影/神粼隆行
東も西も異なる路線がつながってできた混成線
1987(昭和62)年3月まで存在した日本国有鉄道(現JR)は、「赤字国鉄」と揶揄され、“行革”の代名詞とされていた時代もあった。そのような時代でも、東京の山手線と関西の大阪環状線は、大都市圏ゆえの乗客数に支えられ、営業係数(100円の収入を得るためにかかる経費)が100未満=黒字という超優等路線だった。
そもそも、両線ともに異なる路線がつながって環状線となった混成線であるが、東の山手線は、山手線という路線名は通称名であり、山手線、東北線、東海道線が結ばれてひとつの環状線を形成している。これに対し、西の大阪環状線は路線名が「大阪環状線」とひとつの路線名でありながら、その歴史は関西本線の一部と城東線、西成線の一部、大阪臨港線と異なる路線がつながって「大阪環状線」は誕生した。
山手線の環状運転の成立は、1925(大正14)年11月1日だが、大阪環状線は戦災復興都市計画により立案されたもので、1961(昭和36)年4月25日に環状運転を開始した。山手線の1周は34.5km、30駅に対し、大阪環状線の1周は21.7km、19駅で、この長さは山手線の品川駅〜新宿駅〜池袋駅〜田端駅(20.6km)とほぼ同じ距離感であり、いかに大阪環状線がコンパクトな周回路線であることがわかる。所要時間は、山手線が64分、大阪環状線が44分前後とされる。

内回りを走る山手線の電車。浜松町駅で=2025年10月29日、港区海岸
外回りと内回り、上りと下りはどっち!?
山手線も大阪環状線も、円の外側を走る路線を外回り、内側を内回りと呼ぶことに変わりはない。しかし、列車の走る方向を示す言葉には“上り”と“下り”がある。円を描くように走る環状路線に、果たして上りと下りという表現は存在するのだろうか。周回運転する電車にも上下の別は存在するのか。鉄道の話題でしばし登場する用語に「列車ダイヤ」、「列車運行図表」という言葉がある。ここに、上下線を示すヒントがあった。
中学二年で習う数学の教科書に出てくる「一次関数」のところで、必ずといってよいほど“列車ダイヤ”のはなしが登場する。誰もが一度は見聞きしたことがあるのではないだろうか。一次関数は、「YがXの関数であるとき、Xの値を決めるとYの値が一つに決まる」とあり、縦軸(Y)を駅=距離、横軸(X)を時刻として、列車のうごき(運行)をグラフ化することができる。列車ダイヤは、環状運転であろうと一方向への運転であろうと、必ず必要とされる鉄道アイテムだ。
一般的な認識としては、”列車は走っているもの”であり、いちいち上り、下りを気にする人は少ないだろう。例えば東海道新幹線でいえば、東京から西へ向かう列車が下り、その逆が上りなわけだが、「これから下ります」なんて言い方はせず、「新大阪まで行きます」と話す人が大半を占めているはずだ。そのような日常会話のなかで、環状路線を上下の別で表現したところで、周囲から理解を得られるはずもない。
鉄道路線の上りと下りを判別するうえでは、「列車番号」の末尾が偶数か奇数かが重要なカギとなる。具体的には、大阪環状線の場合は天王寺駅、山手線の場合は大崎駅を基準に上りと下りが決められ、天王寺から西九条、大阪、京橋へ向かう電車が下り、大崎から渋谷、新宿、池袋へ向かう電車が下りとなる。もちろんその逆が上りなわけだが、私たちの日常生活においては、どうでもよいの一言で片づけられてしまう話である。
山手線の外回り(下り)は列車番号が奇数なので下り、いっぽうの大阪環状線は外回りが“下り”にもかかわらず列車番号には“偶数”番号が付与されている。東西の環状線の列車番号が、正反対なことはあまり世に知られていない。昭和の時代、この矛盾について国鉄本社運転局へ問いかけたことがあった。答えは「なぜそうなったのかは、わからない」とのことだった。例外中の例外という珍しいケースなのだとか。

国鉄時代の大阪環状線の列車ダイヤの一部。駅名が並ぶ上から下に向かって下り、下から上に向かう方向が上り列車となる=資料所蔵筆者

こちらは、国鉄時代の山手線の列車ダイヤに示された駅名欄。左に書かれるカタカナは、電略と呼ばれ駅名略号=資料所蔵筆者
日常生活のなかの列車番号
日々の生活のなかで、列車番号に出会う機会は新幹線や特急列車の名称に付与される番号くらいだろうか。のぞみ33号や、なすの234号といった数字の末尾が、奇数が下り列車、偶数が上り列車を意味する。一般の鉄道でも、列車の先頭部に「03G」や「345M」、「63S」などと表示されているのが、列車番号である。じつのところ、この列車番号というものは優れもので、列車の中に忘れ物をしたときなど「”12G”の前から3両目の車内に紙袋を忘れた」と駅員さんに伝えれば、いち早く列車の特定ができることから捜索活動は断然はかどるというわけだ。
列車番号に関係するもののなかに、新幹線の乗客へのサービスとして2004(平成16)年6月まで行われていた「新幹線電話呼び出しサービス」があった。107に電話して「ひかり〇号の△号車に乗車中の〇〇さんを呼び出してほしい」と伝えると、その新幹線の車内では呼び出し放送が流れる。呼び出された人は、電話の設置されている車両へ行くと、通話ができるという優れものだった。無論このサービスは、携帯電話の普及とともに衰退していったことは言うまでもない。こうした日常生活のなかで、列車番号が認知されていた時代もあったのだ。

山手線の内回り電車に表示される列車番号「1462G」。4桁数字のうち14は起点となる大崎駅を出発する時間「14時」を示し、62はその列車に割り当てられた運用番号を示す。Gは山手線に付与された符号。浜松町駅で=2025年10月29日、港区海岸
文・写真/工藤直通
くどう・なおみち。日本地方新聞協会特派写真記者。1970年、東京都生まれ。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物に関連した取材を重ねる。交通史、鉄道技術、歴史的建造物に造詣が深い。元・日本鉄道電気技術協会技術主幹、芝浦工業大学公開講座外部講師、日本写真家協会正会員、NPS会員、鉄道友の会会員。
