記事のポイント 歴史ある香水ブランドの復活が進み、ドルセーをはじめ世界的に再生事例が増加している。 復活ブランドは数百年の歴史や伝統を活かし、ニッチな香水市場で本物感を提供している。 新興ブランドでも創業者の血統やルーツが信頼を生み、高額商品市場で優位に働いている。


アメリ・フイン氏は、父親が香水製造所で働いていたことから、自分のフレグランスブランドを立ち上げたいと考えていた。しかし、新しいブランドを構築するのではなく、既存のメゾンを活性化してフランスの香水の伝統を活かそうとした。2015年、フイン氏はフランスのブランド、ドルセー(D’Orsay)を買収し、2019年にはパリ左岸にブティックをオープンし、このメゾンを再開、ムスクとフローラルを組み合わせた「J’ai l’air de ce que je suis J.R.」などの新作を展開。2024年にはプランタンニューヨーク(Printemps New York)やステル(Stéle)などの小売店を通じて米国市場にも進出した。

「愛と鼓動に基づいているドルセーのDNAを維持した。これはとてもロマンティックだった。ドルセーのストーリー自体が素晴らしいと思った。実を言えば、ブランドを一新するために買ったわけではない。よりタイムレスにしたかった」とフイン氏は語る。

歴史あるブランドの再生という戦略



既存ブランドを新しいパッケージや香りでよみがえらせる手法は、特に2020年以降の香水ブームにおいて、フレグランス業界では珍しいことではない。2016年創業のフラー(Phlur)は2022年に再始動し、2013年創業のコモディティ(Commodity)も2019年の破産後、2021年に復活を遂げた。しかし、ドルセーの場合は元々の顧客層を頼ることはできない。資料によると、ドルセーの創業は1865年と古く、現在のドルセーの店は、その名を冠したアルフレッド・ドルセーが恋人マルグリット・ブレシントンのために香水を作った1830年にまで遡る。

フイン氏のもと、ドルセーは、コロナ後のフレグランスブームのなかで復活と拡大を遂げた数百年の歴史を持つ香水ブランドの仲間入りを果たした。ニールセンIQ(NielsenIQ)の2025年4月のデータによると、米国香水市場は2025年に98億ドル(約1兆3720億円)に達し、前年比20.1%の成長を示している。成功を収められれば、このような復活ブランドは長年存在しているブランド世界と数百年の歴史を活かし、ニッチな香水消費者が求めている伝統とオーセンティシティへの欲求に訴えかけることになるだろう。

名門ブランド復活が有利な理由



1221年創業のオフィチーナ・プロフーモ・ファルマチェウティカ・ディ・サンタ・マリア・ノヴェッラ(Officina Profumo-Farmaceutica di Santa Maria Novella)は、2021年にイタルモビリアーレ(Italmobiliare)に買収され、同年7月には元バレンシアガ(Balenciaga)の経営幹部リュディヴィーヌ・ポン氏がCEOに就任した。1760年創業の英国フレグランスブランド、クリード(Creed)は2023年にケリング(Kering)に38億ドル(約5320億円)で買収された。LVMHは、2014年に復活を遂げたオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー1803(Officine Universelle Buly 1803)を2021年に買収。1775年創業の仏ブランド、ウビガン(Houbigant)も2024年6月に初の路面店を開店した。

このような老舗ブランドは、デッドクール(Dedcool)、カヤリ(Kayali)、スニフ(Snif)などの新興香水ブランドとは対照的だ。新興ブランドは、現代的な香りのプロファイルと、グルマンやボディミストといったフォーマットを巧みに取り入れて成功を収めている。既存ブランドは、21世紀生まれのブランドほど現代性を取り入れてはいないかもしれないが、その存在は創業者が魅力的なストーリーを構築する上で優位なスタートを切る機会となる。

「もちろん新しいものを作ることもできるが、それは完全に新しい旅をはじめることを意味する。香りやボトルのデザイン、マーケティング戦略、流通戦略まで一から考え出さなければならず、成功するかどうかはわからない」と述べるのは、ベアード(Baird)のグローバルコンシューマー インベストメントバンキンググループのマネージングディレクター、ウェンディ・ニコルソン氏だ。「古いフレグランスを復活させたり、再び注力して前面に押し出すという発想は、非常に理にかなっている」。

フレグランス分野の独自性



伝統的なフレグランスブランドの復活は、ビューティ分野におけるこのカテゴリー独自の魅力を浮き彫りにしている。感情的な共感がイノベーション科学的進歩などの要素より勝ることがあるのだ。

「結局のところ、香水は感情や記憶に関係している」とニコルソン氏は述べる。「香りにはそういうはかない面がある。たとえば、最新のスキンケアブランドが重視しているような臨床的な裏付けなどよりも、香りによりどう感じるかが重要なのだ」。

ラグジュアリー業界における復活の系譜



しかし、ラグジュアリー業界では伝統的なメゾンを復活させることは古くからある手法だ。

「特にラグジュアリー業界では長寿性が重視される」と述べるのは、投資銀行オハナ・アンド・カンパニー(Ohana & Co.)のマネージングパートナー、アリエル・オハナ氏だ。「あらゆるブランドを復活させるというトレンドがある。フレグランス以前の最初の波は革製品だった。現在のフレグランス分野で見られるものの多くは、革製品分野での試みやいくつかの成功例からインスピレーションを得ていると思う」。

オハナ氏は、その成功例としてゴヤール(Goyard)を挙げる。1998年、ジャン=ミシェル・シニョール氏がフランスのレザーブランドを買収し、廃業していたレザー製品ブランドをベラ・ハディッドやファレル・ウィリアムズなどのセレブから愛用されるアイコニックなバッグブランドへと変貌させた。

受け継がれる系譜と伝統



もっとも、100年単位のブランド価値を活用するのは容易な道のりではない。ゴヤールがモノグラムバッグを再びファッション定番にするまでに10年以上の歳月を要した。イタルモビリアーレは、2020年にサンタ・マリア・ノヴェッラに初めて投資し、2021年には年間売上2260万ユーロ(約36億円)へと成長させた。しかし、このブランドを最初に復活させたのは、1989年に8億リラ(約7050万円)で買収した機械技師のエウジェニオ・アルファンデリー氏である。

「100年の歴史のあるブランドを持つということは、マーケティング面で1世紀を買うことだと考えているなら、それは違う」とオハナ氏は述べた。「それはひとつの世界を買うことだ。そのレガシーの魔法、歴史の魔法を買うのだ。(中略)しかし、それでも時間はかかる」。

投資家や複合企業は、活況を呈するフレグランス市場において、老舗ブランドを依然として魅力的な買収対象と見なしているかもしれないが、何百年も前に創業したブランドだけが伝統と信頼性を独占しているわけではない。ケリングボーテ(Kering Beauté)は2024年、2019年創業のニッチな香水ブランドであるマティエールプルミエール(Matiere Premiere)の少数株式を取得した。ブランド名は新しいかもしれないが、その香水の系譜は新しくはない。創業者オレリアン・ギシャール氏はグラース出身の7代目調香師だ。1本の香水に数百ドルも費やす消費者にとっては、この系譜は購入を左右するのに十分な理由となるかもしれない。

「香水はかなり高価だ」とフイン氏は語った。「香水に対して真剣に取り組まなければならない。伝統が信頼を生むと思っている」。

[原文:What’s old is new again: Why centuries-old fragrance brands are undergoing a revival]

Emily Jensen(翻訳・編集:ぬえよしこ)