福士加代子さんが語る「女性アスリートとアンダーウェア」【写真:荒川祐史】

写真拡大 (全2枚)

THE ANSWER的 国際女性ウィーク7日目「女性アスリートとアンダーウェア」福士加代子インタビュー前編

「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、さまざまな女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「スポーツに生きる、わたしたちの今までとこれから」をテーマに1日から8日までアスリートがインタビューに登場し、これまで彼女たちが抱えていた悩みやぶつかった壁を明かし、私たちの社会の未来に向けたメッセージを届ける。最終日となる7日目は陸上中長距離で活躍し、五輪に4大会連続出場した福士加代子さんが登場。前編のテーマは「女性アスリートとアンダーウェア」。胸の形や生理によって下着選びもパフォーマンスを引き出す上で大切になる女性アスリート。レース本番は毎回新品のブラジャーを着用していたという福士さんが、選手にとってのアンダーウェアへのこだわりと自身の考えを語った。(取材・文=長島 恭子)

 2004年アテネ大会から2016年リオ大会まで、4大会連続五輪出場。陸上中長距離の選手として数々の日本記録、アジア記録を塗り替え、「トラックの女王」と呼ばれた福士加代子さん。2022年1月30日、大阪ハーフマラソンを最後に選手生活の幕を下ろし、早くも1年以上が過ぎた。

「昨年はコロナ禍も落ち着いて、3年ぶりに全国各地でマラソン大会が開催されました。そのタイミングで競技を退いたこともあり、大会のゲストランナーに呼ばれる機会が多かったですね。

 あとは、本を出したり、講演会やオンラインイベントに出演したり。引退してすぐは、もっとダラダラした生活を送るのかなと思っていたんですが、いろいろな仕事をやらせていただきました」

 福士さんは高校卒業後、実業団の強豪ワコールに入社。社員選手として、同社陸上部で競技を続けた。インタビューの際、交わした名刺にあった現在の肩書は「ワコール女子陸上部 アドバイザー」――。「指導者見習い中でございます」と笑う。

「自分がチームで何ができるのかは模索中です。やっぱり、指導は難しい。自分で走っているほうがずっと楽ですよ。選手からの質問に対しても、言葉で返すよりも『とりあえず一緒に走ろうか!』っていうタイプ。若い選手たちから『わからないけれど、わかった気がします!』なんて言われます(笑)。言葉でうまく伝えられるよう、勉強中です」
 
 ゲストランナーや講演会の仕事を通じて、一般の方と交流する機会も増えた。女性に向けた、スポーツや健康情報の発信も積極的に行うなか、新たな交流から受ける気づきもある。

レースの本番当日に着けていたブラジャーは毎回新品だったワケ

「例えばイベントでは『走るときのブラジャーやランニングタイツは何を使っていますか?』という質問をよく受けます。あ、みんなそういうことに興味があるんだなぁと、発見でした。

 私は体の動きを重視するので、競技中に身に着けるものは、結構、細かく考える。例えばブラジャー一つとっても、その日の練習内容やスピードによって使い分けていましたし、肌当たりの改善点があれば、都度、会社に要望を伝えていました。

 レース本番ではワンポイントでも赤い色が入っている下着を身に着けるのもこだわり。昔、『赤を身に着けると集中力が高まり、体が温かくなる』と言われて以来、私の勝負カラーは『赤』です。レースは冬に多いし、寒がりだし、何より赤い下着を身に着けると『行くぞ!』って気持ちになりますからね」

 ちなみに本番当日に着けていたブラジャーは、毎回、新品だったとか。理由は「一番、胸の形がよくなるから」。

「私たちの競技は最後、胸の差で勝負が決まる。だから、意外と胸の形って大事なんですよ。昔、0.03秒差で日本記録を出した(2002年釜山アジア大会5000メートル)こともありますしね。そのとき『乳首3つ分の差で勝ちました!』ってコメントしたら、ものすごく話題になりましたが(笑)、そんなんで、最もへたれていない状態のブラジャーを着けるのもこだわりでしたね」

 ウェアによる動きの違いを繊細に感じ取るだけに、生理中も出来るだけ動きが制限されない方法を模索した。

「生理用品はナプキン派。(経血が多い日用の)でっかいヤツはどうも邪魔くさいのですが、それでもランニングタイツで抑えれば大丈夫かな、という感じだったんで。逆にタンポンは違和感がぬぐえず、ちょっと嫌でしたね。

 私の場合、競技の妨げになるほどの痛みもなく、経血量も多くなかったので、その点はラッキーでした。たまにレース当日にバシッと当たることもありましたが、レース中は不思議と出血が止まったし、生理で大変な思いをしたことはないんです」

 実は、実業団チームで走り始めてからずっと、月経不順だった。引退した今、やっと月1のペースで生理が来るようになったという。

「だいたい来るのは1、2か月に1回、しかも来たり来なかったりが当たり前でした。2、3日で終わることもあり、1か月に2回、来ることもあった。後から考えると、おりものの量が変わるなどの予兆はありましたが、いつ来るか、本当に読めなかったので、遠征に行くときは常に準備をしていきましたね」

月経痛に苦しむ先輩の姿を見たことで婦人科系の検査は定期的に受検

 初潮は中学2年生のとき。「中2、中3で生理が来なかったらやばい」というウワサを耳にしていたので、「あ、来た! セーフ!!」と思った。

「思春期の月経について覚えていることは、それだけです。実業団に入り、月経不順になっても、若い頃は不安どころか『今月は来なくてラッキー!』ぐらいにしか思っていなかったですね。

 思えば、レースが続いた時期や、骨折が多かった時期ほど、遅れたり、間が空いたりした気がします。『生理が来なくなったかもしれない』と感じたことも、1回ありましたね。それでも、3か月以上、来なかったことはなかったし、深く考えなかったと思います」

 とはいえ、これまで月経不順を放置していたわけではない。福士さんは、月経痛に苦しむ先輩の姿を見たことがきっかけで、婦人科系の検査は定期的に受けるようになった。

「出血多量で死ぬんじゃないかって思うほど経血量が多く、痛みも強い先輩がいて、生理休みも取っていました。その方から、(生理のとき)子宮がちょっと収縮すると聞き、へえー! っと思って。体は調べておくといいよ、と言われ、婦人科系の検査をするようになりました。

 検査の結果、医者から『月経不順でも、健康体だから大丈夫ですよ』と言われたので安心しました。それから、ちょっと不安に感じることがあっても、チームのスタッフや女性の栄養士さん、会社の健康保険組合の医療機関の方に相談できたり、見てもらったりもできた。そういった環境下で、競技を続けられたことも良かったと思います」

(後編に続く)

■福士 加代子 / Kayoko Fukushi

 1982年3月25日生まれ。青森県出身。五所川原工業高で陸上を始め、卒業後に入社したワコールで頭角を現す。2002年、5000メートルで日本人女子初の14分台をマーク。以後、3000メートル、5000メートル、ハーフマラソンの日本記録を塗り替える活躍で「トラックの女王」と呼ばれた2008年からマラソンに挑戦し、2013年世界選手権モスクワ大会では女子マラソンで銅メダルを獲得。五輪は2004年アテネ大会から4大会連続出場を果たした。2022年1月30日、大阪ハーフマラソンを最後に引退。現在、ワコール女子陸上競技部スパークエンジェルスのアドバイザーを務める。著書に「福士加代子」(いろは出版)。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。