企画は3勝2敗でちょうどいい『アメトーーク!』名プロデューサー 加地倫三氏が明かす負けの美学 - 放送作家の徹夜は2日まで

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※この記事は2021年03月31日にBLOGOSで公開されたものです

放送作家の深田憲作です。今回は「テレビ史に残る2つの人気番組を手掛ける演出家」について書いてみたいと思います。

YouTubeで人気の「本の要約チャンネル」を“テレビマンの本でやってみるコラム”の第4弾。

これまで『水曜日のダウンタウン』を演出するTBS局員・藤井健太郎さん、『マジカル頭脳パワー‼』『エンタの神様』などを演出してきた元日本テレビ局員・五味一男さん、映画『おくりびと』の脚本や『くまモン』の生みの親として知られる放送作家・小山薫堂さんについて書かせていただきました。

今回はテレビ朝日局員の加地倫三さんの『たくらむ技術』という本です。

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加地さんは『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』『テレビ千鳥』などを手掛ける演出家。この3月で52歳になられたそうです。

メディアで取材されることも多く、番組の中でもよく名前があがり、画面に映りこむことが多い方なのでみなさん1度は目にしたことがあるのではないでしょうか? ちなみに有吉弘行さんからは「おしゃれガイコツ」というあだ名をつけられています(笑)。

バラエティを手掛ける現役のテレビ局員の演出家としてはTBSの藤井健太郎さん、テレビ東京の佐久間宣行さん、そして加地倫三さんが世間的にその存在を知られているBIG3かと思います。(佐久間さんはこの3月でテレビ東京を退社されますが)

僕は加地さんの部下にあたるテレビ朝日局員と番組をやらせていただいた時に、加地さんが番組のプロデューサーとして参加。会議をご一緒したことはありますが、その時の関わり方は監修という立場でしたので演出としての加地さんの仕事ぶりは目の当たりにしたことがありません。

加地さんの部下の局員に「加地さんってどんな人? ヘンな人? 怖い人?」と聞いてみたところ「めちゃくちゃ常識人ですよ」と返ってきました。

ぶっちゃけてしまうと、今の50代以上の世代の優秀なテレビ演出家はオラオラ系の剛腕タイプが多く、後輩からは「あの人とはもう仕事はしたくない」と思われているケースが少なくないのですが、加地さんはそういうタイプの方ではないようです。

TBSの藤井健太郎さんやテレビ東京の佐久間宣行さんの評判も同じく、後輩から疎まれるような人たちではないみたいです。これは時代性なのでしょうか。

40代の放送作家の先輩は「昔のディレクターはみんな怖かったよ~」と口にします。かつて、演出家として現役バリバリの頃のテリー伊藤さんがキレて暴れた的な伝説はよく聞きますし、お笑い色の強い番組の会議では議論が白熱して喧嘩みたいになることもあったという話もよく聞きます。(誤解なきように説明しておきますと、テリー伊藤さんが後輩から疎まれていたという話は僕は聞いたことがありません)

僕が放送作家を始めた12年前はまだその世代の方々がギリギリ現役でやられていたため、いわゆる“怖い会議”というのはありました。

僕もとある番組で企画案を資料で提出した時に「この企画のどこが面白いの?言ってみろよ、なあ?」「これのどこが面白れえんだよ」と詰められたことがありました。(今でもその方のことは恨んでいませんが)

今の30代以下の世代でそんな怖い人はほとんどいないと思います。いたとしてもパワハラでどこかへ飛んでいってしまいますし(笑)。

話が逸れてしまいましたが『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』『テレビ千鳥』といったお笑い好きの視聴者への求心力が高い番組を手掛けている加地さんが、どんなマインドで番組作りをされているのか?

テレビ業界以外の方も興味深いことと思いますが、この本を読むとテレビマンでなくとも役立ちそうな仕事術の数々が綴られていました。

「運動神経悪い芸人」は元々違う名前だった

加地さんはテレビ作りについて「自分の仕事を饅頭作りの職人さんのようなものというイメージで捉えている」と書いているのですが、まさに細部へのこだわりは職人そのものでした。

『アメトーーク!』といえば「○○芸人」というくくりのテーマが印象的ですが、人気シリーズとなっている「運動神経悪い芸人」は、元々は「運動オンチ」というフレーズで進めていたのを「運動神経悪い」というフレーズの方が番組らしくて面白く感じるため、タイトルを変えたと書いてありました。

このように、視聴者にとっては変哲のないワードだと思っているものでも、こだわりを持って考えているようです。

ワードのチョイスでいえば、編集で入れるテロップへのこだわりも書かれていたのですが「運動神経悪い芸人」を例にこんな説明をされていました。

「1人の芸人さんが「あの時、俺の右足がグニャっとなっちゃったんです」と言って爆笑をとった場面があるとする。この言葉をそのまま文字にすると23文字。これはテロップとしては長くて読みづらい。それに1行では長いので2行に分けなければいけない」

この場合、加地さんがテロップを入れるなら「俺の右足がグニャ‼」と9文字で入れると。

「テロップは短い方が好ましいが、これが「グニャ‼」だけだと芸人の言葉のリズムや間の取り方がズレてしまい面白さを殺してしまう。持論としてテロップは読ませるものではなく、見せるものと思っているから、自分ならこういうテロップにする」と書いてあります。

さらにはこの「俺の右足がグニャ‼」のテロップをどんなタイミングで出すのか? その文字をどのフォントにするのか? 文字の大きさをどうするのか? 文字をどの色にするのか? など、1つ1つのテロップに意図と意味を持って演出をされているようです。

0.1秒のトークの間を考えて編集される『アメトーーク!』

視聴者の方からすればトーク番組の編集は簡単に見えるかもしれません。
「芸人のしゃべった面白い部分を繋げばいいんでしょ?」と。決してそうではないことが分かる記述をご紹介しましょう。

「あるエピソードトークで爆笑が10秒続いたとする。そのうちの3秒が大爆笑で残り7秒が余韻の笑い。ここでつい編集者(ディレクター)はこの7秒をカットして次のトークに移ってしまいがちだが、それだと視聴者が笑い終わって落ち着く前に次のトークが始まってしまう」

つまり、次のエピソードトークの大事なフリの部分をしっかりと聞くことが出来ず、トークの面白さを半減させてしまう。便宜上、10秒とざっくりな表現で説明をしていますが、実際には0.1秒の間の違いも考えながら編集をしているそうです。

さらにはエピソードトーク中のカット割りにも細かな演出がなされており「ここではこの人の顔のアップ」「次は違う人の顔のアップ」「その後にお客さんのリアクション」といった具合に目まぐるしくカットを切り替えています。

この本によると『アメトーーク!』では1回の放送でおよそ1200カット、2秒半に1回カットを変えている計算になるそうです。
(今度アメトーーク!を見る際に意識していただけるとそのスピード感が分かると思います)

僕もテレビ業界に入りたての頃は「テレビ番組の編集ってなぜそんなに時間がかかるの?」と不思議でした。編集作業を行うのはディレクターのため放送作家は編集がどれほど大変な作業かを実感として分かっていませんが、僕はあるディレクターから「放送する1分の尺を編集するのに作業は1時間くらいかかる」と言われたことがあります。「饅頭作りの職人さん」という例えも腑に落ちますね。

企画は3勝2敗、あえて負けを作る

この本にはこういった番組作りの演出面だけでなく、レギュラー番組を毎週放送していくうえでの運営面でも大変勉強になる記述が多くありました。

中でも面白いと感じたのが「番組の企画は3勝2敗くらいのペースでいい」という考え。

これはどういうことかというと…まず勝ち負けの定義は「1度やって評判の良かった企画の第2弾」「好結果が期待出来そうな新企画」「企画段階からゾクゾクする企画」を“勝ち”とし、「一部から強く支持されそうだけど外すかもしれない企画」「かなり冒険的な企画」を“負け”とする。
(加地さんが言う“負け”とはダメな企画という意味ではない、と述べています。想像するに『アメトーーク!』の「あぶら揚げ芸人」などが負け企画でしょうか笑)

勝ち企画ばかり続けていると飽きてしまう。美味しい焼き肉であっても毎日食べたら飽きてしまうように。トータルで勝ち越すためには一定の負けが必要だと述べられています。

放送開始からずっと順風満帆に面白くあり続けているように見える『アメトーーク!』ですら、加地さんからすると危機を感じた時期があったようです。 番組の危機を察知するためには失敗することが必要で、3勝2敗ペースであえて負けを作ることで大失敗をしないために小失敗をする。

この考え方で企画のラインナップを組んでいると言います。『ロンドンハーツ』『アメトーーク!』とおよそ20年にもわたって2つの長寿番組を同時に運営してきた加地さんだからこその重みのある言葉だと思いました。

そして、番組の運営だけでなく、個人が成長するためにも失敗は必要で「怒られたら喜ぶべき」と述べています。

野球に例えて「空振り三振の場合はバットを振っているからフォームがチェック出来る。見逃し三振だとそれが出来ない」と書いていました。

下ネタで会議を沸かせていた若手時代

成功者の方に共通する点ですが、加地さんもただテレビマンとしての才能があっただけの人ではないようで、下積み期間であるAD時代に先輩から仕事を頼まれた時には、頼まれたことプラスアルファで何か出来ないかということを常に考えていたそうです。

例えば「コーラを買ってきて」と言われたらポテトチップスやお菓子の1つでも添えて出す。先輩のディレクターがやる編集を「仮編集を僕がやっておきます」といって自分から仕事を請け負うなど。

元々はスポーツ局担当で27歳の時、バラエティ局に配属された加地さんは、当初は場になじめずに半年ほど悩んでいた時期があったそうです。

加地さんがそれを打破したのは、下ネタだったとか。何を話しても笑ってくれなかったバラエティの先輩たちが下ネタで笑ってくれることに気づいた加地さんは、ネタを仕入れるために雑誌を買い、キャバクラやオトナのお店に自腹で通ってはそこで得たネタを先輩に話すことで「芸人と飲みに行く時は加地を連れて行こう」「今度の飲み会を仕切ってよ」「お前は夜のチーフディレクターだ」というポジションを獲得したそうです。

こういった姿勢がバラエティの細かい演出にも繋がり、テレビ史に残る2つの名番組を生み出し、それを長年継続出来ているのだなと思いました。
「加地さんはバラエティ演出の才能があったんだね」「頭がいい人なんだろうね」と才能だけで語るのは失礼なのかもしれません。

これらはテレビ業界の人以外にも響く仕事の教訓なのではないでしょうか。

改めまして加地倫三さんの『たくらむ技術』。気になった方はAmazonでご購入をお願い致します(笑)

深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
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