似鳥昭雄の天才的親父ギャグ「お、ねだん以上。」が生まれた全舞台裏
■親父ギャグを交えて「お、ねだん以上。」の話し方
北海道のインテリア専門店であった「ニトリ」を全国チェーンに育て上げ、新型コロナウイルスの感染防止による外出自粛をものともせず、売上高や利益を伸ばし続け、小売業界の風雲児として改めて脚光を浴びているのが、創業者でもある似鳥昭雄・ニトリホールディングス会長だ。

ところがハリウッド大学院大学教授の佐藤さんによれば、カリスマ経営者という世間のイメージとは裏腹に、「気さくで、親しみやすい北海道のおじさん」といったキャラクターなのだそうだ。話しぶりも庶民的で、「誰からも好かれ、敵をつくらないタイプですね」と佐藤さんは評する。
佐藤さんは、国際パフォーマンス学会で似鳥会長に講演をお願いしたところ、「創業した当時は知名度が低く、信用もまだなかったので、1店舗しか営業していなかったのに、看板に『支店』と表示し、お客さんには『東京のほうに本社があります』などと適当に説明して、会社を大きく見せようとした」といったエピソードが飛び出し、深く印象に残っているそうだ。
「確かに客観的に見れば褒められた話ではないものの、そうした話も包み隠さず、オープンにしてしまうところが正直で、似鳥さんの飾らない人柄を表しています。そして、聞いている人の心を鷲摑みにしてしまうのです」と佐藤さんは話す。
また、似鳥会長はサービス精神が旺盛で、スピーチをするときは、「奇想天外な話で場を盛り上げ、相手を笑わせるのが大好きなんです」と佐藤さんは明かす。そのため、ときにはうけ狙いで、お笑い芸人のように話を膨らませたり、盛ったりすることもあるものの、「明らかに冗談とわかることをいうので、罪はないんです」と佐藤さんはフォローする。
似鳥会長は話術が巧みなだけに、言葉のセンスも抜群なようである。その好例が、「お、ねだん以上。ニトリ」という、お馴染みのキャッチコピーだ。社内公募から選ばれたのだが、最終決定をしたのはもちろん似鳥会長である。「とりわけ、『お、ねだん以上』の後に、説明的な言葉を入れていないのがミソだと思います。安いのはもちろんのこと、ちょっと付加価値もあるのかなと、相手に想像させる。とてもユニークな言葉遣いのセンスが表れています」(佐藤さん)。
■100店舗掲げたアナウンス効果
そうした似鳥会長ではあるが、「経営トップは、明るくなければならない」という哲学を自ら打ち立て、自身も明るく振る舞うように心がけているように見える。なぜなら「明るい人は、未来に希望を持つので、ビジョンの達成まであきらめないし、周りに人が集まってくる。だから、成功しやすい」と、似鳥会長は自叙伝でも説明しているからである。
また、似鳥会長は「100店舗、売上高1000億円、1店舗の敷地面積1000坪、坪当たり売り上げ100万円、1店舗の売上高10億円、社員の給料1000万円、社員の持ち株1億円」という経営目標を掲げ、ことあるごとに社員に言い続けたそうである。まさしく孫会長の「アナウンス効果」にも通じる取り組みといえよう。ニトリの成長には、似鳥会長のそうしたパフォーマンスも、大いに寄与してきたといえるだろう。
一方で、決算発表や記者会見といった改まった公式の場では、ユーモア溢れる普段の似鳥会長は、姿を隠してしまうようだ。デジタルハリウッド大学教授の匠さんは「似鳥さんは、デフォルトモードでは両手を固定したオープンスタイルで、意志の強い人だと思われます。ただし、話を聞いているときは、首をよく動かして頷いたりしているので、相手からの共感は得やすいでしょう」と分析する。
ともあれコミュニケーションを取るときに、明るさとユーモアを忘れず、経営を成功に導いてきた似鳥会長のスタンスには、大いに学びたい。
(ジャーナリスト 野澤 正毅 撮影=柳井一隆)
