世界中のエアラインが大赤字を計上するなか、大韓航空は黒字を計上した


 2020年8月6日、韓国の大韓航空が「サプライズ」の4〜6月決算を発表し、証券市場や産業界を驚かせた。

 新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で主力の国際線が111路線中29路線だけしか運航できなかったにもかかわらず、営業黒字転換を果たしたからだ。

 とはいえ韓国の航空業界には、「これからが問題」という声が支配的だ。

 大韓航空の2020年4〜6月期の売上高は前年同期比44%減の1兆6909億ウォン(1円=11ウォン)、連結営業利益は1485億ウォンだった。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

予想を超えた黒字額

 同社は、前年同期に1014億ウォンの営業赤字、2020年1〜3月期にも566億ウォンもの営業赤字を計上していた。

 ところが、営業利益ばかりか純利益も1624億ウォンを計上し、黒字転換した。

 実は、大韓航空の4〜6月期決算は善戦するとの事前予想が多かった。それでも「予想をはるかに上回る黒字額」(大企業役員)という声が多い。

 4〜6月期は、新型コロナの流行で国際線の欠航が相次ぎ、世界中の大手航空会社が巨額の赤字に陥っていた。いったいどうして大韓航空は、黒字転換できたのか。

 いくつかの理由がある。

 原油価格の低迷で燃料代の調達コストが削減できたこと、航空貨物事業が比較的好調だったこと、韓国は、新型コロナ対策が比較的うまくいったため、国内線需要が回復したこと・・・。

急速な貨物シフト

 旅客事業は輸送実績が前年同期比で9割減となったが、航空貨物事業は1兆2259億ウォンの売り上げを稼いだ。

 前年同期比で94.6%増と、ほぼ倍増させた。

 航空機の乗客用の座席を取り払って貨物を載せるなどの営業努力で、全売上高の7割を貨物事業で占めたことになる。通常は2割程度で、「貨物シフト」が奏功した。

 さらに「人件費削減」も大きな効果を上げた。

 大韓航空はもともと2019年秋から「日本製品不買運動」の影響で日本向けの航空需要が急減したことを受けて一部の機内職乗務員を対象に「無給休職」を募集していた。また、役員数も3割ほど削減していた。

人件費圧縮

 新型コロナの流行で航空需要が急減するや、いち早くこうした措置を拡大していた。

 4月以降は機内職乗務員全員を対象にローテーション方式で「有給休職」に入っていた。休職者は7割に達していたという。

 ここで大きな役割を果たしたのが、政府が支給する「雇用維持支援金」だ。

 有給休職でも無給休職でも、人員削減をしない場合は、政府が企業を支援する。

 大韓航空の場合、「有給休職」の場合、通常賃金分を支給した。この場合、政府は支給分の90%を6か月間支援する。

 人件費の圧縮に早めに手を打ったことで、4〜6月期は大幅なコストダウンになった。

 大韓航空は年内4兆ウォンの借入金返済期限を控えている。財務強化も緊急課題だが、こちらも政府支援が切り札だ。

 6月に政府系の韓国産業銀行などが1兆2000億ウォンの支援をした。さらに近く、政府の新型コロナ対策である「基幹産業支援金」を1兆ウォン申請する予定だ。

 自助努力として機内食事業と機内免税店事業の売却を決めた。増資計画も進めており、合わせて2兆ウォンを調達する。

 資産売却、政府支援で何とか新型コロナの難局を乗り切ろうとしているが、先行きは不透明だ。航空貨物の市況が4〜6月に比べて下がるとの見通しも出ている。

これからが問題

 黒字転換したことで、我慢に我慢を重ねている従業員の協力がどこまで続くのか。

 世界的に航空産業の先行きが厳しさを増す中で、機内食事業などの売却と増資が思惑通り進むのか。

 さらに、大韓航空は、現会長と実姉である「ナッツリターン姫」との経営権をめぐる紛争も抱えている。

「サプライズ決算だったが、問題はこれからだ」

 韓国紙デスクはこう話す。

アシアナは視界晴れず

 業界2位のアシアナ航空も貨物シフトや人件費圧縮を進めているが、視界は全く晴れない。

「再精査を要求しているが、いったいその意図はどこにあるのか。契約が流れた場合、その責任は向こうにある」

 8月3日、韓国の国策銀行である韓国産業銀行の李東傑(イ・ドンゴル=1953年生)会長はリモートの記者会見でこう語気を強めた。

 韓国第2位の航空会社であるアシアナ航空は経営悪化から、いま実質的には産業銀行の管理下にある。

 2019年11月にアシアナ航空は、建設大手のHDC現代産業開発に2兆4000億ウォンで売却することが決まり、すでにその1割にあたる2400億ウォンの支払いも終わっている。

 ところが、資産精査のさなかに新型コロナの流行が始まった。

 もともと今回の買収については、「金額が高すぎる」「シナジー効果が見えない」などの懸念もあった。そこへ、この事態だ。

 最終契約はどんどん遅れる。しびれを切らした韓国産業銀行は、HDC現代産業開発のオーナー会長との直談判を目指す。

 ところが、鄭夢奎(チョン・モンギュ=1962年生)会長側はこれを避ける。

買収交渉は決裂か

「書面による交渉」を主張し、繰り返し、「再精査」を求める。

 誇り高き韓国産業銀行としては、こういう「無視」扱いは慣れていない。感情的なこじれもあり、交渉決裂の可能性が高まっている。

 そもそもアシアナ航空は、経営悪化で実質的な銀行管理になっていた。新型コロナの影響で打撃を受けている。大韓航空と同じく、人件費圧縮などで何とかしのごうとはしているが、簡単ではないとの見方が強い。

 当面の資金繰りについては、2019年と2020年に韓国産業銀行などが1兆4000億ウォンずつを融資し、なんとか息をついた状態だ。

 とはいえ、逆の立場になってみれば、いま、2兆4000億ウォンも出してアシアナ航空を買収したら、HDC現代産業開発の屋台骨さえ揺るぎかねない。

一時国有化案

「一時国有化」

 いま、産業界では、アシアナ航空について、こんな見方が広がっている。

 雇用や周辺産業への影響を鑑みて、法的な処理はできない。とはいえ、すぐに新たな買い手が現れるとも思えない。

 韓国産業銀行が支援しながら何とか生き残る。こういう方向だ。

 だが、航空業界には、アシアナ以外にさらに7社ものLCC(低価格航空会社)がある。

 そのうち最大手の済州(チェジュ)航空は8月5日、4〜6月期の決算発表をした。

 売上高が360億ウォン、営業赤字が847億ウォンだった。前年同期実績と比較すると売上高は9分の1に減少し、営業赤字額は3倍に膨らんだ。

 大韓航空と異なり、航空貨物事業がない。日本や中国路線の依存度が高い。さらに旅客数の多いソウル⇔済州島路線は、需要は回復したものの他のLCCを含めての競争が激化して「儲かる路線」にはならなかった。

LCCはどう生き乗るのか

 済州航空は、韓国のLCCとしては最大手の1社だ。別のLCCであるイースター航空を買収することが一度決まっていた。

 ところが、イースター航空の業績が急速に悪化して、従業員への賃金未払いが起きた。また、創業者が与党の現職国会議員で子供への不透明な経営権継承問題などが起きた。

 済州航空は、「買収のための前提条件未達」として撤回を表明した。

 韓国メディアは、イースター航空の経営破綻の可能性を報じている。さらに、アシナ航空子会社であるエアソウル、エアプサンは、一括売却のはずだったが、暗礁に乗り上げてしまった。

「アシアナ一時国有化」の後で切り離して売却する案などが浮上していると言われるが、それまで経営が持つかが問題だ。

 韓国政府は、航空業界については最大限支援する方針だ。

 雇用維持支援金についても180日という期限が切れた後も延長する方向で調整中だ。また、LCCに対しても必要な支援を惜しまない方針だ。

 それでもLCCの先行きはきつい。

 そもそも2019年夏からの「日本製品不買運動」で経営が悪化していた。もともと体力がないし、貨物事業もない。

 政府の支援があるとはいえ、これだけでしのげるのか。何とか自力での生き残りを目指すが、増資計画が頓挫する会社が出るなど取り巻く環境は厳しい。

 大韓航空の黒字転換というサプライズの一方で、韓国も多くの航空会社の経営は瀬戸際にある。

筆者:玉置 直司