イスラエルの最先端「ICT農業」に、ニッポン農業の未来はあるか

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ほとんど雨が降らないイスラエルが有数の農業輸出国に
 イスラエルという国に、どんなイメージをお持ちだろうか。日本人の目からは、軍事国家の側面が強いのかもしれない。常に周辺のアラブ諸国と緊張関係にあり、核保有も疑われている。

 最近では、スタートアップ大国でハイテク分野でのイノベーションが盛んなことも知られるようになってきた。だが、イスラエルが、世界有数の「農業輸出国」である事実は、日本ではあまり知られていないのではないか。

 イスラエルの国土は狭い。だいたい日本の四国と同じくらいだ。しかも国土の6割ほどが砂漠で、国の南側はほとんど雨が降らないそうだ。北側に行くほど降水量は増えていくが、やや北寄りにある首都テルアビブの年間降水量は東京のおよそ3分の1。それも雨季の3カ月に集中して降ってしまい、残り9カ月はほとんど降らない乾季となる。

 さらに、土壌にほとんど養分が含まれていないのだという。普通に考えたら、こんな条件で農業をやろうとは考えないだろう。それでもイスラエルは毎年一定量の農作物を収穫し、人口が少なく国内の需要に限りがあるため、せっせと他国に輸出している。どういうことだろうか?

 『日本を救う未来の農業』(ちくま新書)に、その答えがあった。同書では、「農業テクノロジーのグローバルリーダー」とも呼ばれるイスラエルの先端的なICT農業を紹介し、日本農業の発展に役立てる術(すべ)を探っている。そう、イスラエルは、農業には圧倒的に不利な諸条件を克服するために、最新のテクノロジーを大胆に取り入れた農業を展開しているのだ。

あらゆる農業テクノロジーの基盤「ドリップ灌漑」
 イスラエル農業の根幹を支えるのが「ドリップ灌漑(かんがい)」(drip irrigation)だ。農地に小さな穴が等間隔に開けられたチューブが張り巡らされ、穴からポタポタと点滴のように水を出して植物に水をやるシステムである。チューブには、水圧が一定になるような加工が施されている。

 直接根を狙って水滴を落とすため、水がほとんど無駄にならない。与えられた水がどれだけ作物に吸収されたかを示す水利用効率でいうと85〜95%だ。日本の灌漑の多くは、水田のように一気に水を流し込むflood irrigationが一般的だが、これでの水利用効率は40〜60%にすぎない。

 なお、チューブの中身に液体肥料を混ぜると、水やりと同時に施肥もできる。この場合は「ドリップ・ファーティゲーション」(drip fertigation:点滴施肥灌水)と呼ばれる。

 だが、こんなふうにアナログなドリップ灌漑を真っ先に挙げると、「どれだけ先端的なんだろう」と期待した人には拍子抜けかもしれない。実はこのドリップ灌漑は、イスラエルの不利な降雨条件と土壌の問題を一気に解決するだけでなく、以下に紹介するクラウド農業やAI(人工知能)農業の基盤となる技術なのだ。

 クラウド農業とは、文字通りインターネット上の「クラウド」を活用した農業である。IoT農業と呼んでもいい。イスラエルの耕地には、ドリップ灌漑システムだけでなく、数多くのセンサーが設置されている。それにより、土壌の温度、土壌水分、肥料濃度、pHなどがリアルタイムにモニタリングされ、クラウドに送られる。

 それらに上空からの衛星画像や、天気予測データが組み合わされ、「明日はどのエリアが水不足になるか」「どのエリアに重点的に窒素を施肥した方がよいか」といった判断が自動的になされ、ドリップ灌漑やドリップ・ファーティゲーションを使って、やはり自動的に実行される。

 こうしたクラウド農業は、今やイスラエルでは当たり前になっているそうだ。そして、『日本を救う未来の農業』によれば、10年後ぐらいには「AI農業」に進化している。